第6話 嵐の夜
ユリは珍しく不安気な表情をしていた。
ポップコーンツリーまで3日となったこの日の夕方、ユリは窓の外を何度も見て、家の中をうろうろしていた。
「ねぇ、ダンさん、やっぱりアキを向かえに行こうかしら。」
「うん、僕もそうしたいけどアキはどこにいるかわからないからな~」
そう言ってダンもまた窓の外を見た。
空には黒い雲がたちこめ、今にも雨が降り出しそうだった。
この地域は年中穏やかな気候で災害とも無縁の場所だったが、近年時々大雨が降ることがあった。
窓の外から見える空は不穏な様子だった。
「アキ、まだ帰ってこないの?」
ナギが自分の部屋から出てきてそう言った。
「うん、もう図書館のワークショップも全部終わってるだろうし、どこかで遊んでるんだと思うんだけど。」
「アキも敏感だから気圧の変化で雨が降る時は誰よりも早く気づくし、家に向かってはいると思うけど、よっぽど遠くまで行ってるか、何かに夢中になってるか。」
ダンがユリを気遣わし気に見て言った。
「そうね、でもマザーツリーの方まで行っててももう帰ってきていい頃だと思うんだけど。」
「あ、雨降ってきた。
…やっぱり、あんまり良い雨じゃないね。」
ナギがポツリと言った。
それからしばらくして、びしょびしょになったアキが帰ってきた。
「ただいま、ママ~タオル~」
アキのいつもと変わらない声に3人はほっとした。
ユリがはいはいと言いながら玄関へ走っていった。
頭を拭いていたアキだったが、何か違和感を感じた。
「ママ、やっぱりこのままお風呂入っていい?なんかベタベタする。雨が変だったよ。」
ユリもアキと同じように感じていた。
「うん、それがいいわ、湯船にお塩とハーブを入れて、しっかりあったまっておいで。」
「ふ~さっぱりした。」
お風呂から上がったアキが頭を拭きながらリビングにやってきた。
外はまだ夕暮れ前なのにすっかり暗くなり、雨と風が激しくなっていた。
「アキ、どこまで行ってたの?」
ナギが難しそうな本から目を離してそう言った。
「マザーツリーの森の奥の方。」
やっぱりな、とダンが言った。
「うん、でも途中で変な感じがして引き返した。
雨が降る前っていうより、何か気持ち悪いものが来る感じがして。
だからダッシュで帰ってきたよ。」
アキのその言葉に、家族全員がまた窓の外を見た。
その日の夜中にいよいよ勢いを増した風雨は激しく窓を叩き、家が揺れているようにも感じられた。
いつもはベッドに入って10秒で寝られるアキだったが、この日は寝ることができず、リビングにいるユリとダンにくっついていた。
そのうちナギも寝られないと言って起きてきたので、ユリがカモミールティーを淹れるねと言って立ち上がった。
「ここ数年、何度かこんなことがあったけど、一番ひどいかもな。」
とダンが呟いた。
「ねぇ、最近はなんでこんな変な雨が降るの?
マザーツリー大丈夫かな?」
アキは普通に聞いたつもりだったが、横に居たダンが頭を撫でた。
いつもよりずっと優しい手だった。
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