第17話 ニーナ 冒険者ギルドで暴れる

 商人ギルド本部でのエルミナとの出会いはニーナに取っては良い時間となった。


 最初は色々あったものの商人ギルドのグランドマスターに貸しを一つ作れたのだから。


 これは後々便利に使ってやろうとニーナは思っている。


 次は冷やかしの冒険者ギルドだ。


 冒険者ギルドでは全く自重する気は無い。


 【動乱を喚ぶ者】として好き放題出来るからだ。


 冒険者ギルドの扉を開く


 中へ入ると直ぐに感じる視線


 これはどの冒険者ギルドに行っても感じた物と同じ物である。


 侮蔑、蔑み、侮り、嘲笑、冷笑


 良くもまぁ何処へ行ってもテンプレの様に同じ態度が取れる物だと逆に感心すら覚える。


 「次は絡まれるかしら?」


 「ここはお子様が来る場所じゃねぇぞ!」


 一人の巨漢な冒険者から放たれる野次


 「はぁ〜馬鹿しか居ないのかしら? この組織は。」


 「あぁ? 誰が馬鹿だって?」


 「まさか分からないの? 貴方とそこの貴方とそことそことあっちのがそうね。」


 案の定指摘された冒険者達はいっせいに立ち上がった。


 分かり易過ぎて逆に面白くなってくるニーナ


 「短気、粗暴、学習能力無し。救いようがない連中ね。私が貴方達の代わりに自己紹介して上げたから感謝しなさい。」


 心底馬鹿にした目を向けるニーナ


 「面白ぇじゃねぇか嬢ちゃん。骨の一本や二本は覚悟出来てるんだろうな?」


 元々凶悪な面が更に凶悪に歪む。


 ニーナはそれを無視してカウンターへ向かった。


 ここの訓練場借りていいかしら?


 開口一番冒険者ギルドの受付嬢に告げる。


 いきなり少女が入って来たと思ったら自分より倍近い体躯の冒険達に喧嘩をうりだしたのだ。

 本来なら即止めなければならなかったが止める機会を失い一連のやり取りを見ているしか無かった。


 「それと私はよ。ギルドマスターにそう伝えてくれるかしら?」


 ニーナはそう言うと激昂した冒険者達を引き連れ訓練場に消えて行った。


 受付嬢は慌ててギルドマスターの部屋に行き事の次第を説明する。


 冒険者ギルド本部のギルドマスターランティスは受付嬢の話を聞いて考えこんでいた。


 グランドマスターは用事で不在。高ランク冒険者も依頼を受け朝から不在。

 残っているのは中堅から駆け出しばかりであった。


 更には今王都には勇者も滞在している。代理とはいえ、この大変な時期に問題を起こすわけにはいかない。


 「ニーナさんですか? どこかで聞いたような......。 それでそのニーナさん?と冒険者達は訓練場に行ったんですか?」


 受付嬢は慌てて頷く。


 「今は大変な時期です。急いで行きましょう。」


 ランディスは受付嬢を伴い訓練場に急いで向かったのだった。


 

 訓練場ではニーナと複数の冒険者達が対峙していた。


 ニーナはコートの内側から小さな袋を取り出してそれを冒険者達の方へ投げ渡した。


 一瞬何かの魔道具や薬かと身構える冒険者達。


 ニーナは無言でその袋を指差した。


 恐る恐る冒険者の一人がそれを拾い中を覗くと金貨が数十枚入っていた。


 「金貨が入ってるぞ!」


 袋を覗いた冒険者の一人が驚いた様に声を上げる。


 金貨と聞いて残りの冒険者たちも袋を拾った冒険者の元に集まり金貨に大騒ぎをしている。


 最初にニーナに突っかかって来た冒険者は盛大な勘違いをしている様で


 「これで今までの無礼を許して欲しいってか?」


 「はぁ? それは貴方達へのよ。」


 意味が分からないとばかりにぽかんと口を開けていた冒険者だったが、ニーナの言っている意味を漸く理解したのか顔を真っ赤に染めていく。


 「もう冗談じゃ済まされねぇぞクソガキ!」


 「相手の力量すら分からないお馬鹿さん達、いいからかかって来なさい。」


 そういうとニーナは挑発する様に指をクイクイと相手に向かってやった。


 剣士や戦士は腰から剣を引き抜き魔法使いは杖をかまえた。


 「それじゃあ楽しいお遊戯戦闘を始めましょう。」


 一斉に冒険者達はニーナを取り囲んだ。


 斬りかかるタイミングを測る冒険者達と後ろで詠唱をしている魔法使いがいる。


 一人の冒険者が我先にと素早くニーナとの距離を詰めて剣を上段から振り下ろした。


 ニーナは自身の頭上から振るわれた剣の柄を相手の懐に潜り込み片手で掴む。

 

 剣の柄を抑えたと同時に相手の足を踏み抜き固定した。

 

 冒険者が回避出来ない様にし残った方の手で鳩尾に拳を叩き込んだ。


 足を踏まれてる事により回避すら出来ずまともにニーナのパンチを鳩尾に貰った冒険者は白目を向いて口から泡を噴いて地面に崩れ落ちた。


 「先ずは一人ね。」


 口角を上げ不不敵な笑みを浮かべるニーナ


 「さぁ! どんどんいらっしゃい♪」


 一撃の元に伸された冒険者を見て若干怯んだが次は二人同時に斬りかかる。


 一人がニーナに向かって剣を突き出した。

 

 ニーナが横に回避すると読んでもう一人は回避した先を狙う作戦なのだろう。


 ニーナは突きを回避勢い良く突き出された腕を掴みそのまま一本背負いをする。


 ただし投げた際に掴んだ腕は離し冒険者は弧を描いて空を舞っていく。


 回避した先を狙う筈だった冒険者はニーナが回避しなかった事で剣を振るのが一瞬遅れる。


 冒険者を放り投げたニーナはそのままの勢いで屈むとクルリと回転しもう一人の冒険者の足を払った。


 足を払われて宙に浮いた冒険者にもう一回転して回転力を利用してお腹の部分に蹴りを見舞った。


 冒険者は空中では身動きは出来ずガードもせぬままにニーナの蹴りをまともに貰いボールの様に跳ねながら吹き飛んでいき意識をブラックアウトさせた。


 「二人まとめてご退場♪」


 丁度詠唱が終わった魔法使いの杖が振るわれた。


 ニーナの頭上から落雷が降ってくる。


 ニーナは無詠唱で自身の頭上にダークホールを形成すると同時に魔法使いの頭上にダークホールの出口も形成した。


 ダークホールに吸い込まれた落雷はニーナには当たる事は無く、ダークホールに飲み込まれていった。


 ノータイムで落雷はそのまま魔法使いの頭上に出来たダークホールから魔法使いに降り注いだ。


 自身の強力な魔法を我が身に受けプスプスと煙を上げながら地面に倒れ伏した。


 「この程度なの? 貴方達は。もう少し真面目にやってくれないかしら? どれだけ冒険者と言うのは脆弱なのかしら?」


 少しは期待したが、やはり冒険者というのは口ばかりであると失望したニーナは訓練場の地面を闇魔法で毒沼に変えて残りの冒険者をまとめて沈めた。


 ニーナ特製の毒沼は底無し沼の様に冒険者の足を絡めとり底にその身体を引き摺り込む。


 ギリギリ顔だけが出る位置で止まったが冒険者達は毒に侵され一様に顔色を青ざめて動けなくなっていた。


 致死の猛毒では無いので死ぬ事は無いが徐々に体力を奪われていきぐったりした様子で動かなくなったのだった。


 丁度そのタイミングで現れたギルドマスターのランディスは目の前の惨状に唖然とした。


 ギルドの訓練場の地面が毒々しい色の沼に変わっておりそこから青い顔をした冒険者の首から上だけが沢山生えているのだからその反応も致し方ないのだろう。


 何とか一瞬でその惨状から立ち直るとニーナにもう勝負はついたのだから止める様に言った。


 「仕方ないわね。」


 ニーナはそう言うと手を横に軽く振り払い地面を元通りに戻した。


 地面は元の土に戻ったが、其処には陸に打ち上げられた魚の様にピクピクと震えている冒険者達の姿があった。


 ランディスについて来ていた受付嬢達は慌てて冒険者達の介抱を始める。


 ランディスは受付嬢に後を任せると指示を出すとニーナに事情を聞きたいからギルドマスターの部屋に来る様に言われたのでニーナはそれについて行ったのだった。


 ギルドマスターの部屋に入ると先ずは座る様に言われたのでランディスの対面のソファーに座った。


 ランディスが先ずは自己紹介を簡単に行った。


 現在グランドマスターが不在であり自分が代理である事も同時に伝えられた。


 「それで君は確かニーナさんとか言ったね? 一体何をしに当ギルドにお越しになられたんですか?」


 「そうねぇ、これはギルド職員に対しての宣戦布告かしら?」


 「宣戦布告?」


 「そうよ。私は売られた喧嘩は必ず買うのよ。そして、私に牙を剥いた事を後悔させてあげるの。」


 「それはこの冒険者ギルド本部とは関係ないのではないですか?」


 他所のギルドで揉めたのならそのギルドでやれと遠回しで言うランディス


 「それがねそうでもないのよ。飼い主なら飼犬位しっかりと躾けて欲しい物なんだけど?」


 ランディスは一体誰の事か全く見当も付かなかった。


 冒険者上がりのギルド職員はそれなりには居るので中には性格が荒い者もいるからだ。


 「それでしたら尚の事その問題のあったギルドのギルドマスターにですね......。」


 ニーナは一言だけ発した。


 「ミレイユ・マクシミリアン」


 ランディスの表情が変わった。


 「それに私はにもちゃんと言ったわよ?」


 二人とも勿論ランディスは知っている。


 「私は最初ファーストディールに居たわ。ここまで言えば分かるかしら?」


 「ニーナ...... 【動乱を喚ぶ者】ニーナ」


 「正解よ。」


 漸くニーナの正体に気付いたランディス


 そしてベクターと言えばとある街のギルドマスター。

 其処に配属されている者をランディスは勿論知っている。

 

 つい最近までこのギルドに居たのだから。


 「私は何も難しい事は言ってないわよ? ただ私に関わるなと言っただけ。そんな簡単な事一つ守れない組織なんてしまおうと思って何が悪いのかしら?」

 

 「事情は察しましたが、それでも今回の事はやり過ぎではないでしょうか?」


 「絡まれたのは私なんでけど?」


 それにとニーナは付け加える。


 「貴方達冒険者ギルドは一般市民に絡まないと生きていけないのかしら?」


 私は冒険者ではないと存外に告げる。


 「いえ、そんな事は......。」


 段々言葉尻が弱くなるランディス

 

 ニーナの名は既に商人達からこの王都にも伝わっている。


 武勇ではなかったが。


 そんなニーナを敵に回せば商人ギルド引いては戦商人バトルトレイダーとも対立を起こしかねないからだ。


 それに商人ギルドに守られているニーナが冒険者ギルドの話を風聴すればそれは大きな問題に成りかねずその地位も失墜しかねない。


 ましてやグランドマスター不在時にその様な事になると自身も間違いなく僻地に左遷又は解雇になるだろう。


 ランディスは今回の事は全面的に冒険者ギルドが悪いと認めて謝罪すると申し出たがニーナはそれを突っぱねる。


 「別に私は今回の件はそれ程気にしてないわ。私が問題にしているのはミレイユ・マクシミリアン。」


 ランディスも彼女の話はベクターから聞いている。

 しかしニーナ以上に厄介な相手なのだ。グランドマスターの旧知の仲であるマクシミリアン伯爵直々にミレイユを預けられているからだ。


 「元々ここに居たそうじゃない? 私は迷惑しているの分かる?」


 「聞き及んでおります。」


 「貴方も私の立場になれば分かるわ。私が冒険者ギルドをどうおもっているかなんて。」


 はっきりとは言わなかったが、冒険者ギルドが良く思われていないのは明白だからだ。


 ただ、ランディスもまたミレイユに対して良い感情は持っていない。


 ミレイユは、貴族以外は人間とすら思っていないのを知っていたからだ。

 

 それでも放置しているのだから同じ穴の狢である。


 「マクシー、ベクター、ミレイユ、そしてランディス貴方達はただ自己の事しか考えていないわね。そんな者達が形作っている組織に何のがあるのかしら? 新人冒険者がギルドにこれば絡み恫喝する。向けられる視線は蔑み、侮蔑。強いわけでも頭も悪い救いようがないわ。戦商人で十分よ。」


 不平不満を一気にぶち撒けるニーナ。


 全く反論出来ない事に忸怩たる思いのランディス。


 確かにマクシーよりニーナには関わるなと本部宛に報告は上がっている。マクシーはその件で降格されている。


 関わってはいけないものにベクターは関わりそれを全てぶち壊したミレイユという貴族の女性。


 それで本部に乗り込んで来たニーナという少女。今日は居ないみたいだが強力な従者も居ると聞いている。


 もはや自分の手には負えない。


 「度々の失礼申し訳ございません。」


 そういうだけで精一杯だった。


 ランディスはこの日己の無力を知ったのだった。


 それでもグランドマスターにお会いしていただきたいと頭を下げニーナに申し出たのだが、その必要はない二度と関わるなと完全否定を突き付けられニーナは冒険者ギルドを後にしたのだった。

 

 

 翌日ニーナは商人ギルドに顔を出し、エルミナと少しだけ情報交換をした。エルミナは近いうちにニーナに会いに行くからのうと上機嫌だった。

 エルミナと握手してニーナは豪華な家が立ち並ぶ貴族街を歩いて行く。


 目的のマクシミリアン伯爵邸を確認だけして素通りして帰路についたのだった。


 ニーナが帰路に着いた日入れ違いのタイミングで冒険者ギルドのグランドマスターアルバート・オデッセイはギルド本部へ帰還したのだが、ニーナとはすれ違いになり出会う事は無かったのであった。


 「用事も済んだし帰りましょう。アレスは帰って来たのかしら。」


 帰路はエルミナより用意された馬車を断り徒歩である。


 馬車は楽だったが退屈なのだ。


 「やはり人は地に足を付けてこそよ。」


 足取りも軽くニーナはサウザンズタウン《滞在している街》へ駆けて行ったのだった。


 

 




 

 


 


 


 

 

 

 


 


 

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