第一章 前場寄り付き

第3話 初顔合わせ

      

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「…えーと、…あなたが…『さや』さん?」


「そうだけど?」


 桐矢零央は、来客を迎えに出た門の内側で呆気に取られたような顔をした。

 日曜日の昼下がり、零央は門扉を隔てて一人の女性と対面していた。いつもは家政婦を通して迎える来客であったが、待ちかねていたためにチャイムを聞くと同時に玄関のドアを開け、自ら門まで迎えに出ていた。零央自身の服装もいつもとは違っている。プレスの効いたシャツとスラックスの組み合わせにしていた。淡いクリーム色のシャツに爽やかなグリーンのネクタイを締めていた。


 零央の家の門は四角く頑健な形をしていた。敷地を囲む塀と一体となった門は、重厚な金属製の門扉で閉ざされていた。両開きの門扉は四隅が埋まり、上に寄った場所に大きく四角い窓が一つ開いていた。正方形を傾け、角を上下左右に配した窓は四角い格子で仕切られており、向かい側を見通すことができた。


 来訪者は涼岩小夜という名の少女だった。休日なのに制服姿だ。胸元の詰まったセーラー服は深い紺色をしており、襟と袖に三本の白い線が入っていた。襟の前部分が小さいために地味な印象のある制服だった。襟に結ばれた臙脂色のスカーフがかろうじて彩りを添えている。スカートのポケットに入れた左手の小脇には明らかに細工をした平たい学生カバンを抱えていた。

 対照的に小夜自身は目立っていた。長くしなやかな髪が背中まで届いている。色は見事な茶髪だった。髪の毛は左で分けられ、前髪が額の右側にかかっていた。細い眉とその下の鮮やかな輝きを持つ瞳が整った顔立ちを勝気に見せていた。


「…」


 零央は、しばし無言で小夜と視線を交わした。緩慢な動作で門扉を開けると小夜の全身が目に入った。

 戸惑いを覚えた零央は視線を下に動かした後で表情を固めた。制服のスカートは異様に長く、足首丈だった。


 …これは…、いわゆる『ヤンキー』という方では…。


 小夜の装いがもたらした感想だった。言葉を継げずにいると小夜が口を開いた。


「あんたが『れお』君?」


「あ、はい」


 初対面で出た『あんた』という言葉に幾許かの抵抗を覚えながらも零央は返事をした。


「想像してたのと全然違うね」


「…」


 また、言葉が止まった。


 …それはこっちの台詞なんですけど…。


 心の中で零央は反論した。父親から伝え聞いていた涼岩小夜という名前から想像していた人物像からは目の前の少女の姿はかけ離れていた。もっとも、勝手に想像を膨らませた人間が悪いのだと言われれば、それまでだ。


「招かれといて何だけど、ここで話すんの?」


 小夜の言葉に零央は役目を思い出した。


「すみません。こちらへどうぞ」


「お邪魔します」


 小夜が軽く頭を下げて中に入る。零央は門を閉めると先導して庭を渡った。

 零央の家は広大な敷地を有していた。千葉県北東の高級住宅街にある敷地は庭の占める割合が大きく、横に長いながらも建物は縦側の奥まった場所にあるため玄関までの距離は遠めだった。豊富な植栽の緑の連なりの中を二人は敷石でできた小道を歩いた。

 開放的で洗練されたガラスの周辺部と高さのある木製のドアで構成された玄関まで辿り着くと、零央は小夜を客間に通した。

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