第3話 脱出作戦

 勇人は鉄格子が壊れた牢屋のようなところに一人でいた。少女が「余裕があるから2,3人連れて帰る」と言い出して、何と言っても聞かないからだ。「別にどうでもいいじゃん!」と反論する勇人に対し、少女は「いつここに来れるか分からないし、結構時間があるからいいでしょ!」と言うので勇人は渋々認めた。少女が今、隣の部屋に誰かいるか、何人いるかを見に行っていてここにはいないのはいいとして、勇人は退屈でしょうがない。せっかく帰れるところだったのに。

「ったく…」

 勇人はふと、凛音のことを思い出した。

 湯川凛音ゆかわりんね

 それは、今までできた友達の中で、一番仲が良かった友達の名前。小学2年生の時に行方不明になって、今も見つかっていない。

                 *

 9月くらいの風の強い日だった。その日は勇人のクラスの帰りが遅くて、凛音は先に帰っていた。勇人は凛音に追いつこうとして、帰りの会が終わるとすぐに学校を飛び出した。風で砂が舞っていて、目に入りそうだった。途中で凛音を見つけて、勇人は声をかけた。

「凛音ー」

 凛音は風で目にかかる前髪をかきあげてくるっと振り向いて、勇人を見ると口を開きかけた。すると、その時突風が吹いてきた。砂ぼこりや落ち葉や枯れ枝が飛んできて目も開けていられなかった。そして風がやむと、凛音はいなかった。忽然と姿を消していた。勇人はしばらく青ざめた顔で立ちつくしていたが、ふと我に返って家まで走り、母にたった今起こったことを説明した。最初は母も半信半疑だったようだが、真っ青な顔でまくしたてる勇人を見て本当だと悟ると勇人と一緒に凛音が消えた場所へ急いだ。すると、突風が吹く前に凛音がいたところに凛音の靴が落ちていた。その後、勇人と母で凛音の家に行った。凛音がいなくなったことを知った凛音の母親は、血相を変えて近所を探し回った。3日経っても凛音は見つからず警察に捜索願いを出したが効果は無くて、4年以上経った今もまだ見つかっていない。 

                  *                                            どこかへ行ってしまったのか、はたまた死んでしまったのか。いずれにしても、今後会える確率がとても低いことは勇人にも分かっていた。けれど、もう一度会いたくて。そんなことを考えていると、少女が戻ってきた。

「右側に4つ行った部屋に2人いたから、連れてくよ」

 今更言ったところで意味がないのは分かっていたが、勇人は言ってみた。

「…やっぱ、ホントに連れてくの?」

「連れてくっつたら連れてくの」

 勇人はあきらめたように重い溜め息ためいきをついた。勇人の頭の中にふと疑問が浮かんだ。

「あのさ、俺と後二人連れてくんでしょ?どーやって連れてくんだよ」

「心配御無用」

「ホント?」

「これに入れてく」

 そういうと、少女は懐からネットでできた袋を取り出した。結構な大きさで、子供3人はゆうに入りそうだ。

「まさか、俺たちをその中に…」

「もちろん入れてくに決まってる」

「えっ、ちょっとそれは…」

「じゃあ、どーやって連れてくのよ」

「…わかったよ。でもさ、それ、中学生が3人も入るの?」

 そういうと、少女は少しギクッとしたようだった。そして、言葉を発した。

「ギリギリいける…と思う」

「いけなかったらどーすんだよ!」

「まあ、平気でしょ」

「『平気でしょ』って…実際にやってみたことあるの…?」

「2人でならある」

「2人で?」

「2人で」

 何とも思ってないような様子と返事を見て、勇人は心配になった。2人まででできたのはいいが、1人で入っても破れそうなほどその袋は薄くて軽そうに見えるからだ。そんな勇人を見て、少女は言った。

「平気だよ。コレ、結構丈夫だから」

「…まあ、一か八かでかけてみるか…」

「とりあえず、そろそろ行くよ。2人入れてくるから待ってて」

 そういうと、少女は窓から飛び立っていった。すると、30秒もしないうちに帰ってきた。

「ほら」

「え?」

「こん中入ってよ」

「早くしてよっと」

 と言っている間に勇人は袋の中に入れられてしまった。

「っしょっと」

 少女はそういうと窓枠に立って、外の様子を覗った。外には誰もいなくて、少女は窓枠を蹴って飛び立とうとした。

「ウソ…!」                                                                                      すると、ギャアギャアと生き物の鳴き声が近づいてきた。それは生まれて初めて聞くものだった。勇人が袋から顔を出すと、ギャアギャアと鳴く生き物たちが見えてきた。その生き物は丸っぽくて黒い体をしていて、コウモリのような羽がついていた。少女の顔がサッと青ざめた。勇人は少女に聞いてみた。

「アレ、何⁉妖怪⁉」

「違う!」

 次の瞬間、勇人は鉄格子が壊れた牢屋に放り込まれた。

「うっ」

「ぐっ」

「てっ」

 体をぶつけた3人はうめき声を上げた。勇人が袋から出て窓に駆け寄ると、牢屋に背を向けていて、

 

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