第2話 いよいよこれから

 気がつくと、勇人は牢屋のようなところにいた。どうやら、いままで気を失っていたようだ。起き上がろうとすると、少し頭がずきずきする。隣を見ると学校の屋上で出会った少女が倒れていた。まだ気絶しているみたいだ。あらためて周りを見てみると、ここの部屋は結構狭かった。六畳くらいだろうか。

「う~ん……」

 振り向いて見ると、少女が起き上がっていた。こんな事を聞いても答えられないかと思ったが、勇人はその少女に聞いてみた。

「あの、ここってどこだか……」

「知ってるかって聞きたいんでしょ?知らないに決まってるじゃん」

 やっぱり知らないかと勇人はがっかりしたが、その少女はさらに言葉をつづけた。

「なーんてね。知ってるよ。ここは失踪事件で誘拐した生徒を監禁している部屋のうちの一つだよ」

「えぇ——!?」

 勇人は驚いて思わず声を上げた。この部屋が「誘拐した生徒を監禁している部屋」だということは、勇人たちは誘拐されている……?

真っ青な顔をしている勇人を見て、少女は小首をかしげて言った。

「別に、出ようとすればこの部屋から脱出できるけど?」

「……は?」

 勇人は目を見開いて言った。「脱出しようとすればこの部屋から脱出できる」?「脱出できる」?どうせ冗談か何かだろうと思ったが、真顔で言う少女を見て冗談ではないような気がしてきた。

「本当にここから脱出できるなら、俺ここから出脱出したいんだけど」

「別にいいよ。遅くても今夜にはここから出るから。ついでに2、3人…まあ、いっか」

 勇人は、「ついでにって何のことだよ?」と聞き返したかったが、少女が何か考えているようだったのであえて言わないことにした。やがて少女はいった。

「……今すぐ脱出するのは無理だから…日が暮れてから脱出しよっか」

「無理って何がだよ?」

「目立って見つかるから無理なの」

 どうやら、日が暮れる前にここから脱出することは不可能なようだ。まだ腕時計は3時半ぐらいなのに。勇人は早くここから脱出したかったので、がっくりと肩を落とした。

                 *

 ようやく外が薄暗くなってきた。5時間ぐらいたったと思ったのにまだ5時半だ。椅子もないから壁にもたれかかって座っていたので、背中が痛くなってきた。さっきからあの少女と一度も言葉を交わしていない。少女の方を向くと、鉄格子がついた窓から下の景色を眺めていた。そこに窓があることさえ勇人は気が付かなかったので、隣に行って外を見てみた。外の景色はとても殺風景だった。はるか下に地面があって草も生えていなければ、虫もいないし、鳥もいない。人も見当たらないし、家もない。ふと目を凝らすと、下の方に水色のビニール袋のようなものがあった。それは風に吹かれて舞っているように見えた。それが何なのかはそれが鉄格子に近づいてこないと分からなかった。それは、中学校にいたあの全身水色の蝶だった。その蝶は窓から入ってきて、少女の指にとまった。少女は蝶に何かを小さく呟いた後、窓からそっと飛ばした。

「今の蝶…」

「使い蝶。ま、使い魔みたいなもん。」

「居場所がわかんの?」

「居場所がわかるんじゃなくて、あたしがここに来るよう操ってるの。あとは勝手に元の居場所に戻るから」

「元の居場所って?」

「あたしと仲間の基地」

「基地って?」

「……教えられない」

 何故教えられないのか聞きたかったが、どうせ「教えない」といわれると思って勇人は口を閉じた。いつの間にか外はすっかり暗くなっていた。すると、その少女が聞いてきた。

「今、何時?」

「えっと、5時32分」

 それを聞いた少女はしばらく考えると言った。

「ちょっと早いけど、脱出しよっか」

「…へ?」

「ちょっと早いけど、脱出するって言ってんの。しばらく見てたけど、ここには見張りがいないみたいだから」

「ふーん…」

 学校から家まで15分くらいだから、家につくのは大体6時くらいで母さんは帰って来ていないだろうし、稀に帰ってきていたとしても塾が終わるのが早かったと言えば大丈夫だと勇人は思った。

「後ろに下がってて」

 少女にいきなり言われたので勇人はそれを理解するのに少し時間がかかった。

「え?」

「後ろに下がっててって言ったの聞いてなかった?」

「聞いてたけど何で?」

「とにかく下がってて」

 勇人が窓の反対側の壁の方に行くと、少女が鉄格子に手をかざして目をつぶり、何かやり始めた。すると鉄格子にひびが入りだして、次の瞬間、鉄格子はバラバラと崩れ落ちた。そして少女がにっこり笑って言った。

「さ、脱出しよっか」



                              

 

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