第18話 動乱を喚ぶ者達

 ニーナはサウザンズタウンに数日かけて戻ってきた。


 ただ明らかに街の様子が騒がしい。


 「何かあったのかしら?」


 ニーナが不在時に魔物の群れでも押し寄せたのかニーナの怨的竜騎士団でも現れたのだろうか?

 

 色々推測は出来るが、商人ギルドで話を聞けば何か分かるだろうと商人ギルドへ向かったのだった。


 道行く人がこの街は終わりだと真っ青な顔をしていたり今すぐ逃げ出さんと荷造りしている者も居る。


 ニーナは歩く速度を少し上げ商人ギルドへ急ぐ。


 商人ギルドの扉を開けてニーナはギルド内へ入って行くと中ではと寛ぐゲインの姿があった。


 「あら? ゲインじゃない。」


 「久しぶりだなニーナ。どうしたんだそんなに慌てて?」


 「今帰って来たんだけど、街の様子が騒々しかったからよ。」


 「あぁ成る程それで......。」


 珍しい物が見れたとばかりにゲインは笑ったのだった。


 「随分楽しそうじゃない?」


 ニーナが皮肉げにそう言うと


 「んっ」


 そう言ってゲインは奥の方を指差した。


 其処には見慣れた猫に似た何かと一人の幼女と見知らぬ女性が居た。


 猫はアレス、幼女はエリス


 それは見間違い様も無い。


 ただいつもと違うのはもう一人女性が居る事だった。


 「それにしてもとんでもない美人ね。」


 ニーナから見ても大人の女性の理想を体現した様な容姿。


 背は百七十センチはあるだろうか。まるでモデルの様に手足はスラリと伸びている。

 肌はきめこまかくかスタイルは出る所は出ていて腰はキュッと音がしそうな位に見事に括れている。


 目鼻立ちも整っており切れ長の目高い鼻、黒髪は腰の位置まで伸ばされている。


 装飾類は一切付けていないが服装はどちらかというと和装テイストだ。


 前世の記憶で例えるなら大人気女優の風格を漂わせているそんな女性が連れの一団に普通に混じっているのだ。


 それだけならアレスが連れて来た邪神の何か関係者だとは思わなく無いが、その女性は膝の上にエリスを乗せまるで我が子の様に慈愛の目を向け薄っすらと笑みを浮かべている。


 その様子を見てニーナはゲインに話を振る


 「があったのかしら?」


 「俺もまだ信じちゃいないが、直接聞いてみればいいんじゃないか?」


 ゲインはそれ以上何か言うつもりは無いようだ。

 

 面倒に巻き込まれるのを忌避したのだろう。

 

 何らかしら街の混乱に関わっているのは間違いなさそうなので、ニーナはその原因をアレスに尋ねるのだった。


 「ワタシは悪く無いんですねぇ。」


 「アレス、大抵疚しい事がある人はそう言うのよ。」


 「今回はワタシじゃないんですねぇ。」


 「もう分かったから詳しく話してくれるわね?」


 「ワタシがですかねぇ?」


 「それ以外に誰が居るのよ?」


 結局面倒事は自分に来るのかとアレクは深く溜息をついたのだった。


 そこからアレクの説明がつらつらと続いた。


 「という訳で一緒に来る事になったんですねぇ。」


 「そもそもの原因はアレク、貴方が放置していたからじゃないの? 数百年も音沙汰なく放っておけばそれは大罪に等しいわ。」


 「そこまでなんでかねぇ。」

 

 「そうよ、反省しなさい!」


 アレクは未だブツブツと文句を言ってはいるが、アレクに非の一端がある以上ニーナもこの女性を放り出すわけにはいかない。


 放り出したら街は焼かれ世界中に惨禍が広がりかねないのだから。


 ニーナは女性に向き直り頭を下げた。


 「アレクが迷惑をかけたようね。申し訳なかったわ。」


 ニーナが頭を下げるとは思っていなかったのかアレクもゲインも目を白黒させていた。


 「私はニーナ。こいつの使徒よ。貴女もそうなんでしょ?」


 「妾もそこのな者の使徒じゃ。」


 「貴女の方が私より先に使徒になったのだから敬意は払うわ。それで貴女のお名前をお聞かせ願えるかしら?」


 「妾はじゃ。」


 「じゃあパルム姉さん、これから宜しく。」


 「良きにはかえれじゃ。」


 こうしてニーナの旅の仲間が思わずにも又一人増えた。


 竜騎士団を殲滅するまでは人手が多少はあった方が良いのでこれも何か運命なのだろうと思う。


 「それはそれとして何故エリスを抱いているのかしら?」


 「それはじゃな、エリスは我の娘になったのじゃ!」


 何処か冷たい視線だったのが、今は柔らかく緩められている。


 誰かに話したい雰囲気が、パルムから溢れている様なので聞いて欲しいのだろうと思ったニーナは


 「その出会いの話を是非聞かせて欲しいわ。」


 と少々大袈裟に食い付いた様に前のめり気味にパルムに身体を寄せる。


 そうじゃろうそうじゃろうとパルムは上機嫌になりニーナにそれはとても嬉しそうに話し出した。


 ニーナは先程アレクが話した色々すっ飛ばした説明をパルムから補完すべく聞くのだった。


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