第4話その声は真実を語っていたのか

「えっと……ユフィンって人の家なんだけど──分かります、かね?」


 神秘的な雰囲気を醸し出す少女に若干驚きながらも、ファングはゆっくりと訊ねる。「えっとね~」と、あどけなさを残した声をだし、顎に指を撫でつけて少女は少し悩む仕草をとった。


 返答を待ってる間、ファングは辺りを見渡し一応だが一緒に探す素振りを取るが、振り返り際に二度ほど少女をみる。


 可愛くて仕方がないからとかではない。いや、確かに可愛いのは認めざるを得ないが、ファングが彼女を見てしまった理由は他にあった。


 それは──彼女の容姿。頭てっぺんから生えた白い耳や、白い服の腰辺りから伸びる尾っぽ。どう見ても獣人だ。


 故に言葉が通じたのだろう。そこまで答えを出してからファングは、突如芽生えた仲間意識に声を軽くする。


「見つかりそうになかったら大丈夫です。君は、人間の言葉を話せるのかな?」

「…………」


 探しているのに集中しているのか、辺りをキョロキョロ見渡す彼女から返答はかえってきはしなかった。


「あ! こっちこっち!!」


 ファングの問いに見向きもしなかった少女は、指をさしてぴょんぴょん飛び跳ねる。無視されていた事は悲しいが、なにやら嬉しそうなので気にしないようにして、ファングはお礼をした。


「ありがとう!」

「うん! 着いてきてきて!」


 しかし、獣人が二人で歩いていると、此処では良くも悪くも良く目立つ。目立ちすぎる。恥ずかしさを隠しながらも、人間観察をして分かった事は殺伐としていないって事だ。

 長閑で平穏としている。魔獣が居るとは到底思えない。

 故郷であれば、騎士団が物々しい音を立て殺気を張り巡らせおり、文字通り殺伐としていた。それが普通であり当たり前過ぎて馴染んでいたのか、この地はどこかこそばゆい。


 そんな事を考えながら少女の後ろを歩いていると「ついた!」と、明るい声音が一つ、喧騒を掻き分けてファングの鼓膜に届く。


「おお……ここが」


 まず初めに見上げて屋根を見る。まったくもって青色だ。清々しいくらいに、気持ちいほどに青々しい色だ。あの説明で分かるはずがない。今更だが、ファングは改めて思う。


ともあれ、肩を落としながらも、お礼を言おうと横を向けば──


「あれ?」


 少女の姿が見当たらない。けれど歩き去る足音はなかったはず。しかし気配を感じない。獣人は嗅覚や聴覚などが鋭いゆえに気配は、気を抜いていない限り敏感に反応できるはずだが。

 例えるならば、消失したような──そんな感じだろうか。


 奇妙な出来事に初めての体験にしっぽの毛は逆毛たち、ただ呆然としていると「おー来たか! 遅かったじゃねーか!」


 窓から顔を覗かせ、元気な笑顔を浮かべてユフィンは言った。今の今だったので、体が竦んだのは内緒である。


 しかも、遅かったのは誰のせいだと思っているのだろうか。なんて事は、これからお世話になる彼女に当然言える訳もなく、ファングは──


「ごめん。と言うか、この街には俺以外にも獣人がいるの?」


問に対し、一瞬沈黙が生まれたが、すぐさまにユフィンは小馬鹿にするかのような態度を取る。


「獣人? いる訳ないべさ! なあにいっちゃってんだよ!」

「いや、その子がここまで連れてきてくれたんだよ」


 見間違えだったのだろうか。でも絶対にしっぽ生えてたはずなんだが。ユフィンの否定的な反応を見ると、徐々に不安になってきた。


「そうかぁ。そりゃあ、あれだ」

「あれ?」

「そうそう、あれだ!」


 今わかった。彼女は説明が下手か、もしくは不器用すぎるのだ。あるいは──

 “あれ”で分かるはずがない。なのにユフィンは満足気に頷いている。何も伝わっちゃいないのに、伝わった気でいるユフィンを見て、罪悪感を感じながらもファングは思う。


 ──もしかして、馬鹿なのではないか、と。


「まあとりあえず、部屋ん中に入った入った!部屋、片付けてなくて少し汚いけど気にしないでくれな!」

「え、ああ。大丈夫、わざわざありがとう!」


 女性の家に入るのは初めてだ。思い返せば、研究や実験で引きこもっている方が多かった。加えて、ユフィンは汚いと言ったが、女性の部屋の汚いは男性の部屋で言う綺麗。つまり、価値観の違いだ。斯く言うファングの部屋も用紙だらけで、綺麗とは言い難い。が、埃には気を配ってはいるつもりだ。

 自分の部屋を見ているからこそ──


「返してくれ俺の純情を」

「はあ!? んだよ、玄関に入るなり絶望したような表情しやがって」

「正直に言う。こればかりは我慢ができ──フェックション!!」

「んだよ、次はくしゃみかよ」


 埃が凄い。物凄い。とてつもない。恐ろしい程にだ。


「部屋が汚すぎんだよ!」


 くしゃみにより噴出したアドレナリンに任せ吼えてみれば「ワハハハハ!」と、笑う。

 第一印象で抱いた情を本当に返してもらいたい。と、溜息を吐くまもなくユフィンは手を叩いた。


「だから言ったじゃねーか! いい事思いついた! 今日の夕飯の為の一仕事だファング! 私の部屋を一緒に掃除しようぜい!」

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