二十二話――いやいや紹介してもらって


「……おい、ザラ」


「んだよ」


「この別嬪は誰だ? おま、とうとう彼女つくりやがったんだな? どこで、どこでだお前抜け駆けしやがってこの野郎ぉ! どこでこんな超級美女捕まえたんだ!?」


「なんで人生三分の一ばかり終わっているてめえと俺が張りあっている感だしてんだ?」


「なんだとぉ!? そうだよ、知っている」


「ウゼぇ、こいつクソウっゼぇ……っ」


 気持ちはわからんでもない。本当に泉のようにからかい冗句が湧いてくる男である。


 いや、それ以上に見た目がもう完全に人類としてアウトだ。モザイクが欲しくなる。


 それくらいその男の見た目は強烈無比。なにがどうしてどうなったからそうなったのか後学の為に訊いてみたい気もしなくもないが、口を利くのもなんだかいやだ。


 まず髪の色。ドぎつい赤と黒が混ざり、毛先は黄色とピンク。それもクィースの瞳のような綺麗なピンクではない。マゼンタに赤とさらに白をドッキングしたショッキング色。


 シオン的には髪の毛の色だけで充分腹いっぱいだったが、男はさらに衝撃を搭載していた。額や頬を這いまわる蛇や蜘蛛の刺青。シオンは思わずげぇ、と言いそうになる。


 蛇にも蜘蛛にもいい思い出がないもので。オルボウルの蛇王にシレンピ・ポウの蜘蛛王妃など、どちらも等しくシオンは大嫌いだった。甲乙つけ難いくらい。


 なんて、シオンがいやな思い出にいやいやながら耽ってしまっている間もザラは謎の男ってか店主らしき男とからかわれ、からかいの応酬をしている。シオンには無理だ。


 そういう意味では尊敬してやる。


「いーやー、たまげたぁ。負けたな、ザラにヒュリアちゃんも。こんな絶世の美女探しても見つからないくらいだもんな? お目にかかれてこりゃ光栄極まったり、ってな」


「……。その絶世の美女はてめえの見た目にドン引きして目、瞑っちまっているけどな」


 ザラの言う通り、シオンはずっと瞑目したままだ。もうこのまま反転して店をでたい。そんな思考すら滲むシオンにザラは苦笑し、一応、店主のことを紹介してくれた。


「驚かせたな。ゼレツ・ジ・ボルボニバだ。見た目はアレだが、端末の知識は秀逸」


「帰ってよいか」


「そう言うなって。まあ、俺もはじめに見た時、幼児の時はあまりのインパクトに気絶したらしいんだけどよ。本当にこれで、こう見えて、端末への情熱は結構なもんだぜ?」


「……」


 ザラに説得され、シオンはいやいやだったが目を一瞬開いて、会釈だけしてまたそっぽを向いた。と、くい、と着衣の袖を引っ張られて疑問に思い見ると、クィースとヒュリアがシオンを引っ張っていた。女の子たちはシオンを店内の一角へと誘導。


 そこには他のものに比べると慎ましい見た目の端末見本が陳列されていた。うちひとつを手にしてクィースは首を捻ってうーん、と言う。なにを悩んでいるのやら……。


「シオンだしなぁ。質実剛健、っていうか、見た目の派手さもなくて絶対必要な機能以外要らない感じだよね? 多分で言っているんだけど。と、なればこの辺だけど」


「己はあるのか、無駄機能」


「ああ、シオンにとっては不必要かもね。あたしの端末についている機能。予定の自動作成機能とか、爆音目覚まし機能とか、高性能カメラ機能とか、さ。それとも、要る?」


「不要」


 一言だ。一言で終わらせてしまったシオンも端末を観察する。が、どれもこれもボタンというものがついていない。どうやって起動したり、消灯したり、再起動かけたりする?


 シオンが首を傾げていると、女の子たちが不思議そうにシオンとは逆に首を倒した。


「どうしたの? 端末、知らないなんて」


「……。ほぼ知らぬ」


「ええ!? じゃ、じゃあさ、どうやって遠くのひとと連絡取りあっていたのあの島?」


「基本的に文通だったが、あのし」


「嘘っ、ホント!?」


「なぜ興奮するのか、バデトジェア」


 シオンの当然たる疑問。シオンが基本文通、言った途端ヒュリアの目が光った。


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