第131話 デュランとアスガルド聖教②
「痛っててて……口より先に手が出る癖も昔のまんまじゃねぇかクソババア」
「もう二、三発欲しいのかい? クソガキ」
口元の血を拭って起き上がるデュランに対しゲンコツを向けるミリア。それの仲裁に入ったのはこの教会の責任者であるウェンディだった。
「ももも申し訳ありません女教皇様っ。このバカには厳しく言って聞かせますから!」
「アンタが謝る必要はないよ、ウェンディ。むしろこのバカの面倒をよく見てくれてたと褒めてやりたいくらいさ。ったく、姉貴分の顔に免じて許してやるが次は無いからね」
「ちっ、ヤクザみてーなメンチを切りやがって……聖職者のトップが聞いて呆れるぜ」
「おー、そうそう! そのヤクザ絡みでちょうどアンタの話をしてたんだよ」
ヤクザと漏らしたデュランの言葉でミリアは本来の目的を思い出したようで、今回わざわざ自らこのアルメニアにやって来た経緯を話した。
「つまり、先日部下がやらかした不始末に対して
「非は明らかにこちら側にあるのに知らん顔するんじゃ筋が通らないだろう? それにどのみちアルメニアにゃ近いうちに足を運ぶつもりではあったからね。そのついでみたいなもんさ」
デュランにはミリアの言わんとしていることが理解出来た。ミレーヌの墓参りを兼ねてのことなのだろう。執務室に来る前にミレーヌの墓の様子を見に行った際、花が供えられているのを見たからだ。色とりどりのガーベラの献花。生前ミレーヌが好きだった花だ。毎年ミリアはミレーヌにガーベラを手向にアルメニアに足を運ぶ。それほどミレーヌという人物は聖教内でも人徳のある存在だった。
「受けた報告じゃアンタも今回マルグリットがしでかした一件の当事者なんだろ? しかも相手方のヤクザもんとも面識があるとか。そこでだ。私をそこのボスに会わせて欲しいのさ」
「トップ自ら部下の尻拭いは結構だがタダじゃ帰れねぇかも知れねーぞ? 相手は今回の件でかなりブチギレてるみてーだし」
「誠心誠意謝るさ。なんなら土下座しても構やしないと思ってる。ただ、万一荒事になる場合を考慮して今回パトリックを護衛として連れて来たってわけさ」
パトリック。その名には聞き覚えがあった。
あれは確かデュランがまだ聖騎士団に配属された新米だった頃。訓練時の模擬試合でレオンクロスの下席が相手してくれるとのことで皆の前でボコボコにしてやったいけ好かないボンボンが確かそのような名前だった気がする。
「ひょっとしてお前、昔俺が模擬試合でボコったヤツか?」
指を挿しながら歯に衣着せぬデュランの物言いに対し、怒りに肩を振るわせたパトリックは再び剣を鞘から抜く。
「ようやく思い出したか。それとあの時私は負けていない。剣での試合だと言うのにその剣をこちらに向かってブン投げ、あまつさえその隙を突いて殴りかかってくるなどそもそも試合以前の問題だ。あの時は私もまだ末席だったが今では第二席にまで上り詰めた。あの時の屈辱を今ここで晴らさせてもらうぞ」
「おいおい、あん時のことまだ根に持ってんのかよ。器の小せえ野郎だな。後輩に花を持たせてやったと思って水に流しとけよウゼーな」
「とことん人を侮辱するその態度は相変わらずのようだな。ミリア様、どうかこの場で私とこいつの決闘の許可を頂きたい」
「ハッ、なんでそんなめんどくせぇことしなきゃなんねーんだよ。そもそも虎皇会にワビを入れに行くのがテメェらの目的なんだろう? そっちの用を済ませてサッサと帰りやがれ」
「決闘いいねぇ。許可しよう」
デュランの意見を無視し、ミリアはパトリックの意見に賛同した。
「ちょっと待てババア! なんでそうなるんだよ!」
「あっ、またババア抜かしやがったよこのガキ。そのペナルティも兼ねて一度痛い目を見せてやりなパトリック」
「言われるまでもありません。二度とその生意気な口を開けん身体にしてやります」
「いや、この後のことを考えるとそれは困る。せめて半殺し程度に留めておきな」
「ちょっと待てやコラ。勝手に話を進めてンじゃねーよ。おい、ウェンディ。お前からもなんか言ってやれ」
「任せなデュラン。あの、女教皇様。畏れながら申し上げます」
デュランに促されたウェンディは、すかさずミリアに対し進言をした。
「やるならどうか外でお願いします」
「そうじゃねーだろうが! 止めろよ!」
「もちろんさウェンディ。それにルールもきちんと定めるよ。決闘は模擬試合方式。武器の使用は木剣のみ許可する。相手の命を奪わないことは大前提で、後は加護なんかの異能も使用禁止。いいね二人とも」
「問題ありません」
「いや問題しかねーよ。やらねーつってんだろ」
「それじゃあ、早速表に出ようか。二人の成長ぶりを私に見せておくれ」
「なぁ聞けよ。だからやらねーって。つーかなんで誰も俺の話聞かねーんだよ。新手の嫌がらせかコラ」
ぶつくさ文句を垂れるデュランの意見は終始無視され続け、結局デュラン一人を残して他の三名は執務室から出て行ってしまったのだった。
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