三十九話――代行リンチも気分でできます


「己らは学徒であろう」


「? そうよ」


「なればもう少し内申を考えろ。ゴミ蟲といえ明らかな弱者に位置する者をボコるのは悪印象を抱かせるし、学校の品位にも関わるとしてあとで余計な波風が立っても困ろう」


「……ぅ」


「ミンツァが望むならまだ学徒でもなんでもない私が手をくだすのはギリセーフだが?」


「……。あの、いいです。しなくていいですっ。ってかみんなしてなんでそんな暴力に訴えようとなさるの!? 怖いんですけど!? ねえ、なに? 変な超斬新趣向の虐め?」


 三人の物騒さにクィースは自分こそがリンチを喰らう身になりでもしているのか、変に斬新さを極めた新手の虐めか? と訊ねている。が、三人揃って目を逸らした。


 クィースは確信。三人共素だ、と。素で初対面に等しいひとにリンチ喰らわそうとしていらした、といういやな現実にクィースは思わず遠い目になってしまう。


 ああ、神様、友人たちが鬼化しているのはなんの罰なのでしょうか? とか考えかけたがいまだにシオンたちのリンチ提案にびびっているふたりをちろ、と見る。


 正直、クィースは両親の悪口を言われたのでなければ自分への悪口は結構普通に流せるというか、事実なので認めてしまう。でも、両親の不在を嗤われていい気はしない。


 なので、ひとつだけ告げておく。


「あたしさ、自分のことは好き放題言ってもらっても別にいいひとだけど両親のことはホント地雷だから、その手の嘲りには注意してよね。じゃないともう、止めないから」


「……」


「当たり前が普通じゃないってことがわからない歳じゃないでしょ? だから、覚えておいてほしいな。いくら正当罰でもあたしは他人が傷つくのも見たくない。悲しいから」


「……わ、るかった」


「ん。ありがと。じゃ、あたしの気が変わる前に消えてくれるかな? じゃないと……」


 じゃないと、爆発してしまう。クィースの言いたいことがわかって男子ふたりは何度も頷き、しりもちついた状態から起きあがってそそくさと去っていった。その背には少しばかり反省の色があった気がしたのでシオンも以上には言わないでおいた。


 だが、クィースの様子には気を配る。女は本当に苦しそうで悲しげだったからだ。両親を嘲られる、もしくはその関係で嘲りを受けることは耐えられない。というのは事実らしくてそれが為に非常に、今までを思うとすさまじく落ち込み、暗い顔をしている。


 いつも笑っているイメージがあった。お得意のドジでどんなに恥をかこうとも、シオンの自覚なき暴言に泣きそうになろうとも、その顔には笑みがあったと記憶している。


 だからこんな暗い、こんなにも落ち込んだ表情ははじめてだった。ただ、それでシオンが態度を変えることはない。まるで何事もなかったかのよう、卓について珈琲を飲みはじめる。阿呆に構っている間にすっかり冷めてしまって微妙に不味い。


 クィースはしばらく暗い、鬼気迫るような顔でいたが、それもしばらくが経つと、というかシオンが平然と昼の続きを飲み食いしているのを見て気が抜けたようだ。ふへ、と笑って自分も元通り席についてシオンがくれたクローフを完食。紅茶をすする。


 シオンどころかクィースまで食事に戻ってしまったのであとのふたりは毒気を抜かれてしまう。そして、渋々席に戻り、各々残していたものを胃袋に片づける。


「……えぇと、つまりまあ、そういうアレ」


「そうか」


「ありゃ? 意外と淡白、いや、通常運転で淡白だけどどうして? あいつらがあたしの蒸発したトゥティとネティのことで笑ったのに腹立てて連れてきたんじゃないの?」


「見えるか? 私が思いやり溢れて」


「え、え? じゃ、なんで」


「……気分?」


 ずこっ、とこける音がした。複数。幼馴染三人組が揃ってずっこけていた。


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