第33話:せんべいってなんですか……

 大楯さんと竜さんなんですが……。

 私要らなくないですか?


 私の眼の前で、オークを圧倒する二人。

 まずは大楯さんが突っ込んで行き、相手の攻撃を盾で受けた後、そのまま木槌で武器を跳ね返し、竜さんにさらりと交代して、竜さんが隙だらけのオークを一刀両断!っていう戦法です。

 半人前みたいになっていますよ……。


 周りを見てみれば、皆さん、苦もなくオークを圧倒していました。オーク、いわゆる雑魚キャラなんですね。

 遠距離攻撃の人なんか、矢の温存だって言って攻撃をすらしていません。余裕です。


 となると、あのサイクロプスっていうやつと十五……いや十六人で戦うことになりますね。

 一対十六なら、あの大きさでもなんとかなるんじゃないでしょうか。

 そうやってよそ見をしていたら、横から茶色い影が。


「きゃ!」


 私の耳の辺りを掠める棍棒。

 危なかったです……。もう少しでリンチからのミンチでした……。


 サッと竜さんたちの方を見ると、今二匹目を倒し終わったところのようなので、助けに入ってもらいます。


「すみませーん!竜さんと大楯さん!ここを手伝って貰えませんかー?」


 そう言っている間にも、もちろんオークは攻撃してきます。頭を狙って乱暴に振り抜かれる棍棒を、しゃがんで躱します。


「あなたは今の状況でどうして余裕あるのよ!?」


 すぐにやって来てくれた大楯さん。私はさらりと横にはけて、大楯さんがオークに突進攻撃できるようにします。

 そして、大楯さんの突進攻撃。

 ガンッと硬いものどうしがぶつかった音が響きます。


 そのまま、少し筋肉の曲線が目立つ腕でオークの棍棒を持っている腕を抑えつける大楯さん。

「すまん、自分たちのことで手一杯だった」

 そう言って現れた竜さんがオークを両断。


「いえ、助かりました。それにしても流れるような作業ですね」

 そうです。まさに作業です。


「そんな簡単なわけないわ。ほら」

 そう言って大楯さんは、ドサリと持っていた盾を棄てました。まるで、お月様の表面みたいにボッコボコです。


「オークの攻撃には、鉄の盾であろうともこのザマだ。さっき、君は危なかったんだぞ?」


 て、鉄の盾って……。

 私は目の前の、アルミホイルかと思っていた盾を見て息を呑みます。


「でも無事でよかったわ。オークの攻撃も危なげなく避けてたし。もしかしたら、あなたって私たちよりも強いかもね」

「いやいや、そんなわけないですよ。私はオークの攻撃を受け止めたり、一刀両断したりできないですし」

「さっきはあの青年の意識を一撃で吹っ飛ばしたのにか?」

「竜さん、それは言わないで!」


 私の罪を思い出させないでー!


「さっきから思っていたんだがな、竜さんってなんだ?」

「あぁ、それはですね、私の心の中での呼び名でした。すみません、つい表に出ちゃいました」

「そういえばワタシたち名乗ってなかったわね。ワタシはオタテ。で、彼は」

「リョウだ」


 おしい!

 あとちょいじゃないですか!

 私は二人にバレないよう、心の中でそう叫びます。


「私は愛美です。以後お見知り置きを」

「うむ」

「何がうむよ、カッコつけちゃって。よろしくね愛美ちゃん」

「はい!オタテさん、リョウさん!」


 粗方のオークを倒した私たちは、まだサイクロプスとの戦闘が始まっていないことを確認して、互いに握手を交わしました。


 そうしていると、横から茶色い影が、私たちの方に突っ込んで来ました。横目でそれを確認した私たちは、バッと、臨戦態勢を整えます。

 ですが、


「すみません!!ちょっとこれ借りて行きています!!」


 現れたのはフランさんでした。ベージュの服が紛らわしいんですよ。


「あ、うん、いいけど壊れてるわよ?」


 よっぽど急いでいるのか、そんなオタテさんの言葉も聞かずに、一目散に走り去るフランさん。


 その走る先––––村の辺りを見てみると、初めて見る鎧の騎士が。


 鉄仮面で顔が覆われていますが、背部に垂れる金糸と丸っこい身体が、女性であることを示しています。


 そしてその人は、村と外部との境界線を示す見張り台の辺りに立ち、村を眺めています。

 ただ村を眺めているだけかに見えたその人が、大きくのけぞったと思ったら、


「村人よ!剣を棄てよ!弓を持て矢を番え!あの怪物が恐ろしいなら近づかなくてよい!代わりに矢を番えよ!」


 と、私たちにもはっきりと聞こえる、低い声を轟かせました。地を揺るがす足音にまったく負けない声。

 さらにもう一度息を吸い、

「前衛は我らが引き受ける!安心しろ!」

 とも。


 この低い声は……聞いたことがありました。

 鉄仮面の中で反射してエコーがかかったみたいになっていますが、フランさんが必死なのを見ると、私の考えは間違っていないことがわかります。


 そして、その低い声を聞いた村人たちは、ガチャガチャと剣を棄てていき、それぞれの家の中から弓を持ってきました。


 遠くてよくは見えませんが、戦意が湧いてきたようです。後衛という、比較的安全な場所での戦闘、ということと、オークが着々と殲滅されているこの状況に、不安な要素が取り除かれた結果でしょうか。


 応援がいるなら、あのでっかい魔物だってきっと斃せます。好転していく戦況に、私の心は軽くなった。


 右翼の方を見てみると、二、三体残ったオークを仕留めているところでした。向こうには大楯さんのようなサポート役が少なく、ヒットアンドアウェイで、確実に安全を確保しながら戦っているようです。

 私ほど耳もよくないみたいなので、さっきの演説にも気づいていません。


「リョウさん、オタテさん。あの人は村人の援護を受けて、あの怪物を斃すつもりです。私たちも行きましょう!」


 叫び終わった後に、サイクロプスに突撃していく鉄仮面を指差し、私はそう言いました。


「なに!?あのサイクロプスに突撃しているのか!?」

「無茶よ!あんなの伝説級の強さがないと一撃でやられちゃうわよ!」

「え?」


 そんなに強いんですか?やばくないですか?


「生身の人が攻撃を受けたらどうなりますか?」


 恐る恐る聞いてみます。


「愛美ちゃんはせんべいって、知ってる?」

「あぁもう分かりましたいいです」


 ぺしゃんこになるってことですね、はい。

 って、やばいですよ!


 そう気づいた瞬間に、私はフランさんの後を追って駆け出しました。

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