第23話 第二回大試食会

 「そんなわけでですねぇ〜。」


 何かを誤魔化す様に言い含むアレクにニーナは


 「まぁ、二人がそれでいいならいいんじゃないかしら? 私が余り口を挟む事でもないでしょ? 戦力的には大幅な強化なんだし歓迎こそすれ特に問題はないわよ。」


 ほっと一息するアレク


 もはやどちらが眷属なのか分からない始末である。


 「それはそれとして、何故こんなに街が騒がしいのかしら?」


 「それはですねぇ〜......」


 「正直に言ってごらんなさい?」


 口元は笑っているが、目が完全に氷点下の冷たさを放っているニーナ。


 アレクははぁと溜息をついて渋々話し出した。


 「そのですね...... 幼女ちゃんがですねぇ〜」


 「沸きらないわねアレク。正直に吐いて楽になりなさい! それとも私が無理やり口をこじ開けたらいいのかしら?」


 そんな事をされたら間違いなくスプラッター状態になると怯えるアレク。


 「ドラゴン状態のパルムちゃんの背中に乗って空を飛びたいと言い出してですねぇ。そのまま街の上空まで入ってしまったんですねぇ〜。」


 離れた位置でゲインが笑いを堪えている。


 ニーナはゲインに軽く睨みを聞かせる。


 手でごめんごめんとするゲイン。


 「何故街の中にまで飛んで入ったのかしら? 二人が街の手前で降りればよかったんじゃない?」


 「そうなんですねぇ。遂勢い余って行き過ぎてしまってそれから竜を見た人が大パニックになってしまったんですねぇ。」


 「それは当たり前でしょ? アレクが付いて居ながら全く何をやってるのよ!」


 「面目次第も無いんですねぇ。」


 と言ってもやってしまったのは仕方ない。


 何とか事態を収めないといけないのも事実である。


 「ゲインどうにかならないかしら?」


 いきなり話しを振られたゲインは俺がか?と自身に指を刺して苦笑いを浮かべている。


 「別にいいのよ? そういえば商人ギルドが確か薬草が不足してるって言ってたわね。納品しましょうか?」


 前回のニーナの凶行を思い出し顔が更に渋くなるゲイン。


 「出来る限りの事はするが保証は出来ないぞ。」


 「それでいいわよ。後は飼主の責任として私がどうにかするわ。一応案はあるのよ?」


 「へぇ〜 それはどんな奴だ?」


 「前回とやつよ。」


 「あぁ、確か試食会というやつか?」


 「人は美味しい物を食べれば大概の事は忘れるわよ。」


 こうも堂々と言われると呆れるしかないが、ニーナには何やら勝算があるのだろう。


 「まぁ嬢ちゃんがそう言うならそうするしかないだろ。」


 アレクは飼主の部分でショックを受けていたが一切止めずに混乱に加担している側なので一切のフォローはしない。


 少しは反省しなさいと思うニーナだった。


 「私の方は用事も済んだからいつでもいいんだけど、首尾はどうなの?」


 「そうだなぁ〜 嬢ちゃんが言った材料はもう大方揃ってる。後は宣伝だな。」


 「分かったわ。じゃあ宣伝の期間も含めて3日後にしましょう。」


 こうして第二回大試食会が3日後に開催される運びとなった。


 アレクやエリスはパルムに乗り商人ギルドが作ったビラを空から巻きに行かされたのは仕方のない罰になったのであった。



 三日後


 商人ギルドの前には大行列が出来ていた。


 商人ギルドの看板にはマヨネーズ開発者ニーナの大試食会会場と書かれた巨大な垂れ幕が掛かっている。


 今回は前回参加した商人に散々自慢された商人達も大挙押し寄せている。


 商人たる者が情報に乗り遅れて参加を逃したというのが相当堪えたらしい。


 それにドラゴン騒動のお詫びも兼ねてニーナは街の人にも今回無料で参加を許している。


 大試食会の域を超えて街中が一種お祭り騒ぎの様相を呈している。


 屋台の人達もこの流れに便乗しますしようとあちらこちらに屋台が並んでいた。


 誰が作ったかニーナ様御用達の看板まで作って販売している者も居る。


 本来ならニーナも一言位は物申したいが今日は迷惑を掛けた事もあり珍しく無礼講であった。


 ギルド職員も商人の順番整理やら会場の準備に大忙しだった。


 試食会が終わったら今日も間違いなく徹夜でしょうねと少しギルド職員に対して気の毒に思うのだった。


 前回よりも大規模に敷設された会場の中は人の熱気でむせ返っている。


 まるで今からアイドルのライブでも始まるのかという勢いだ。


 エリスはニーナに


 「お姉様、本当に大丈夫でしょうか?」


 「何の事かしら?」


 「これで失敗でもしたら......」


 「エリス、貴女は誰に何を言ってるのかしら? 私が失敗? ふん、あり得ないわ!」


 「流石はお姉様です。」


 不安な顔から一瞬でキラキラした目でニーナを見るエリス


 そんな姿が若干気に入らなかったのかパルムは皮肉気に


 「人風情がどれ程の腕前か楽しみにしておるのじゃ。」


 「美味しさで鱗が全部剥がれないといいわね?」


 挑戦的な自信が漲る悪い笑顔で応戦するニーナ。


 二人の間にはバチバチと火花が散ってるようだった。


 「しかし、少女ちゃんはいつにもまして凄い自信ですねぇ。」


 「当たり前でしょ。すると最初から分かっていることで何故私がビクビクすると思うの? 寧ろ歓喜の余り死人が出ないかの方が心配だわ。」


 こうまで言われるとアレクももはや言う事は無い。ニーナがここまで言ってるのだから間違いないなだろう。


 「始まりますね。お姉様頑張って下さい!」


 エリスの応援に余裕よと返してニーナは敷設された会場のど真ん中に進んでるいった。


 ギルド職員のニーナの紹介でニーナは一段高くなった壇上に上がる。


 歌い出しそうな雰囲気だがニーナはアイドルと言うわけではない。


 壇上から見下ろすと顔も見えるがわざわざ王都から来るなんてご苦労様と目線で労った。


 「今日はようこそ私の大試食会にお越し下さいました。街の皆様には私の連れがご迷惑をお掛けしたお詫びとしまして今回は全て費用は私が持ちますので好きなだけご賞味下さい。商人の方々は商売です。一杯お金を使って行って下さい。」


 周りから笑い声も聞こえる。


 掴みはこれで問題ないだろう。


 「今日は新たな料理を発表致します。誰でも簡単に作れる物です。私はその簡単な物を発表します。この料理は一人一人が自分の好みに合わせて自由に作れる料理です。この街の名産としてこの街が発祥の地として世界中に広まる事を私は願っています。それでは始めましょう。」


 ニーナは壇上を降りるとキッチンセットに移動する。


 強力粉や薄力粉はないのでパンを作る小麦で代用する。


 小麦粉を捏ね塩と水、砂糖、オリーブオイルがわりに植物性油を入れ生地を作る。


 丸くした生地を十五分程暖かい場所で寝かせる。


 パンを焼いたりするのが家庭に一般的に広まっているこの世界ではここ迄の作業は簡単だろう。


 丸く切り分けて寝かせた生地を二十五センチ位の円形伸ばし縁を作っていく。


 この世界にはトマトは無かったが、似た食感の赤い身の果実を擦り潰し越した物を生地に塗りチーズと香草はこの世界にもあるのでそれを乗せて予め火を入れてある窯に商人ギルドで作ってもらっていた巨大な金属製のヘラに乗せて窯の中に放り込んだ。


 暫くすると窯の排気部分からいい香りが漂ってくる。


 ニーナの一挙手一投足を見逃すまいと商人達の目がギラギラと光っている。

 

 十分程で焼き上がりこの世界で初めてのピザが誕生した瞬間だった。


 材料はシンプル。具材は今回は乗せていない。


 モッツアレラピザをベースにしたシンプルな物だった。


 まだ煙がが立っているピザを窯から取り出すとチーズの焼けた香りと赤い果実のソースから漂う香りに早くも商人達が騒ぎ出した。


 「こんな簡単に出来るのか?」


 「確かあの果実は水分は豊富で甘いものが見た目が」


 等と若干不安な声も聞こえて来るがニーナは全く気にしない。


 焼きたてで窯から出てきたピザを木の板に乗せて八つに切り分けた。


 「完成よ! どんどん焼いて行くから慌てなくとも皆に振る舞うわよ。」


 興味本位な者やら未知の味に期待を膨らませる者、未だ疑心暗鬼な者、何故かしたり顔なさん。


 こうして後はニーナとギルド職員に寄って次に次に焼かれたピザが出せば無くなり出せば無くなりと神隠しの如く胃袋の中に消えていく。


 途切れる事の無い列にニーナや職員はひたすらにピザを焼き続けた。


 エリスやパルムもピザを満足そうな顔をしながら頬張っている。


 ニーナはパルムにどうかしら?と言わんばかりの挑発的な視線を送ると夢中で食べていたパルムははっとした顔で我に返ったが手元にあるピザに目が言ってるのがニーナにはバレバレであった。


 若干悔しそうな顔を一瞬見せた辺り今回はニーナの勝ちは決まったのだろう。


 その後も数時間ニーナと職員はただ働きをし数時間ピザを焼き続けた。


 皆に行き渡り全員が満足する頃にはもう日も暮れかけていた。


 今回はニーナの意向によりレシピは商人ギルドより無償で提供されている。


 但し赤い果実のみは商人ギルドの独占販売となっとおりピザソースを作る為には商人ギルドを通すしか無いのである。


 料理自体をこの街に根付かせる事とそこから色々な人が十人十色の味付けやトッピングを開発して行くだろう。


 それこそがニーナの望みなのだ。


 商人ギルドとしてもベースになる果実と販売元として悪くは無い話しだったのだ。


 今まで余り食用とされて居ない果実で地方の村で栽培されていたのを今回ニーナがトマトの代用品として選び商人ギルドを間に通してこの村と専属契約を結んでいたのだった。


 村は二束三文にしかならなかった赤い果実の本当に価値をニーナにより知りピザソースの原料を作る村としてその後トマト村として有名になっていくのだった。


 厳密にはトマトに似た果実なのだが村の長一同が喜んでいるのだからこれはこれでよかったのだろうと思う。


 ニーナも偶然通りがかった村で見つけた赤い果実がまさかトマトに似た味をしているとは思わなかったのでそれはそれで僥倖だったのだ。


 これでトマトベースの他の料理も作れるので、レシピだけ適当にサラサラと書けばニーナの元には小金が転がり込むのだから。


 こうして第二回ニーナの大試食会は大成功を収めた。


 商人ギルドのグランドマスターもしれっと着ていた様なのであとであいさつ位はしておこうと思うニーナだった。


 稀代の天才料理人として今後もニーナは世界中に動乱を齎していこのであった。


 

 




 

 


 

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