俺は手に入れた最弱の能力で、奪われた全てを取り戻して最強になる~異能力バトルに巻き込まれた俺が手に入れたのは、ただのしゃべる刀でした〜

猫又ノ猫助

1話 全てのはじまり

「あー、今日もバイト疲れたー」


 面倒な接客対応のせいでこった首や肩を回しながらスマホを開くと、現在の時間と共に一枚の写真が表示された。


 それは、入学式と書かれた看板をバックに真新しいセーラー服姿で天真爛漫てんしんらんまんな笑みをした少女――妹と、照れ臭そうに頭を掻いている学ラン姿の男――俺が寄り添っている写真。


 つい半年ほど前、妹の舞花まいかが親父に頼んで撮って貰った写真で、何故か舞花のスマホだけじゃなく、俺の待ち受け画面にも無理やり設定された写真だ。


 正直、この歳になって妹の写真を待ち受けにするのはどうよ? と自分でも思うが、舞花から「彼女が出来るまでは!」と強く頼まれたら、断ることが出来ない。


 自分でも甘いなと思いつつ、舞花が飽きるまでは続けてやろう……。


 なお、俺は彼女いない歴=年齢だ。


「っと、そう言えば珍しく舞花から連絡が来ないな」


 時間は既に19:05。


 普段であればバイトが終わると同時、舞花から電話が来ると言うのに、未だに連絡がない事を不思議に思い、電話をかけようとした所で……一通のメッセージが届いている事に気づく。


「なんだ、これ?」


 思わずそんな言葉が口から漏れ出たが、今いるのが繁華街のど真ん中だった事に気づき、慌てて口を閉じる。


怪訝そうな顔でこっちを見たてくる通行人達に軽く頭を下げた後、再度舞花から届いたメッセージを確認した。


――お兄ちゃん、今日こそ取り返してくるから待っててね


 そんな不可解なメッセージが送られた時間は、18:50。


 今から15分程前に送られてきたものだが、俺には舞花が何の事を言っているのかがサッパリ分からない。


取りあえず、「取り返すって何のことだ?」とメッセージを送って、暫く待ってみても既読が付くことはなかった。


「まっ、家に帰って直接聞けばいいか」


 そう小さく呟きながら、舞花の待つ家に向かってゆっくりと歩き始めた。


 ……俺と舞花は、今2人だけで両親所有の一軒家に住んでいる。


 と言っても、特に複雑な家庭事情が有るわけでは無く、大学教授の両親が頻繁に海外へ行っているだけだが、なんだかんだで俺達兄妹は幼少期から多くの時間を2人で過ごしてきた。


 だから、世間一般の兄妹と比べると、様々な悩みや相談事を兄妹で共有してきた方だと思っていたが……。


 舞花は高校に入学して以後、突然用事が出来たと外出したり、あからさまな嘘をついて隠し事をすることが増えて来ていた。


それでも俺達の兄弟の仲は良かったので、てっきり彼氏でも出来たのかと思っていたんだが、今回のメッセージはどうにもそんな浮ついた内容ではなさそうだ。


「ってあれ? 普段ここってこんなに人少なかったっけか?」


 考え事をしながら歩いていたせいで気づくのが遅れたが、今歩いているのは繁華街から少し離れた高層ビルが立ち並ぶオフィス街。


 本日が平日の水曜日なことも有り、普段ならこの時間はサラリーマンでごった返している時間だと言うのに、歩いている人はおろか車の一台も見る事が出来なかった。


 そんな見慣れた街並みの、見慣れない景色に思わず背筋が寒くなってくる。


「これは、一体……」


――リィン


 突然の異常事態に注意深く周囲を見回していた所で、澄み渡るような鈴の音が、耳に入り込んで来た。


「何の音だ?」


 不思議に思い周囲を見回して見るが、音を鳴らしているモノが何かは分からない。


 ただ、どうしようもない程にその音が気になって、音がする方へと足を進めて行く。


 徐々に音が大きくなるのを感じながら進むにつれ、街路灯の間隔が空いて行き、ただでさえ暗かった闇が一層深まるのを感じた所で……。


「痛っ……って、これは壁?」


 突然ゴンと頭から何かにぶつかったので、思わず頭を振りながら正面の何もない筈の空間へと手を伸ばすと、手には冷たく硬質な感触が帰ってきた。


 不思議に思いよくよく目を凝らしてみれば、薄っすらと紫色の膜が張られている事に気づき、上下左右を見渡すと、幅数十メートルにもわたり紫色の壁が広がっていた。


「一体これは……」


 そう呟いた所で、猛烈な勢いで空中から飛来して来る物がある事に気づき、慌てて近くに有った障害物に身を寄せた。


 ガガガッと重機が地面を削るような音と共に、目の前で炎を纏わりつかせた何かがバウンドする。


――何が起きているんだ?


 そう思って飛来してきた物体を注意深く見ようとした所で、上空をナニカが滑る様に飛行し――ピタリと停止した事に気づく。


――アレは、人間か?


 自分でもバカバカしい考えだと思うが、赤い光を放ちながら空中で静止しているソレは、大きさ的には人の様に見える。


 だが、見るからに重たそうな和服を身にまとい、感情をまるで感じさせない能面を顔につけ、背中から燃えるような羽を1対生やしたその姿は、不気味でありながらも何処か神々しく、無機物の様でありながらも確実に生きていた。


「……っく」


 何処からか少女のうめき声が聞こえた気がして耳をすましてみれば、先ほど派手に地面に打ち付けられたソレが、コスプレちっくな巫女装束を身に着けた少女である事に気が付く。


 というか、アレはっ――!


「――舞花っ!」

 

 今まさに地面に手を付いて立ち上がろうともがいている少女が、本来家にいるはずの妹だという事に気付き、俺は思わず叫び声を上げていた。

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