第10話 異世界のお約束 盗賊に襲われている幼女

 ニーナとアレクは次の街に向かい歩いていた。


 街を出てからずっと感じている不快な感じにニーナは少しイライラを募らせていた。


 「ねぇ、アレク。街を出てからずっと感じているこの不快な視線というのかしら? 感じは一体何?」


 「やっぱり気付いてたんですかねぇ。面倒臭いから知らないフリを続けてたんですがねぇ。止める様には伝えたんですがねぇ。聞いてもらえなくてですねぇ......。」


 使えない邪神ねと一蹴された。


 「長い間放置しすぎた様でそれで怒っている様ですねぇ。」


 「アレクの知り合いはストーカー《覗き魔》なのね。」


 「邪神のイメージが崩壊しかねないから覗き魔はやめて欲しいですねぇ。」


 「なら、簡単よ。今すぐこのストーカーに覗くのを辞めさせればいいのよ。」

 

 「だから、何度も言ってはいるんですが聞いて貰えない様でワタシも苦労してるんですねぇ。」


 邪神もストーカー一匹抑えられないなんて廃れたものねと言う前に何やら前方の方で人が襲われている気配がした。


 「英雄ニーナはトラブルに巻き込まれ易いみたいですねぇ。」


 「次から次へと全く。この世界の人はみな暇なのかしら?」


 「その発想は無かったですねぇ。」


 暇だから人を襲う。


 只の修羅の国である。


 いつもどおりお互いに嫌味を言い合いながらも襲われている馬車へ向かい走り出すニーナとアレク。


 アレクはニーナの肩に乗っているだけなので嫌がおうにも道連れだ。


 「アレク、状況は?」


 「馬車の中に女の子供が一人、それの護衛らしき男が馬車の回りで三人戦ってますねぇ。相手は盗賊二十人ですねぇ。」


 「それで馬車の護衛は勝てそうなの?」

  

 「十分程で全滅ですねぇ。その後は馬車の中の女の子はお察しですねぇ。」


 「この世界のロリコンの多さには辟易するわ。」


 「助けるんですかねぇ? 面倒事が嫌いなのに?」


 「いつもより饒舌に喋るじゃないアレク。助けるんじゃないわ。私の進路を邪魔した盗賊がに私の剣に当たってお亡くなりになるだけよ?」


 また、悪い笑みを浮かべてるよとアレクは溜息をついた。

 こういう表情を浮かべているニーナはろくでもない事を考えているのが明白だからだ。


 勝手に剣に当たりに来て自らの命を散らすなんてそれは只の自殺志願者

 

 お気の毒ですねぇとアレクは呟いた。


 「行くわよアレク。」


 「ワタシに拒否権は「ないわよ」 ですよねぇ。」


 ニーナは背中から剣を抜いて盗賊に襲いかかる。


 盗賊ならわざわざ剣の腹を使う必要は無い。


 ちょっとした戦場に凶悪な死の竜巻が乱入する。


 盗賊は先程まで圧倒的な優勢だったのに一体何が起こったのか分からなかった。


 大きな刃があちらこちらから殺到し気づけば皆バラバラに切り飛ばされている。


 「おい、一体どうなっているんだ?」


 瞬きする間に一人、二人とやられていく盗賊の部下達


 ものの数分で盗賊はその数を一桁に減らしていた。


 警戒している頭領が見たのはどう見ても小さな少女が身の丈を超える大剣を小枝でも扱う様に振り回している姿。


 少しでも剣の扱いに覚えがある者なら少女が振るう剣の軌道が出たら目なのは理解出来るだろう。


 型なんて一欠片も無く只力任せに縦横無尽に振り回している。


 だからこそ読めないし防げない。


 何処から刃が飛んでくるか分からない。何なら大剣を投擲する事に何の躊躇いも無い。


 そんな相手に盗賊がいくら居た所でどうする事も出来ない。


 大人しく刈られるのを待つだけだ。


 少し距離を取った盗賊の頭領はお決まりの台詞を吐いた。


 「俺達が悪かった。大人しく投降する。」


 ニーナはわざわざ頭領の言葉に乗る気は無かったしお決まりの台詞を言ってあげる程優しくは無い。


 ならやる事は一つ。


 「アレクどうなの?」


 「ですねぇ。」


 「でしょうね。」


 態々過去に命乞いをした人間を見逃した事が等とは聞くつもりは無かった。

 それでも念の為ニーナはアレクに確認を取ったのだがアレクのの一言が全てである。


 この程度で嘘を付く等とはニーナは邪神を信用していない訳では無い。


 アレクが無いと言ったらそれが答えなのだから。


 「投降? 許さないわ。それを決めるのは私。答えは皆殺しよ。」


 ニーナは盗賊達を一人残らず絶命させた。


 「来世があるならそれまで反省してなさい。」


 そう言って大剣を背中にしまった。


 死体は片付けるのも面倒なのでダークホールにて亜空間に全て送り込んだ。


 放置して腐って異臭を放つのもいい気がしないからである。


 事態の収集も済んだし何事も無かったかの様にその場を立ち去ろうとすると後ろから声が掛けられた。


 「助けて頂きありがとうございます。せめてお名前だけでも。」


 多分生き残りの護衛の一人だろう。


 騎士の様な鎧を着ておりその中心には何か紋様の物が彫り込まれてある。


 「ニーナよ。それにこいつはアレク。希少種のよ。」


 「まだその設定有効なんですねぇ」


 アレクの声は無視した。


 「高々盗賊程度に遅れを取るなんて些か実力不足なんじゃない? もう少し考えた方がいいと思うわよ。弱いなら弱いなりに数を集めるとか。」


 「一応これでも精一杯だったのです。此方にもと事情がありましたので。」


 「そうなの。」


 全く興味がないとばかりに気のない返事を返すニーナ。


 「少女ちゃんはどうやらな事をしたみたいですねぇ。」


 ニーナは馬鹿ではない。


 大体の事情位は察している。


 護衛の少なさに対して過剰な盗賊の数


 わざわざ見つかりにくい山道を通っている。


 考えられる推測はほぼ間違いないだろう。


 要は馬車の中に居る幼女がだったのだろう。


 身分の高い者達の政略等に興味はない。


 勝手にやり合って滅べばいい位にしか思っていない。


 ニーナ自身にその矛先が向けられればそれはその勢力を殲滅するだけなのだから。


 只、馬車の中に居る幼女がそれを理解出来ているとは思えなかった。


 大人達の都合で邪魔だから処分しよう位の考えで上手く外に送り出したのだろう。


 そこまで推測した上でニーナは悪い笑みを浮かべた。


 「アレク、確か盗賊を倒したらそいつらが持っている者はの物にしてもいいのよね?」


 「この世界のルールではそうなってますねぇ。」


 「なら戦利品幼女は私が貰ってもいいわね。」


 ニーナは騎士を無視して馬車の扉を開け放った。


 其処には怯えて馬車の床に頭を抱えて蹲っている幼女の姿があった。


 ニーナはその幼女に対して


 「貴女は私が戦利品として貰う事にしたわ。黙って付いてきなさい。」


 「殺さないで下さい。殺さないで下さい。殺さないで下さい。」


 ニーナの声など聞こえている様子は無くひたすら念仏の様に唱えている。


 ニーナはその幼女の首根っこを掴むと左手のみで持ち上げ自身の目線と同じ高さに吊るしてニッコリと微笑んで


 「殺すってこういう事?」


 と右手に持っている未だ血が付いた大剣を見せた。


 ひゃぁーっという悲鳴を上げた幼女は気絶していた。


 流石のニーナも少々悪戯が過ぎたかと珍しくバツの悪そうな何とも言えない顔をしていた。


 「少女ちゃん、流石にそれはダメなやつなんですねぇ。」


 下手したら幼女に一生物のトラウマを刻み付けたかもしれない。


 責任を取って貰えと言われるかもしれない。


 女の子同士で片や少女、片や幼女なんだが。


 「そういう訳でこの幼女戦利品は貰って行くわよ。」


 生き残りの一人の騎士が剣を構えて一歩前に出ようとするのをもう一人の騎士が制した。


 ニーナはその姿を見て目を細めた。


 その騎士は何故か頭を下げた。


 「お嬢様をどうかお願い致します。」


 「ふ〜ん。わたしが悪い女でこの子に悪戯をして奴隷にして売り飛ばすかもしれないわよ?」


 ニーナのその言葉にもう一人の騎士は今にも飛びかからんばかりの様相をしている。


 それでも騎士は頭を上げずに


 「もしそうなら私の目が曇っていただけなのでしょう。それでもニーナ様はその様な事はなさらないと思います。」


 「その根拠は?」


 「私のです。」


 「貴方名前は?」


 「エルトリコ・ハービンジャーで申します。」


 「覚えておいてあげる。」


 そう言うとニーナは気絶した幼女を腕に抱き振り返る事も無く立ち去って行った。


 残された騎士の二人


 「これで良かったのでしょうか?」


エルトリコはその問いに対して


 「我々は盗賊からお嬢様をお嬢様を奪われて命辛々逃げ果せた。一人は盗賊にやられた。それが事実だよ。」


 「分かりましたエルトリコ様。」


 「それでは私達も戻りましょう。」


 エルトリコと生き残ったもう一人の騎士は自分達の領主に報告する為に踵を返して帰って行く。


 「少女ちゃん、その幼女どうするんですかねぇ。」


 こんな状況なのにぐっすりとニーナに抱かれて眠っている幼女に視線を向ける


 アレクの問いにニーナは悪い笑みを浮かべた。


 「そうねぇ、私好みに育てて頂こうかしら?」


 アレクはうわぁと言う表情を浮かべている。

 

 猫なのに表情豊かな事ねとニーナは呟く


 実際にはニーナは面倒見は良いのでこの幼女が酷い事にはならないだろうともアレクは思っていた。


 ただ一抹の不安もある。


 「本当に大丈夫なんですかねぇ?」


 命の危険とは違う別の意味での不安


 「それはどうかしら?」


 悪戯な笑み


 この少女の事はアレクを以ってしても本当に掴みどころが無い。


 この良く眠っている幼女の未来がそこまで最悪な事にはならない様にとアレクは神々に本の少しだけしたのだった。

 

 


 

 


 


 

 



 

 

 


 

 

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