四十話――お手伝いを引き受けて


 シオンのある意味すごい言い分に驚いてしまったらしい。が、シオンこそ気まぐれというか沸点がどこでぐつぐつしているかわからないひとだ。先はあのふたりを先んじて威圧までしたのにそれが気分、気まぐれでしたことだ、と言われりゃそりゃこけるしかない。


 てゆうか、気分ぽっちなことであんな殺気をばらまく方が怖い気がする三人である。


 その怖いシオンは珈琲を飲み干して会計に立っている。会計台のところでシオンは自分の定食代を支払い、先ほど百貨店で購入した衣料品に必要最低限の生活用品を詰めた紙袋を手にし、三人を待っている。立ち姿は完璧。欠損が見当たらない美しさで在る女戦士。


 優しいのか冷たいのか、怖いのか温かいのかわからない。今ひとつ真意が掴めないひとだが悪いひとじゃない。それは三人共通の意見。シオンは無表情で待っている。


 あまりお待たせして蹴られてはアレなので三人も急いで会計し、シオンに追いつく。シオンは三人が追いついたと同時に歩きだす。歩く姿も非常に絵になる。無駄のない、優美でしなやかで冷淡で力強い歩み。なのに、その足下はなぜか今にも崩れそうに見える。


 理由はわからないがわかる。無表情で進む戦国島の元女傭兵。彼女は目覚めてから今までに表情を変えたことがない。だから、脆くうつる。異常に、儚くて傷ついて見える。


 幻かもしれない。でも、なぜなのかとても辛そうで悲しそうな目をしている気がする。現状に憂いを覚えている。もしくはなにかに激しい後悔を覚えているシオンは危うい。


 無表情の下に隠れてしまう本心。見たいと望んでもシオンはきっと見せてくれないとわかる。なまじわかってしまうだけに心苦しい。いったい彼女はどれほどのものを抱えて生きてきた、生きているのか、と思ってしまって。まだ心許されないのは仕方がない。


 仕方ないのだが、どうにかして心の澱を見つめ、取り除いてあげたい。シオンは拒否するかもしれないが、それでも……。こんなにも可哀想なコをクィースたちは見たことがなかった。無表情で隠し、心の奥底で涙する。そんな、まだ心幼い少女を……。


「荷物置いたらパックジェ地区のお土産市にいこ! 今月東方系の特集でね、四季休みの課題に必要なものがいろいろあるの。勉強手伝って、シオン。お願いっ!」


「ちょ、こら、抜け駆けすんな、クィース」


「ちょっと、課題は自力でしなさい」


「ヒュリアはいいじゃん。頭いいし、貴重な東方文化の資料も見放題でしょ?」


「関係ありません。とにかく、まだシオンは病みあがり(?)なのだからあまり無理は」


「構わぬ、バデトジェア。世話になった分は返す主義だ。借りっ放しは危険だと承知故」


「? うー、じゃ、じゃあ、私も話を聞きたいわ。資料じゃなく実際体験した生の声が聞きたいから。そうでもなきゃあの島国の話なんて聞けやしないもの」


「うむ」


 一言返事をしてシオンはさくさく歩いていく。不自然なほど自然とシオンの隣を取っているクィースは嬉しそうだ。難解な課題に答がえられそうだぞ、と感じて……。


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