三章――武術科と屠勠者
八十五話――アナタはダレ?
苦しい。苦シイ。苦、し、い……。
誰か、誰か止めてくれ。俺を、止め……てく、れ。だれか、ダレカ、誰か……。
誰か、誰かいないか? 俺を止めてくれる誰か、どうか、早く、早く来てくれ。
……誰も、いないのか? ここに、誰も、いて、くれないのか? なぜ……?
助けて、くれ。頼む……。誰か俺を助けてくれ。助けに来てくれ。心臓が焼け爛れて痛い。心が、苦しい。だからどうか頼む。救ってくれ。その為に、俺を、殺してくれ。
――誰? あなたは、だれ?
ああ、どうして。どうしてあのコがあんな目に? どうして俺は助けられなかったんだ!? 俺たちの力があれば助けることなど容易だった筈なのに、その為に在ると自負していたのに!? 俺の、俺たちのこの力は破壊でなく、救いの為にと思っていたのに……。
これではあのカスを笑えないではないかっ!? 俺のしたことはそういうことだ。そうだ。知っている。知っているし理解しているのにどうしても衝動は止まらない。
だからお願いだ。正気のある誰か……。俺を止める為に、そして救う為に殺してくれ。
そうすれば俺はあのコたちの下へゆける。同じじゃないかもしれない。こんなことをしたのだ。同じところへはいけないかもしれない。でも、同じ、死の世界だ。彷徨えばきっといつか……。今の俺にはそれくらいしか希望がない。持てない。不可能だ。
――誰なの? やめて。あたしの中で泣かないで……っ。そんな絶望を叫ばないで!
悔むばかりだ。どうして安心してしまったのだろう? 目を離してしまったのだろう?
もしも、そうでなければ救えたかもしれない命。多くの命を代償に求めた俺は――にとってもはやただの悪魔。邪悪なる者でしかないのだろう。今後はそう、語られていく。
わかっている。けど、不思議と悲しくはない。それは先んじて裏切られたことで起こる感情か? 俺はもう、――を愛してはいないのだろう。愛せなくなったのだろう。
簡単すぎる答に納得し、俺の闊歩は続く。生きるものも、者も、無機物すらも関係なく破壊の対象になって俺を発狂させ、存在することであのコへの狂おしい愛を思いださせ、あのコたちを想って俺は壊れていく。狂い叫びながら破壊し続ける。なす術もなく。
「やめて……」
どうすることもできない。苦しくてそれどころじゃない。壊し続けなければ本当に狂ってしまうのだ。だから、救いの誰か以外俺の前に現れないでくれ。お願いだ……。
「やめて」
壊してしまう。なにもかも。この身を焼き焦がす炎がすべて喰らっていくように。仇を討つまで続いていく激情をどうしても抑えられない。助けて、たすけて、タスケテ……。
俺の愛はどこにいった? ……あの男のせいだ。すべてが、あの、悪鬼のせい。絶対に討ってやるぞ咎人よ。憎み呪い恨み、首だけとなろうとも必ず殺す、あいつを……ッ!
「やめてぇええええええええ!!」
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