第1話:お持ち帰りですか!?
「ふにゃぁ」
お腹が空きました。
夕焼けがきれいな時間まで、たっぷりと寝たところで、眠気に空腹が勝り、私は目を覚ましました。
草木の葉に、茜色の光が反射しています。私の身長、目線の高さは10センチくらいでしょうか? その高さからでは、見えるのは短い草、見上げればいくつか木が立っています。
最初の冒険の地はここですね!
さて、食べ物を探す冒険に出かけましょう!
立派な肉食動物の猫の目で探すと、たまにリスさんなんかが木に登ったりするのが見えるのですが……リスさんを食べるなんて可哀想なこと、私には無理です。
可哀想なことを考えるのは止めにして、お肉の他に猫でも食べられる物を探すことにしますね。
そういえば、猫さんでも食べられる果物があったような気がします。
することがなかったので、図鑑や本などを読んでいましたから私は色んなことをしっているのです!
記憶によると、猫さんが食べていいのはりんごや、イチゴ、梨、メロン、桃、スイカなどです。
そのなかで、この草原にありそうなのは、木に実ってそうなりんご、桃、野イチゴが有名なイチゴなんかですね。
りんご……桃……。
木登りですか! 楽しそうです!
この草原で、野イチゴを探し回るという案もあったけれど、私は人生、いや猫生初の木登りをしてみることにしました。
やってみると意外と簡単でした。
身体が軽いのと、爪がしっかり木の幹に引っかかるので、結構高い木だったけどひょいひょいと登ることが出来たのです。
果実は実っていなかったけれど、じつは木に登ったのは食べ物だけが目的じゃないんですよ。
今まで読んだ物語の中で、やんちゃな兄弟の冒険の話、木の上から見る景色は最高だ、というのを見たことがあります。
私はその景色を見てみたかったのです。
実際に、その景色は最高でした!
「にゃぉー!」
夕焼けに照らされる草木、太陽が沈んでいく地平線。地平線のあたりには建物とおぼしき、それほど高くはない凹凸が。
全てが初めての光景。
私は、『綺麗!』と言ったつもりだったけど、それが猫語に変換されているのも気にならないくらいすてきでした。
そこに、草木とは違う色合いの、動くものが一つ。私の猫目が動くものにサッと反応して、視界に捉えます。
そのシルエットは――。
ここに来て初めての人間ですね!
夕焼けがバックになっていて、顔まではよく確認できなかったけれど、シルエットから人間だと判断しました。
かなり近くにいます! 話しかけたら気づいてくれそうです!
「にゃーにゃ! にゃーにゃ! にゃーにゃ!」
今のは、『こんにちは! こんにちは! こんにちは!』と言いました。
「んん……? あぁ! 子猫があんな高いところに!!」
男の人は、さほど低くなく、耳触りのいい声でそう叫びました。
私に気づいた人は、私が木から降りられなくなっている子猫だと勘違いしたようですね。
すぐに木を駆け上がり、私を抱きかかえてくれました。
そして、夕焼けの逆光でよく見えなかったその姿が、しっかりと窺えるようになります。
私を抱きかかえてくれた人は……。
まさに王子様!!
そう思う程の美形です! 絶世の美女ならぬ絶世の美男子ですよ!!
適当な長さの黒髪をさらりとなびかせる、黒目の少年。見た目は前世の私と同じくらい、16歳くらいに見えますね。
服装は、日本では見かけないような格好だけど、青系の色でスタイリッシュに決まっています。
まるで、雑誌の中のモデルさんみたいです……。
私が見惚れていると、男の人は、「こーら、こんな高いところに登ったら危ないだろぉー?」と、私の頭を撫でてくれました。
はうぅっ!!
こんなイケメンさんに抱っこされて、なでなでなんてーーーー!!!
まさに、『生きててよかったーー!!』ですね!
一回死んだばかりですが!
私は目を瞑り、されるがままです。
今まではどこにあるのかわからなかった猫の小さな心臓が、とくとくと音を立てて存在を主張しているのがわかりました。
「よーし、いい子だなぁ。ふっと!」
ひとしきり私を撫で終わると、男の人はひとっ飛びに木から降りました。
「にゃあ!?」
びっくりです! 今の木は目測ですが、5メートル程はありましたから。普通の人なら骨折は避けられませんよ!?
ですが男の人は痛がる素振りなど微塵も感じさせずに、華麗な着地を決めてしまいました。
猫みたいな人ですね。
「にゃにゃあ?」
一応、『大丈夫ですか?』と聞きました。
「大丈夫だよ、このまま連れて帰ったりしないよ」
そう言って男の人は、私をそっと降ろし、去っていきます。最初は通じたと思ったのですが、微妙に通じてませんでしたね。
私はこのまま去って行かれるのは寂しいと思い、猫の身軽さにに物を言わせて男の人の前に、回り込みます!
「にゃーんにやっ! にゃーにゃにゃん?」
『待ってください! もう少しお話ししましょう?』と言いました。
こんなに元気に走り回ったりできるんですから、もっと遊びたいのです。
私はこの辺りに知り合いなどいませんし、一緒に遊べる『人』が欲しいのです!
後ろ足だけを地面につけて、前足を、まだ乗ったことのない自転車のペダルを回すようにクルクルし、遊びたさをアピールします。
「お前……」
男の人は
影が顔の表情を隠す。
怒らせちゃいましたか……?
クルクルをやめ、そっと顔色を伺いに行くと――
「可愛いにゃーーー! もう!!」
「にゃにゃ!?」
ギュッと抱きしめられてしまいました! しかも、語尾に猫語が混じってますよ!
どうやらこの人、そうとうの猫好きのようですね。もしかして私、火つけちゃいました?
ふにゃりと目尻を下げて、男の人は「連れて帰ってもいいかにゃ?」と言っています。
つ、連れ帰るんですか!? お持ち帰りですか!?
「にゃーにゃー!?」
私は前足を広げ、率直に驚きを表現します。
猫語が伝わらなくとも、ジェスチャーなら伝わるはずですから!!
あ、ちなみに今のは『お持ち帰り!?』と言いました。
「そうか! 万歳か!」
「……」
あ、勘違いしましたね。
こういう間違いが起こるので、ジェスチャーも選ばないといけませんね。
今更いってももう遅いですが……。
諦めて身体を預けると……あぁ、眠くなってきました。
走り回ったのと、この人の温もりが心地いいせいですね……。
「にゃおーん」
あぁ、大口開けてあくびもしちゃいました。女の子なのにはしたない。
まぁ、猫の手じゃあ隠しても隠しきれませんけど。
腕の中で丸くなった私を見て、男の人は鼻歌交じりに歩いていく。家に帰るんでしょうね。
ちょっと大人な本で読んだ、眠っている間や、意識が
私、齢16、いや転生したから、齢0歳にして、初めての『お持ち帰り』を経験です。
だけど、思っていたのと違い、それはとても心地いいもので、ゆっくりと
ZZzz……
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