第20話 エリスは覚醒する

 エリスは目を覚ました。


 「えっと...... 私......。」


 「起きましたかねぇ。」


 「邪神様! すいません私」


 「構わないんですねぇ。」


 意識を失っていた事で邪神様にご迷惑をかけてしまったと飛び上がる様に起き上がり頭を下げて傅いたが、アレスは気にしないでいいとばかりに猫の手をエリスの肩においた。


 ちなみに今は猫の姿になっているので余り威厳がある様には感じられない。


 「勿体ないお言葉です。」


 「敬意を払ってくれるのは嬉しいんですが、今はそれより新しい身体はどうなんですかねぇ?」


 エリスはペタペタと頭から足の先まで自分の身体を触った後何故か涙目になっていた。


 「どうしたんですかねぇ幼女ちゃん。」


 「全く成長していません! 邪神様。」


 「そっち《体型》は時間が解決してくれるんですねぇ。」


 フォローを入れつつもそう言えば少女ちゃんはと思ったが、何故か背筋に冷たい物を感じたので少女ちゃんもまだまだこれから何とかなる筈、なるよね?と納得する事にした。


 「外見的な事は今回は置いておいて中身の話をしてるんですねぇ。これを軽く振ってみるんですねぇ。」


 口をかぱっと開けると一本の槍を吐き出した。


 ニーナはその姿に若干引いていたがエリスは流石は邪神様と尊敬の眼差しを向けていた。


 こうまで態度の差が違うんですかねぇと愚痴っぽくなる物のそれを面と向かってニーナに言う勇気は無い。


 苛烈な少女はその手段もまた手荒く口撃に至っては邪神にも精神ダメージを与えるからだ。


 「邪神様、私槍なんて触った事もありません。それにこんな大きくて重そうな物を振り回せるんでしょうか?」


 アレクがエリスに渡したのは短槍では無く長槍。


 見た目も禍々しい位に黒く怪しい色のオーラが呪いの様にゆらゆらと立ち昇っている。


 触るだけで呪われそうな魔槍とも邪槍とも見える邪神グッズの一つである。


 「試してみればいいんですねぇ。」

 

 恐る恐るエリスは槍を手に取った。


 「あれ? 思ったよりも軽いです。邪神様。」


 「普通は重過ぎて持ち上げる事すら出来ないんですがねぇ。暫く席を外すから振り回す練習をすればいいんですねぇ。」


 そう言うとアレクは藁人形の様な物を出して床に立てた。


 どうやらこの人形で練習しろという事なのだろうとエリスは理解して邪神に


 「頑張ります。」


 と頭を下げたのだった。


 エリスは槍を手に持つと人形に向かって恐る恐る突いてみる。


 ザクッといい音がしたが人形は傷付く様子は無かった。


 それならばと槍を縦から振り降したり横に薙ぎ払ったりと自分の中の槍のイメージを頭の中から実際の形におこしていく。


 身体の中から溢れる様なチカラがある事に気付きそれを手から槍に流すイメージで人形に槍を突き刺したら今まで刺しても切っても全く傷一つ付かなかった人形が爆散した。

 おまけに後ろの壁にまで穴が空いていた。


 「あわわわわわわわ......」


 人形を壊してしまった事と部屋を破壊してしまった事に青い顔になったエリスは速やかに土下座の体制を取ったのだった。


 アレクはその位では別に気にはしないのだが、エリスはまだアレクと会って日が浅いので邪神の怒りを買ってしまうかもしれないと思った事は仕方が無かったのだった。


 アレクがそろそろ槍を使えるようになった頃合いかなと数時間経ってからエリスの前に姿を現した時に何故かエリスが土下座の体勢をとっていた。

 

 何事かと思ったが、どうやら自己流で槍に魔力を流す事に成功して勢い余って壁に穴を空けてしまった事で怒られるとでも思ったのだろうと土下座しているエリスの前まで行くと頭をポンポンと軽く叩き気にしないでいいんですねぇと声を掛けたのだった。


 「ちなみに少女ちゃんは人形を破壊して壁に亀裂を入れ神界の隔壁にまで亀裂を入れたので少々困ったんですがねぇ。」


 とニーナはエリスよりも遥かにヤンチャだったと思い出し疲れた様に言ったのだった。


 「流石はお姉様です。私も頑張ります!」


 と決意新たに握り拳を作っている姿はアレクですら微笑ましいと思ったが間違ってもニーナの様な性格にだけはならないで欲しいと神に願うのだった。


 「邪神が神に願うなんて皮肉なもんですねぇ」


 アレクの呟きは誰に聞かれる事もなく消えていったのだった。


 その後はアレクによる指導アドバイスによりエリスはみるみる力を付けていった。


 これなら槍術の免許邪神流も皆伝だろうとアレクも満足できる程にエリスの槍使いは上達していた。


 「幼女ちゃん、もう大丈夫なんですねぇ。そろそろ戻るんですねぇ。」


 アレクはニーナにはまだまだ及ばない物のこのまま実践を積めばそのうち槍使いとしては下界では敵無しになる位にはなれると思ったのでエリスに下界に戻る様に提案する。


 下界に戻っても一秒足りとも時間が経っていないのでニーナに何かを言われる心配もないだろう。


 「それじゃあ行くんですねぇ。」


 「はい。邪神様。お姉様に強くなった私を見てもらいます。」


 エリスの心は早くニーナに会って見てもらいたいと踊っていた。


 下界に戻る際にエリスとした只の会話


 何気無い会話の一つだった筈が何故この会話からおかしな方向に進んでしまったのだろうかとアレクは今目の前に居る最初の邪神の使徒を前に考えている。


 しかも目の前の使徒はかなりいるからだ。


 「女心はワタシにはよく分からないんですねぇ。」


 そう言って自分の使徒同士の戦いを見守っているのだった。

 

 


 


 


 

 


 

 


 

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