第9話 この気持ち

寝転がった俺にゆっくりと女は跨る。

その行為自体には何も感じなかった。

女はゆっくりと俺の首に手をかける。

すると酒やタバコ、女との情事より快感が体を襲った。


「落ち着いてください…まだ絞めてませんよ?」


包み込むかのように優しく首に触れるだけの女。


「教えてください…やっぱり殺したかったし殺されたかったんでしょ…?」

「わからない…」

「こんな事やらせておいて…?」

「俺はおかしくない!」

「じゃあ、やめましょう」

俺の首から女の手が離れていく。


「や、やめないでくれ!」

「頭は抗っても体は正直ですね?」


再度首を絞めてくる女。

視界がパチパチと弾けながら女を見つめる。

女の表情はとても生き生きとしていた。

なんだ、そんないい表情もできるんじゃないか。

酸素を失いつつある脳は、何を思ったのか…さらに女に魅力を感じていた。


絞め上げられつつ、自分の頸動脈の脈打ちを強く感じ、死が間近に迫っているのも感じた。

早くやめろと言わなければ…言わなければ…言わなければ…


そうだ


女は言っていた


殺し合いましょうと


咄嗟に女の首にも手をかけた。


「やっとしてくれた」


女はまた気味の悪い笑みを浮かべ、さらに絞め上げる力を強めた。


ああ


そんな醜さも素敵だ


こんな


気持ちは初めてだ…


この気持ちは…


気持ちは…


キモチハ…


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る