第9話 本当の強者は防御等意味がない

 エイミーの一件も無事に片付きこの街でそろそろやる事も無くなって来たので次の街へ移動する為の準備を始めるニーナは何故か辞めた筈の冒険者ギルドから呼び出しを受けた。


 「私、行く必要あるのかしら?」


 ニーナがそう言うと


 「もう放っておけば? あそこはその内潰れるんじゃないですかねぇ?」


 この街でニーナはそれなりに有名になった。


 優秀な人はその軌跡に爪痕を残すがニーナの持論だからだ。


 この街には爪痕所か亀裂が残されているだろう。


 大方呼び出された理由はエイミーの引き抜きと商人ギルドへ人形流れている事に対しての腹いせ位の物だろう。


 「本当に小さい男ね。」


 正直ただただ相手するのも面倒だった。


 冒険者証がある内にギルド内を薬草砲で蹂躙してやれば良かったとも思う。


 今は冒険者ではなくなったので只の犯罪者となりお縄になってしまう。


 実際はニーナを捕まえられる者なんて早々居ないのが現実である。


 ここ最近はニーナに憧れて冒険者ギルドでは無く商人ギルドに加入する物が増えているのが現状であった。


 元々役割は似ているのでより利益を追求したい者には戦商人の方が魅力的に見えるのだろう。


 「まぁ冒険者ギルド辞めたけど何一つ困らないのは面白いわね。」


 フフフと笑うニーナ。


 「被虐心が増大してますねぇ。」


 ニーナが悪い笑みを浮かべて居た事に対してのアレクの正直な感想だった。


 「ゲインや商人ギルドのギルドマスター、エイミーの様子を少し覗いてからこの街から出ましょう。見納めになると思うからあの冒険者ギルドのマスターの憤怒に染まっている顔も旅のスパイス位にはなるでしょう。」


 「鬼畜少女ですねぇ。」


 冗談では無く本気でニーナがそう思っているからアレクもニーナだけは敵に回したくないと思っている。


 現状勝ち筋が見えないので大人しく猫を演じるのが無難な選択だった。


 「それじゃあ行きましょう。」


 「仰せのままに。」


 まるでお姫さまと従者のやり取りに見えるが闇聖女と邪神という反対の組み合わせである。


 最初に商人ギルドへ向かった。


 商人ギルドのマスターとは利害が一致してする所が多かったのでニーナとしてはかなり助けられた部分もあるのでそれなりには感謝をしている。


 二人して悪い笑みを浮かべて握手を交わした。


 ゲインからはまだ子供なんだから無茶はするなと言われた。

 それなりには心配をしてくれてるのは嬉しく思う。


 なので......


 大きな子供に言われたくないと言い返してやったので満足であった。


 何とも言えない表情を浮かべて居たゲインはやはりいい男なのだろう。


 ニーナの好みのタイプではなかったが。


 次にエイミーを捜す。


 街中を駆け回っている様で中々捕まらなかった。


 仕方なく探知魔法を使いエイミーが立ち止まるのを待ってから会いに行った。


 かなり繁盛している様で忙しそうだったので余り言葉は交わせなかったが、とても感謝している事がエイミーの言葉の節々から感じられた。


 営業が終了してからも食堂に顔を出し新しい味を一緒に追求しコーンコロッケみたいな物まで商品化していたのにはニーナも流石に驚いたのだった。


 「エイミーも中々やるわね。」


 余り人を褒めないニーナが賛辞の言葉を人に送ったのに一番驚いていたのはアレクだった。


 「一体私を何だと思ってるのよ?」


 「ドS少女ちゃん」


 その後首根っこを掴まれブンブン振り回されたので口は災いの元と言うのは強ち間違ってはいないと身を持って知った邪神であった。


 「さて、挨拶周りも終わった事だからメインディッシュをいただこうかしら。」


 悪い笑みを浮かべているニーナに背筋に冷たいものを感じたアレクだったが運命共同体に近いので渋々付き合わざるを得ない。

 

 ニーナは冒険者ギルドまで辿り着くと一切の配慮無くドアを開け放った。


 「来てやったわよ。一体私に何の様があるのかしら? 冒険者でも無い私をわざわざ呼び出すなんていい度胸しているわね。それなりに覚悟は出来ているのかしら?」


 大声で早口で捲し立てた。


 ギルド内にビリビリと声が響き渡る。


 受付にいた女性は慌てて奥のドアに走って行った。


 どうせあの扉の奥で馬鹿面晒して踏ん反り返っているのでしょう。


 「本当にくだらない組織ね。」


 ニーナはギルドの職員に殺気を放ちながら睨み付ける。


 カウンターの下に潜り怯えている者もいる。


 「少女ちゃん、その位にしとくんですねぇ。」


 「あら、失礼。」


 ギルド内を覆っていた圧が弱まった。


 奥の扉から尊大な態度のギルドマスターがやって来た。


 「相変わらず煩いガキだ。」


 「貴方も変わりない馬鹿面ね。」


 「何だと!?」


 「私、正直ものだからついつい本音を喋ってしまうの。」


 顔を合わせただけで一触即発の雰囲気である。


 「くだらない御託はいいから要件を言いなさい。」


 「お前のせいで冒険者ギルドは損害を被っている。その責任を取ってもらう。」


 「はっ、己が無能を人のせいにするなんて。顔だけじゃなく頭の中までお花畑なのね。」


 「何とでも言うがいい。お前は冒険者ギルドを敵に回した。それがどういう事か分かるか?」


 「ゴミ溜めから解放されて清々しい気分だわ。寧ろ感謝したい位よ。」


 「お前の兄弟が犯罪者だと言うことを全世界に広めてやろう。」


 一瞬ニーナが押し黙ると珍しくアレクが口を挟んだ。


 「矮小な風情が随分と偉そうですねぇ。」


 「何だこの薄汚い獣は。」


 「少女ちゃん、こいつやっちゃってもいいんですかねぇ。」


 「お前みたいな獣如きに「神を前に頭が高い」


 上から強大な何かに押し潰されたかの様に急に地面に這いつくばるギルドマスター


 「くっ、何が。」


 「誰が口を開いていいと言った?」


 声を出すことも出来なくなるギルドマスター


 「余り調子に乗らない方がいい。世の中には絶対に抗えない者が居ると理解せよ。ワタシは邪神アドラメレク。お望みなら今すぐお前の組織を全て塵に変えてやろうか?」


 流石に先程まで憤っていたギルドマスターも邪神の脅威に恐怖する。


 押さえつけられ喋る事も頭を上げる事も叶わない。


 「アレク、その辺にしておきなさい。」


 「仕方ないですねぇ。其処の矮小な人よ、神にその刃を向けるなら二度はないと理解せよ。」


 「このままではいつまで経っても話は進まない様だからゲームをしましょう。」


 「ゲームだと?」


 「そうよ。私はアドラメレクに力は借りないわ。それに魔法も使わない。貴方達は何人でも構わないわよ。それだけだとやる気も起きないわね。それならおまけに私に勝った者には一生遊んで暮らせるお金を稼がせてあげるわ。それにこのワタシを好きにしてもいいわ。夜のご奉仕もしてあげるわよ。」


 自分が負けるなどカケラすら思ってないからこその大盤振る舞い。


 それを聞いたギルドマスターはギルド内に居る冒険者に参加した者には金貨一枚を渡すと付け加えた。


 冒険者達の目の色が変わった。


 一体何処が琴線に触れたのやら。


 「分かった。条件はそれでいいだろう。それでお前の要求は何だ?」


 「私に金輪際関わらない事ね。破った場合は楽に死ねると思わない事よ。」


 またニーナの悪い癖が始まったと溜息を吐くアレク


 アレクはこの少女の苛烈さを知っている。


 ある意味では邪神よりも恐ろしい。


 敵になれば其処に一切の容赦や躊躇いは無い。


 全員の命を刈り取る事に罪悪感等皆無だろう。勿論其処には無垢なる民も含まれる。


 ニーナの性根は基本的には優しいし面倒みも良い。口では何だかんだと悪態をついていても必ずその者が幸せになれる道を違わず選び勝ち取る。

 故に敵に回るとその全てのベクトルは反対方向に向かう。


 中途半端はだから。


 「それじゃあお互いに条件も決まったみたいだからさっさと、始めましょう。」


 どうやら参加する者は冒険者が五人だけであった。


 「あれだけの人数居たのに参加するのは貴方達だけなのかしら?」


 赤い長髪のイケメン剣士がニーナに向かい


 「俺たちはこの街唯一のBランクパーティーだ。俺の名「興味ないか話さなくていいわよ。」

 

 「始める前に一つだけ忠告しておくわよ。私の剣撃は防御が出来ないわよ。」


 ギルドマスターも冒険者もニーナが言ってる事が理解出来なかった。


 防御出来ない攻撃等あり得ないと思っているからだ。


 「まぁやれば分かるわ。」


 ニーナは久し振りに背中の飾りと化して居た大剣を手元に手繰り寄せ構える。


 見た目からもかなりの重量がありそうだが、軽く片手で大剣を持つとクルクルと振り回した。

 

 ニーナが剣を振るたびに巻き起こる風と音がその大剣が普通の大剣では無いとその存在を主張している。


 「ウォーミングアップは終了。いつでも構わないわ。」


 ニーナは剣を構える様子は無かった。


 まるで遊んでいるかのように剣を手首だけでクルクルと回している。


 Bランクパーティーの一人がニーナに向かって走り出し牽制とばかりニーナに上段から剣を振り下ろした。


 ニーナはその振り下ろされた剣を巻き込んで自身の剣の腹で冒険者に叩きつけた。


 冒険者の剣は粉々に砕く。全く勢いが収まらないニーナの剣の腹が冒険者の身体の鎧を打ち据えるとまるでバットの真芯で捕らえた野球部ボールの様に一直線吹き飛び練習場の壁にめり込んだ。


 周りから見れば死んでる様に見えるだろうがそこはニーナもはしているので全身複雑骨折位で済んでいるだろう位の算段で剣を振るっている。


 「Bランクって程度なの? 益々こんな組織に価値はないわね。」


 頭の悪い者が弱い者を集めて粋がっている辺りどうしょうもない組織なんだろうとニーナは思った。


 「二球目はまだかしら?」


 煽る様に心底馬鹿にする様な声色で告げる。


 「くそっ、馬鹿にしやがって。」


 このBランクパーティーのリーダーは魔法使いに詠唱の準備をさせ残りの三人でニーナを囲む様に指示する。


 逃げ場所をふせぎ誰かの剣が当たれば勝ちであるからだ。


 お互いに目配せをすると二人は左右に展開一斉にニーナとの距離を詰めた。


 「へぇ、三球同時とは少しは考えたわね。でも......」


 ニーナは正面から向かってくるリーダーに向かってクルクル回していた剣を投げ付けた。


 まさか大剣とも言える様な物を投げ付けてくるとは思わなかったのか慌てて避ける様に体制を変えたのが運の尽きだった。


 剣を投げたのと同時に走り出していたニーナは投げた剣を空中で受取り慣性に任せてその勢いのまま体制を崩していた冒険者リーダーに剣を叩きつける。


 一連の自然な流れに防ぐために事も出来ずそのまま剣の腹で叩かれたリーダーも弾丸の様に吹き飛ばされていった。


 左右から斬りかかろうとしていた冒険者の二人は簡単にリーダーがやられた事に唖然としていると


 「ゆっくり見ている暇はあるのかしら?」


 リーダーが打ち出された方向には魔法使いが詠唱中


 魔法使いに弾丸の様に打ち出されたボールを避ける身体能力などある筈も無くそのまま巻き込む様に仲良く壁にめり込んだ。


 「久し振りの運動に身体もかなり馴染んできたわ。さぁ続きを始めましょう。残り二球よ。」


 ニーナは手首でクルクル回していた剣を再び右側に居た冒険者に投擲すると同時に走り出す。


 戦意喪失したのか来るな来るな化け物と出鱈目に剣を振り回している冒険者の目の前で直角に走り出す方向を転換


 自分に向かって来ていないと油断していた冒険者に走る勢いそのままに鳩尾に拳を叩きつけた。


 崩れ落ちそうな冒険者の背中を土台にして投げ出した剣に向かって大跳躍

 右手で剣を受け取ると空中で回転し綺麗に最後に残った冒険者の背後に着地した。


 「はい、お終い。」


 軽く頭に剣の腹を当てる。


 コンッと軽い音が鳴り最後に残っていた冒険者の意識を刈り取った。


 「こんなもんでしょう。」


 息一つ乱さず今から始めるとばかりの余裕にギルドマスターも偉丈夫に振る舞う事は出来なかった。


 Bランクパーティーが手も足も出ず子供をいなす様に遊ばれて倒されたのだから。


 ニーナはギルドマスターに


 「これで、私の勝ちよ。それとも貴方も遊んでみる?」


 ブンブンと首を横に振るギルドマスター


 「くれぐれも約束は破らないで頂戴ね。次は手加減なんてできないわよ。」


 そう言ってニーナは剣を背中に背負い直すと軽く伸びをしながら立ち去っていった。


 ニーナが練習場から戻りそのまま受付カウンター前を一瞥もする事なく後にする。


 そのまま何一つ発する事なく扉を開けて外に出ていった。


 何かに気付いた受付嬢達は慌てた様に練習場に走り出していった。


 中は惨状だったものの幸い死人は居なかった。


 軽症だった冒険者から後から聞き取りを行ったがとてもじゃないが人間の出来る動きとは考えられなかった。話半分位に書かれた報告書はギルド本部に送られる事になった。


 無能なりにギルド本部に事の経緯とニーナから言われた通りに【動乱を喚ぶ者ニーナ】には今後一切手を出してはいけないとギルドマスター名で書簡に追記されていた。


 それでも突っかかる奴は居るだろうが、そこまでは面倒は見切れない。

 最低限の約束は果たししそれで少女の逆鱗に触れたならそれはもう自業自得でクビを差し出すしかないだろう。

 

 マクシーの中の価値観もニーナによって若干の変化はあったのだろう。


 こうしてニーナはこの街を旅立っていった。


 ニーナに関わった者はそれぞれ運命が変わった者も居たが、少なくとも敵対しなかった者はそれなりの利益を享受出来た筈だ。

 

 

 「村を出て最初の街でこれだけ色々起こるなんて少女ちゃんは英雄の属性でも持ってるんですかねぇ。」


 「はっ、そんな物こちらから願い下げよ。」


 「過去の英雄が聞いたら泣きそうですねぇ。」


 「好きなだけ泣かせておけばいいわ。」


 ニーナは改めて幸せになる事もまた一つの復讐になるのだと一人の女性エイミーを思い浮かべていた。


 「私は間違っていないかしら?」


 「ワタシが保護者だから自信持つといいんですねぇ。」


 邪神が保護者ってその時点でもどうかと思うが。


 迷いは命取りになる。


 私は私の目的は必ず果たす。


 そう決意してニーナは進んで行く。

 

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