スケルトンの地下回廊


「ホェェエェェェェ!!!」


地下回廊に奇声が響き渡る。


奇声の主は、“華の騎士”の二つ名を持つ男、李信リーシンだ。


李の武器は中国らしくヌンチャク。鎖が自在に伸びるヌンチャクを巧みに操り、襲いかかってくる骸骨の兵士達を次々に粉砕していく。


地下回廊に生息する魔物、スケルトンはその名の通り、生きる人骨が武装している。


武器を持たない者から全身を重装備で固めている者まで、その容姿は様々で、個体によって強さも異なる。殆どの場合は、その強さは装備の質に比例するという。


「ホィェ、ハァァア! フォイ!」


李はヌンチャクを振り回しながら、甲高い雄叫びを上げ続ける。これが彼のスタイルらしい。


先頭を行く李が次々にスケルトンを打ち砕き、李が討ち漏らしたスケルトンをレイシーと俺が斬り伏せる。


後方にはローズが付いて、背後を警戒してくれている。


スケルトンも隊を組んでいるようで、地下回廊を歩いて、数分おきにまとめて十数体のスケルトンと遭遇する。


ローズの情報の通り、スケルトンから入手できる“時の針”は30から50程度だが、その動きは単調で、これまでのダンジョンに比べると、に感じる。


李とレイシーの動きが機敏で戦いやすいというのだろうが、それでも、スケルトンはそれほど強くない。


ちなみに、チェシャ猫は【吸血鬼の洋館】を出てからというもの、沈黙を貫いている。正直、ここまで来ると死んでいる可能性もある。


「ローズ、この回廊の先には、何があるわけ?」


最後のスケルトンを脳天から粉々に砕くと、李は一息ついて、後背を守るローズに問いかけた。


三人でかなりのスケルトンを倒した。これで死ミットもしばらくは保つだろう。


「半日かけて行けるところまで行ってみましたが、それでも終わりは見えませんでした」


「気になるところだけど、本格的な探索は後回しネ。各々、死ミットは二日分以上はあるネ?」


俺とレイシー、遅れてローズが頷いた。


「ん」


踵を返したところで、李がすぐに立ち止まった。


「強者の臭いがするネ」


ガシャン、ガシャン、と回廊の奥から音がする。


コンクリートで出来た回廊の奥、そのさらに奥の暗闇の中から現れたのは、体長三メートルを超える巨人のスケルトンだ。


「少しは骨がある奴だといいがネ」


「骨は全ての個体にありますよ」


「ローズ、そういう事を言っているんじゃ無いヨ」


巨人スケルトンが俺達を視認し走り出す。


俺は色装を発動しようか一瞬悩んだが、李が即座に前に出たのを見てやめた。


俺が出るまでも無い。


「ヒュエェエエェエエエェエエエエッ!!!」


李のヌンチャクが巨人スケルトンに向かって一直線に伸びる。


巨人スケルトンに直撃する直前で、ヌンチャクが巨大化する。


「巨大化も出来るのか……」


しかし、巨人スケルトンは左手の大きな盾でヌンチャクを弾くと、右手の、これもまた大きなハンマーを李に向かって振り下ろした。


「アクティブスキル『種子演舞』」


李の手元から何かが溢れた。


直後、地面から巨大な盾が突き出し、巨人スケルトンのハンマーを受け止める。


続け様に、李の手からまた何かが落ちたーーあれは大きな種だ。


種は地面に落ちると、途端に発芽し、一気に成長して、一つの植物となる。


「うーん、つまらんネ」


鋭く尖った大樹のように育ったその植物は、まるで矛のように一瞬にして成熟し、巨人スケルトンの身体を貫く。


「チャオ」


矛の植物でスケルトンの体を釘付けにすると、間髪入れずにその頭部を巨大化したヌンチャクが砕いた。


これが李の特異点の力。


「さっさと行くヨ。そろそろレオナルドの痴情も終わってる頃合いだろうネ」


崩れ落ちる巨人スケルトンに一瞥することも無く、颯爽とその場を後にする李。


“円卓の騎士”には、このレベルの人間がうじゃうじゃいるというのだから気が滅入る。


仮に、教団が本気でユートピアに攻め入ったら、あっという間に制圧されてしまうのではないだろうか。

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