異世界に猫として転生したのですが、イケメンさんに拾われちゃいました
九里 睦
プロローグ
白い天井、白いベッド、白い服の看護師さん、お医者さん、偶然だと思うけど、白い服を着たお母さん、お父さん。何もかもが白い病室。
白い病室のベッドで横になっている、これまた白い顔の私を、みんなして悲しそうに覗き込んでいる。
お母さんとお父さんに至っては、顔がシワでくしゃくしゃになっていて、涙までボロボロと溢れでている。
私は、そんなに泣かないでよ、と家族に微笑んで見せる。
私は幸せだったんだから。
走馬灯のように思い出されるのは、小さい頃の思い出や病院で過ごした家族との思い出。
入院する前に家族で行った温泉、買ってくれた浴衣、自転車、そして、時折見せるお母さんとお父さんの笑顔。
全部全部、忘れない。大切な思い出。
そんな思い出をくれて、私を幸せにしてくれた家族には、最後にどうしても伝えたい言葉がある。
――それは感謝の言葉。
私は文字通り最後の力を振り絞り、『今までありがとう』と口を動かした。
生命力を振り絞った私が瞼を降ろすと、病室に電子音が鳴り響いた。
「
電子音も、私の名前を呼ぶお父さんの声も、すぐに闇に沈んでいく。
幸せだったけど、一つだけ……。
――もし、来世があるなら、元気に草原を駆け回りたいな。
それだけが心残り。
毎日病院の窓の向こうで気持ちよさそうに日向ぼっこする猫ちゃん、飛び回る鳥さんたち。その姿が、とても羨ましかったな……。
『儚い少女よ、その願い、聞き届けましょう』
そんな声が聞こえた気がした。
♢♦︎︎♦︎♢♦︎♦︎♢♦︎♦︎♢♦︎♦︎♢♦︎♦︎♢♦︎♦︎♢♦︎♦︎♢
暖かな光を感じて目を覚ましたら、そこは草木生い茂る、どこかの草原でした。ここは天国でしょうか?
「んにゃあ?」
あれれ!? 私のすぐ側から猫ちゃんの鳴き声が聞こえますよ! 猫ちゃんどこですか!?
あ! しっぽが見えました! 追いかけますよ!
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる……。
「にゃあ……。にゃあ……。にゃあ……」
しばらくぐるぐるして気付きました。
猫は私です。元気な身体が嬉しくてつい、はしゃいでしまいました、はい。
でも、おかしいな。
思い出せる最後の記憶は病院のベット、見守る家族、温かい手。そして、ピーーーーと、生命の終わりを告げる電子音。あの時確かに私はしんだはずです。
つまりこれは世に言う『転生』とやらですね!?
だとしたらここは異世界ですか!?
私はこの世界が、地球かどうかを確かめるために、猫の身軽な身体でピョコピョコと草原を駆け回りました。
顔が近いのと、猫の嗅覚が鋭いのとで草の匂いがとても濃く感じられます。
あ、お花! いい匂いですね!
でも、草原が広すぎて、ここが地球かどうかなんてわかりませんね……。
それに、しばらく遊んでたらなんだか、眠くなってきました……。
子猫ちゃんは1日18時間寝るんですよ?
だから私も寝ます。
私は、手頃な木を見つけ、木漏れ日が暖かい場所で丸まって眠ることにしました。
暖かい日の光、爽やかな風、草木の香り。
病院のベットとはまるで違う環境に興奮しながらも、眠気によっていしきは、うすれていきます……。
おやすみなさい。
そして私はとっぷりと眠りに浸りました。
この眠りが私の運命を変えるとは知らずに。
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