第5話 何かが変わりつつ
少女は生き物達の追っ手をかわしながら、建物の間を飛んですり抜けていった。執拗に追って来る生き物達をチラリと見ると、少女はスピードを加速させていった。やがて生き物達の姿が見えなくなった頃、急に空中に大きな穴のようなものが現れた。少女はためらう事なくその中へ入っていった。
*
「う…ん…」
勇人が目を開けると、そこは勇人の住んでいるマンションの屋上だった。体を起こすと、少女が連れてきた行方不明者の顔を覗き込んでいるのが見えた。すると、少女がくるっと振り向いて言った。
「起きた?ケガしてない?」
「あ、うん」
「でも、君すごいねー。あのパンチお腹に叩き込んどいたのに、15分で起きたんだよ?普通の人なら、30分ぐらいしないと起きないのに」
少女はそう言って笑った。
「……笑いごとじゃねーだろ……」
勇人が呆れながら言うと、少女は何やら手を動かしながら少し苦笑いした。
「じゃあね」
「え、あ おいっ」
勇人が止める間もなく、少女は連れてきた人達を入れた袋を背負って近くの家に飛び降り屋根にストンっと着地した。そしてピョンピョンと屋根の上を飛んで行った。
「…………」
勇人はあっけにとられてしばらく立ち尽くしていた。ふと我に返った勇人は考えた。
(アイツってホント何者…?さっきも空飛んでたし、屋上から飛び降りても無傷だし…)
我に返って、手すりに寄りかかろうとすると足に何かが当たった。拾い上げてみると、蝶の形のキーホルダーだった。勇人はそれを見て首を傾げた。
「これ…どっかで見たことあるような気が…」
勇人はしばらく考えていたが、やがてキーホルダーをポケットに入れて階段の方へ歩き出した。
「こんど会ったらアイツに渡さないとな」
そう言って階段を下りて行った。
一方少女の方は屋根を伝って進んで行き、人気の無い所で道路に降りて少し歩いて行くとやがて細い路地裏に来た。
そこには全く顔が同じのあの少女がムスッとして立っていたが、袋を持ってきた少女を見るとさらにムスッとした。
「…勇人様への説明、連れ出した人の回収、終了しました」
「ふーん…」
「お、怒って…いらっしゃいますか?」
「だってさぁ―――…まあ、いっか。任務終了」
そう言うと、袋を持ってきた方の少女は音もなくフッとかき消え、代わりにそこには白くて小さな人形が少女の足元にコロンと転がった。その人形の首には少女の髪の毛が一本巻き付けてあった。
「お疲れ様でした」
少女はそうつぶやくと、人形と袋を拾ってどこかへ歩いて行った。
*
翌日 K中学 1-2
「あ…」
勇人は教室に入って小さく声を上げた。弘史が来ていたからだ。
最近、弘史は学校を休みがちであまり会うこともなかったせいか、勇人は別の友達と遊んだりすることが多くなった。なので、弘史と顔を合わせるのが気まずいような気がしたのだ。できるだけ弘史に気づかれないようにしようと思うのだが、席が近いのでさけて通れない。そっと近くを歩いていくと、
「勇人」
「うわっ」
いきなり声をかけられて驚いた勇人は思わず声をあげた。そして弘史がそれを不思議そうに見つめてきた。
「今日、放課後空いてる?」
「あ、ごめん 今日はちょっ…」
「ふーん…じゃあいいや」
弘史は途中で勇人の言葉を遮ってしまうと、ふいとどこかへ行ってしまった。
その以前とは全く違う態度に、勇人は驚きながらも違和感を覚えた。
水色の蝶 みけねこ @sky773
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