第8話 世界は一つ 影響し合う
うなだれて帰ってきたアキを見て、ユリも悲しそう顔になった。
何があったのかだいたいわかってしまった。
「アキ?」
ユリが話しかけてもアキは何も答えず、自分の部屋へ入っていった。
ダンとユリが顔を見合わせた。
アキはベッドに寝そべっていた。
頭の中でぐるぐる回る考えや悲しい気持ちをどうすることもできなかった。
その時、部屋のドアをノックする音がして顔を上げた。
「アキ?お茶を淹れたからこっちにおいで。体冷えちゃったんじゃない?」
ユリの優しい声がした。
「…うん。」
アキは重たい体を起こして部屋のドアを開けた。
キッチンにはいつも通りの様子のユリとナギがいた。
「今日はブレンドのハーブティーにしたわ。」
そう言いながらユリはアキのお気に入りのカップにハーブティーを注いだ。
アキは椅子に座ってカップを受け取った。
少しスパイシーな香りがした。
アキはふーっと少し冷ましてから口へ運んだ。
硬くなっていた体がふんわりと緩む。
「はー…ママのハーブティーはあったまるね。」
ユリは何も言わず微笑んだだけだった。
「アキ、ちょっとこっちへおいで。」
リビングにいたダンがそう言ってソファから手招きした。
「うん。」
アキは自分のカップとダンのカップを持ってソファへ移動した。
「あちち、ありがとう。」
アキからカップを受け取ったダンもハーブティーを飲んで、あー生き返る~と言っていた。
「アキ、今日マザーツリーで隣のコミュニティの人達が話していたことを覚えてるか?」
アキはまた少し重い気分になったが、うんと答えた。
「アキも聞いたことぐらいはあるだろう?世界にはいろいろな問題があるって。
今は世界規模で環境の問題が進んでいるようなんだ。
北の地域でも同じで、空気も水も土も、自然の自浄作用が追いつかない程にどんどん汚染が進んでしまっている。」
アキは真剣な顔をして聞いた。
「北の人達や世界中の人達はどうしてそんなことをするの?」
「ん~みんな自然を汚してやろうと思っているわけではないと思うんだ。
ただ生きている目的が違うんだと思う。
大事だと思っているものが違うんだよ。」
ダンも真面目な顔で言った。
「歴史的な流れや、ある一握りの人達の思惑もあったと思うんだけど、力、つまりみんなより、それは自然も含めてな、
みんなより上に立つことが喜びだと思い込まされてしまったんだ。」
アキは一生懸命ダンが言わんとすることを理解しようとしていた。
「そうして何が正しいか、自分は何者か忘れたまま生きることが良しとされてしまった。」
「自然は人より下だと思っている。だから北の人や世界中の多くの人は自然のことを資源と言うんだ。物のように思っているんだね。」
「自然との調和という喜びを知らないんだよ。」
ダンの言わんとすることもわかるが、アキは何かが納得できなくてもやもやした。
「今日マザーツリーに来てた人が言ってたよ、北の人達や世界中の人達がそうやって自然のことを尊重せずに環境を破壊してるから自然がおかしくなってるんだって。」
アキは小さな怒りを込めてそう言った。
ダンは激しい目をしたアキの視線を真正面から受け止めながら、ゆっくりと言葉を選んだ。
「うん、地球は繋がっていて一つだからね、どこかで無理があればひずみができる。」
「でも何でそれでマザーツリーが傷つかないといけないの?」
アキは涙声でそう言った。
自分でも誰が悪いわけではないと分かっていた。
でもやるせない気持ちは無くならなかった。
ダンも、アキの怒りや悲しみが、マザーツリーを大切に想うからこそだとわかっていた。
「…うん、僕も、やっぱり悲しいのは悲しいよ。何で!?って思う。」
その言葉で、アキはダンも同じように感じていたことがわかって安心した。
「でもアキ、自分達に出来ることなんてほんの小さなことなんだよ。」
「環境の問題やあらゆることを誰かのせいにするのは簡単だ。
でも、アキ、怒りや悲しみは自分でただ抱きしめるだけにしとくんだ。
家族や親しい人にも抱きしめてもらえばいい。
だから、怒りや悲しみを原動力に行動したり、選択しなくていいんだよ。」
ダンがアキを想う気持ちは静かだけど熱かった。
アキは涙を流したが、その種類は変わっていた。
「マザーツリーは大丈夫だ、きっと。」
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