第8話:修羅場ですか!?
朝方にユーリさんのお腹の上で寝ていると、何やら騒がしい声が聞こえてきて、目が覚めました。
「何が認めてくださいですの!財産目当ての癖に!!」
「そんな、違います!」
「ルナ!マリーはそんなんじゃない!」
「お父様もマリーもお母様を裏切ったんですの!」
バタン。
ドタドタドタ。
ガチャ。
「ぎにゃ!」
なんだなんだと扉に近づいていた私はびっくりして跳び退きました。ドタドタ足音が聞こえて、にゃんだにゃんだと思っていたら、いきなり扉が開いたんですから。
扉を開けてやってきたのは少し背の高い女の子。大人と子供の中間くらいでした。
その子の目には涙が溜まっています。
「にゃんにゃー?」
恐る恐る、『どうしたんですか?』と話しかけてみます。
「きゃ!何ですかこれは!」
やってきた女の子は私に驚いたようで身構えたのですが、私が何もしないことに気づき、警戒を解きました。
「あなた、魔物なんですの?」
「にゃうん?」
『魔物?』この人は猫さんを知らないんでしょうか、箱入り娘ってやつですかね?
私でも猫さんやワンちゃん、リスさんなどいろんな動物を知っています。
こんな可愛い動物たちを知らないなんて、少しかわいそうですよ。
そして、やってきた女の子は部屋をキョロキョロと見回し、「きゃ!お母さんの部屋で男の人が寝てますの!」と叫びました。
さらに、その声を聞きつけた村長のセドルフさんがやって来ます。
「この人はこの村の恩人、ユーリ君だ。そしてこの可愛い生物はユーリ君が大事そうに抱えていた子だよ。恐らく
隷従って、ペットと飼い主さんの関係ですかね?それなら多分そうですね。はい。
ですが、今はそんなことはどうでもいいみたいです。
「お父様!お母様の部屋に人を泊めるなんて!」
「ルナ、レナードはもういないんだ。悲しいが、私たちは次に進まないといけない」
「それがお母様に対する裏切りだっていうんです!もう知りませんの!」
「にゃあ!?」
「ルナ!?」
ルナさんと呼ばれた、女の子は私をひったくるように抱え、そのまま屋敷を飛び出してしまいました。
私、
ユーリさんは
村の屋敷を離れ、乱暴に走るルナさん。
その腕の中はお世辞にも快適とは言えません。
ぐわんぐわん視界が揺れます。
♢♦︎♦︎♢♦︎♦︎♢♦︎♦︎♢♦︎♦︎♢♦︎♦︎♢
乱暴に揺さぶられ続けた私が、気持ち悪くなるんじゃないかと心配しだした頃に、やっとルナさんは止まってくれました。
そこは村のお花畑のようで、様々な色の花が咲き誇っています。
「ごめんなさいですの、無理やりこんなところに連れてきちゃって」
「にゃん、にゃうんにゃにゃにゃー」
私は『いえいえ、こんな素敵な場所にありがとうございます』と続けます。
「ふふっ、あなた喋れるのですね。可愛いですの」
「にゃうん!」
可愛いですか!それは『ありがとうございます』と言いました。
「にゃんにゃんにゃにゃにゃ?」
ですが、『なんで朝から修羅場になったのか教えていただけませんか』と聞くと、あれ?これってなかなか失礼な質問ですね、ルナさん、怒ったりしませんかね?という日本人的な不安に襲われました。
「にゃうん?」
『失礼でしたか?』と聞くと、ルナさんは、「いいえ、そんなことはありませんの。勢いとはいえ、無理やり連れてきてしまった私も悪いですから。そのくらいの説明はしますの」と言いました。
あれ?おかしいですね。
私はくるっと回って自分の尻尾を確認しました。大丈夫です。ちゃんと縞々の尻尾は付いていました。私は猫です。
ということは……。
「にゃにゃ!?」
つい私は『言葉通じてます!?』と大きな声を上げてしまいました。
「そうですの、私には言語理解のスキルがありますから。それがかなり高レベルなものみたいで、動物の言葉も理解できますのよ?多分、人間の言葉が理解できるあなたにもついているのじゃないでしょうか」
「にゃーる」
『なるほど』と言いましたが、さすが異世界ですね、とは口に出しませんでした。変な目で見られるかもしれませんからね。
「それではあなたの謎が一つ解決したところで、私の話しをしますの。ちょうど、相談相手が欲しかったところでしたし」
それから、ルナさんは今日のことに至った経緯を教えてくれました。
––––二十年前、ルナさんがまだ生まれていなかった頃まで、話は
その頃、今回のように強力な魔物の侵攻があったそうです。
そこで魔物たちに立ち向かったのが、村人たちと、セドルフさん、レナードさん。
二人は、村人と強力し、背中を合わせて魔物たちと戦いました。
そして見事、魔物を打ち倒すことに成功します。
その戦いの中、お互いへの想いが芽生えたセドルフさんとレナードさんは結婚。
そして、その戦いでの功績が讃えられ、まだ若いながらもセドルフさんは、高齢になった当時の村長に代わり、村長になったのでした。
セドルフさんが村長になり三年後、村長としての仕事が落ち着いてきた二人の間に、めでたくルナさんが誕生するのです。
そして、家族三人、平和な生活を送っていました。
ですが、十年後、また強力な魔物が侵攻してきたのです。
その時、セドルフさんは日々の業務で忙しく、まったく武器を握らない生活が続いていました。
ですが本人は、戦う気が無かった訳ではありませんでした。ただその時、他の村と情報を交換するために、遠出していたのです。
その代わりに立ち向かったのが、他でもないレナードさんでした。
その時の侵攻は魔物の数が少ない代わりに、その分力が集約されている、といった形でした。
人々は、数で魔物に押し勝っていったですが、そこに一際強い魔物が現れ、人間は後退を余儀なくされます。
その魔物は他の魔物と比べ物にならないほど強く、手に持つ棍棒一振りで、何人もの人を打ち飛ばしたそうです。
その魔物は、人々から『怪物』と呼ばれ、恐れられました。
ですが、人間側にもその化け物じみた魔物に対抗できる人材がいました。
レナードさんです。
レナードさんはその怪物と、互角に渡り合い、死闘を繰り広げます。
その戦いは、他の人に手が付けられないほど激しく、大地を割り、空気に轟音が
結果は、相討ち。
レナードさんは最後に、地面に打ち伏した怪物を、誇らしげな顔で見下ろし、『村を守ったよ、セドルフ』と呟き、その場で力尽きたそうです。
そして話は現在にまで至ります。
レナードさんを失って七年、セドルフさんはマリーさんの助けもあり無事、その悲しみから立ち直りました。
そこまではルナさんも、快く思っていたのですが、そこから先がまずかったのです。
最近になって、セドルフさんとマリーさんが再婚すると言い出したのです。
そしてそこに重なるように起こった今回の魔物侵攻。
当然、ルナさんたちにはレナードさんの記憶が掘り返される訳です––––。
そうして、朝の会話に繋がります。
「にゃうなうにゃ」
『そんなことがあったんですね』と、私は潤む目頭を猫の手で押さえ、溜息を吐くように呟きました。
「そうなんですの。本当は、私の心の中に、二人を祝福したい気持ちもあるんですけど、お母様抜きで幸せになってしまったら、いずれ忘れてしまいそうで、怖いんです」
「……」
そう言ってルナさんは肩を抱き、ぷるぷると肩を震わせて涙を零しました。
私にはそれを、ただただ見つめることしかでしません。
でも、これだけはしてあげようと、私はルナさんの背中をゆっくり、ゆっくりとさすりました。
朝方という時間帯のせいか、少し肌寒い風が花畑に吹いています。
そして綺麗な花畑に、ルナさんの涙のような青い花びらが舞い、私の頬を撫でていきました。
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