『レアジョブ』さんたちは、スローライフがいいんです。

千葉 都

『レアジョブ』さんたちは、スローライフがいいんです。

「いっけー! ソード・スラーッシュ!!」

「わたしも。『じょうねつのほのおよ。わたしとともにてきをやきつくせ。ファイヤー・ボール!!』」


「ダメだよ、リンちゃん。ここは森の中って言ったじゃん。ファイヤー・ボールなんて使ったら山火事になっちゃうよ」

「うー。でも、ファイヤー・ボールの方がかっこいいんだもん」


俺はジャン、5歳。小さな村に生まれた。両親は畑仕事をしている。

一緒にいるのはリン。俺と同じ5歳。両親はこの村で小さなお店を開いている。


で何をやってたかと言うと、今お気に入りの『冒険者ごっこ』。俺は聖騎士、リンは賢者になって魔物狩りをしてた。

武器? そんなもんないよ。木剣だって危ないって触らせてもらえないんだから。落ちてる木の棒を振り回しているだけ。

別に剣の練習をしてるわけじゃないよ。練習しろとも言われてないしさ。


俺とリンは、まあいわゆる幼馴染ってやつだ。誕生日は俺の方がりんより1カ月ぐらい早いんだけど、俺たち以外に近い歳の子供はいない。

5歳の俺らに遊べるところなんてあると思う? 村から離れると魔物が出るから行っちゃダメ、畑に行けば仕事の邪魔って言われる。リンもお店に行くとあっち行ってなさいって言われるらしい。


だから俺たちはこうやって2人で遊ぶことが増えたんだ。

もっと小さなころはおままごととかしてたよ。その頃は『リンはジャンのお嫁さんになる』なんて言ってたっけ。最近はそんなこと言わなくなったけどね。



◆◇◆ ◇◆ ◇ ◆◇ ◆◇◆



あれから10年。俺たちは15歳になった。俺もリンも親の手伝いをするようになったけど、相変わらず2人で遊んでいる。他に気の合う奴なんていないからな。


この国では15歳で成人だ。教会で洗礼を受ければ大人の仲間入りとなる。

洗礼の時、俺たちは神様から【ジョブ】って言うのを貰う。所謂仕事だな。

ジョブと違う職業に就くことはできる。ただ、同じ方がいいらしい。ジョブ補正って言うのがあるって言ってた。


ジョブは男だと農夫、狩人、木こり、漁師みたいのが多いそうだ。女だと農婦、機織りが多いんだって。娼婦って言うのもあるって言うけど、何するんだろう。あとはそんなに多くはないけど商人とか鍛冶師とか。

稀に剣士とか魔法使いなんていうのがあるらしい。


教会って言ってもこんな小さな村に偉い人がいる訳じゃない。洗礼を行う教会の偉い人は町や村を廻ってるんだって。だから今年15歳になる人は誕生日がまだでも洗礼はしちゃうんだ。



この村に教会の偉い人がやって来た。司祭って言うらしい。今年は俺とリンの2人だ。


「それでは洗礼の儀を始める。ジャンとリンだったな。前に来て神に祈りを捧げなさい」


俺たちは教会に祀られている神様の像の前で跪き、お祈りをした。お祈り自体は毎週のようにしてるんだけどね。


「それでは、其方らが神より賜ったジョブを見るとしよう。ジャン、こちらの水晶に手を翳すのだ」


言われたように水晶玉に手を翳した。父さんは農夫だし母さんも農婦だ。なら俺も農夫なんだろうな。


水晶玉が輝きだし、白から金、そして虹色の輝きに変わった。


「おぉっ! これは」


司祭が驚いた顔をしてるが、俺にな何が何だかわからない。そういえば村長も驚いた顔をしてるな。

水晶玉の光が落ち着いた。


「ジャン、其方のジョブは『聖騎士』だ」

「「「おーっ!!」」」


えっ? 俺農夫じゃないんだ。でも関係ないや、俺ここで畑やるつもりだし。それより聖騎士なんてジョブで畑耕せるのかなぁ。


「ジャン殿、聖騎士と言うジョブはな、この国で10人ぐらいしかいないとても貴重なジョブなのだ。聖騎士はその力で国を護る、とても強く、そして清い力を持っている。ジャンよ、精進して立派な聖騎士となるがよい」

「……?」

「まあ戸惑うのも無理はない。後で国王の使いが来る。その者の話をよく聞くのだ」

「……」



「では次にリン。お前の番だ。ジョブは神がその人に適したものを与えて下さる。たとえどんなものとなっても悲しむものではないぞ。さぁ、手を」


リンが手を翳した。あれっ? リンの手ってあんなに小さかったんだ。それにいつも一緒にいたから気にしてなかったけど、案外リンって可愛いんだな。


そんな事をを考えていると、水晶玉が輝きだした。あれっ? なんかおかしいな。


水晶玉は輝いてるんだよ、今は金色に。初めは白かったけど。あっ、また色が変わり始めた。俺と同じ虹色に光りだした。何だみんなこうなんじゃないか。俺の時はみんなが驚いていたからなんか変わったことが起きたのかと思ったけど、みんなこうなら騒ぐ必要なかったじゃん。


「そ、そんな……。2人続けて虹だと」


あれっ、司祭様なんか動揺してるよ。

村長が言うには、普通は白く光るだけなんだって。普通って言うのは農夫とか商人とかね。だから村長もこんなのは見たことないんだってさ。


「リン、其方のジョブは『賢者』だ」

「「「おーっ!!」」」

「この村から2人も。いやー、めでたいめでたい」


「リン殿、賢者と言うジョブは全ての魔法を使いこなすことが出来る。魔物と戦う力もあれば人々を癒す力もある。魔法で暮らしを豊かにすることもできる。其方もジャンと同じく精進を重ね、この国の力となるがよい。リン殿の下にも遣いの者が来る。よく話を聞くのだ」


「えーっ。私ジャンのお嫁さんになりたかったんだけどなぁ」

「俺もさぁ、家の畑をやるんじゃないかって思ってたんだけど」

「そ、そんな。ジャン殿もリン殿も。あなた方のジョブを生かせば、王都でいい生活もできるんですよ。爵位を貰って貴族になれるかも知れないんです。時間もありますからもう一度ゆっくりとお考え下さい。村長もよろしいかな」


司祭は次の村へと発っていった。




「ジャン、私たちのことは気にしないで聖騎士になっていいんだぞ」

「いいよ。戦うなんて嫌だし。畑やるよ」

「でも国から偉い人が来るんでしょ、ジャンを迎えに」

「じゃぁ何かい、母さんは俺がいなくなってもいいのかよ」

「そんなことはないけど」

「父さんもそうさ。うちのこの畑、この後どうするんだよ」

「私たちで何とかするさ」

「でも父さんと母さんで開いた畑なんだろ。誰かに盗られちまうんだぜ。俺はそんなのやだからな。俺はもっと大きな畑にするんだ」

「「………」」

「それに俺の所に来るって言う遣いの人はお金持ってくるんじゃないの。そのお金貰って俺を差し出すって、俺売られるのかよ」

「……わかったわ。私たちはもうジャンにはこのことについて何も言わないから」




「私はジャンのお嫁さんになって、この村で暮らすって決めてるんだから。どこにも行かないよ」

「でもなぁ、賢者と言えば宮廷魔術師にもなれるんだぞ」

「宮廷なんていやよ。なんか偉そうな人が『あれはダメ、これはダメ。あぁしなさい、こうしなさい』って。私はただの村人、平民よ。そんな貴族の中なんて入れないから」

「ジャン君もリンも貴族になれるかも知れないんだよ」

「だから貴族になんてなりたくないし。私はジャンと結婚するし、この店のことだってあるし」





洗礼の儀から暫くして王宮から遣いの人たちがやって来た。王国騎士団の副団長と宮廷魔導士の副長らしい。


「ジャン殿、リン殿。この度の洗礼でお二人は素晴らしいジョブが与えられたと聞きました。ジャン殿は王国騎士団で、リン殿は宮廷魔術師として活躍してほしい。もちろんお二人の生活は保障する。3年間の準備期間を終えれば、それぞれ男爵となることも決まっている。さぁ、王都へ行きましょう」

「嫌です。行きません」

「私もです。ここで暮らします」

「へっ? 今何と」

「だから行きませんって」

「チョッと待ってよ。凄いジョブ貰ってさ、いい生活できるようになればさ、普通そうしない? 絶対おかしいって。他の人はホイホイ付いてきたよ」

「それは他の人がおかしいんじゃないですか。少なくとも僕らは行くつもりはありませんから」

「……は、はぁ。そうですか…」


遣いの人は肩を落として帰っていきました。また何回か来るんだろうけど、まぁ行くつもりないし。

そんなことより、俺とリン、結婚したんだよ。遣いの人が来る3日前だったかな。



<<<終わり>>>


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