015.アマゾネス騎士団の現状
「シャリー、城内のアマゾネス残存戦力を洗って頂戴!分かる範囲で良いから!それとシャビーは周囲の聞き込みをお願いします、鎧は脱いでいくのよ!?アンは昨日狼煙を上げた人物の確認!!残りのメンバーは全員分の戦闘準備、何時でも出れるようにします!!良いわね!?」
「「「「はい!!」」」」
リリーナさんは詰所に着いてから空(す)かさず隊員たちにこれからの行動について指示を出した、それにしてもこの人の指示出しは非常に清々しくて見ていて気持ちが良くなる。
指示にも迷いが無いので俺は素直に感心してしまった、とは言っても当の本人は生粋の軍人なわけで、しかも小隊長なのだから当たり前のこと過ぎて俺の関心など失礼以外の何物(なにもの)でもないのだろうな。
だけど改めて聞いていると思うんだよね、……この小隊って本当に声が野太いな。
まあ、10人中8名が『おねえ』なわけだから当たり前と言ってしまえばそれまでなのだが、それでもじっくりと観察しているとリリーナさんを男だとはとても思えないわけで。
『改めてじっくりと観察』した結果がそれでは、俺も男として自信を無くしてしまうのだ。
…と言うかここに来るまでの間に王国内の市民を見渡してみたけど、全員がほぼ中性的な顔立ちをしているんだよね。
リリーナさんが俺にプロポーズをしてきた辺りで感づいてはいるが、…この国って同性間での婚姻が許されているんだよな?
俺は不覚にも悍(おぞ)ましい想像をしてしまい、その場で頭を抱え込んでしまった。
この国は思っている以上に業が深そうだからなるべく早めに出国しておきたいところだな…、とは言ってもフーリンが許してくれないとそれも叶わないのだけれど。
「大樹、私たちがこれからどうすれば良いかしら?」
「うん?そうだな、俺たちは住民でもないから服装一つで悪目立ちするしフーリンに至っては猶更だからね。…ここはリリーナさんの指示に従っておくしか無いだろうな?」
「話が早くて助かります、私もお二人にそのことをお願いしようと思っていました。」
リリーナさんが詰所にある大きめの机に地図らしきスクロールを広げながら背中越しに話しかけてきた、これはどう考えても余裕が無いのだろうな。
だがやることは無くても最低限の確認だけはするべきだ。
「余計な事はしないけど自分の身は自分で守る、それで良いよね?」
「…大樹殿には本当に助かります、正直に申し上げて私にも余裕があまりなくて…。」
リリーナさんは地図を確認しながら今後の行動を決めているらしく、言葉に力を感じられない。
しかしこれは部下想いのこの人らしいとも言える、何しろここで決定した行動が自分の部下を危険に晒すかもしれないのだから。
…この人は本当に『おねえ』なのだろうか?もっとふざけても良いのではと、俺は不謹慎な考えを思い浮かべてしまっていた。
「大樹、…ちゃんとリリーナさんに誤った方が良いと思うよ?」
「……前々から思っていたけど、フーリンって人の思考を読み取るスキルとか持ってないよね?」
フーリンはどうしていつも的確なタイミングで心の中をツッコんで来るかなあ!!
どうやら今の俺には心の中さえも安らぎの場所は確保されていないらしい、…だが今は状況が状況だからふざけている場合でないことも事実なのだ。
それに俺たちは小隊のメンバーと違って今の状況がどれだけの異常事態であるかが正確に測りかねていることも問題だ。
これはもしかしなくてもノリだけで動いてしまったのだろうか、確かに城門の衛兵をドリア漬けにしたのは速まってしまったのだろうか?
オンドリャアアアアアアアアアアアアア!!とか言っちゃうんだよねえええええええ!!
「…大樹も真面目なことを考えてる最中に脱線とかすると危ないからね?」
だから何でフーリンは的確にツッコんで来るかな!?
「…うん、ごめんね。何て言うか俺もノリで衛兵のおじさんを騙してしまったわけで、これからどうしようかなと、考えてたんだよ。ほら、俺たちってよくよく考えたら不法入国だよね?」
「……もしかしなくても私と大樹ってこの国で犯罪者になっちゃったの!?」
そこは気づいておけよ!!
フーリンは流れや空気を読むことだけは苦手らしい、先ほどから小隊メンバーやリリーナさんに余裕が無くなるにつれてオドオドした様子を見せだしていることからも、それは明白だろう。
「…大丈夫です、あの衛兵とは顔見知りですから事が終われば私から謝罪しておくのでご心配なく。それよりも出会って間もないお二人に不躾(ぶしつけ)ですが折り入ってお願いが…。」
先ほどまで地図らしきスクロールと睨めっこをしていたリリーナさんがいつの間にか顔を上げて、俺たちの方を向いていた。
……この人だったら無茶ぶりはしない……、とは言い切れないか?
かなり真剣で思いつけた表情をしているでは無いか。
でも俺はこの人をかなり気に入ってしまっていることは事実なのだ、だったら頼みの一つでも聞いても良いだろうと思う。
…まあ、プロポーズされたことはどうやって断ろうか絶賛理由を募集中なんですけどね!!
「内容によってはフーリンは外すけど、それでも良いですか?」
「お受け頂けるだけで、感謝してもしきれません。」
「それと出来れば現状の問題点を知りたいかな…、リリーナさんも知ってると思うけど、俺もさっきは割とノリで動いてしまったから。」
リリーナさんはハトが豆鉄砲でも食らったような表情をしたと思えば、クスっと笑いながら俺の質問に答えてくれた。
「この事態に加担した理由がノリとは参りますね。分かりました、根拠のある話はシャビーとアンの報告次第になりますが、凡(おおよ)その推測で良ければ。」
「大樹もノリで動くとか私に似て来たね、今日はお赤飯炊かなきゃ!」
どこの世界のエルフがニヤニヤしながらお赤飯を炊くなんて比喩を使うんだよ!?
…それにしてもフーリンに似てると言われると凹むなー、これはガザンには聞かれたく事実だよ、トホホ。
「……説明よろしくお願いします、フーリンの事は無視して構わないので。」
「ああ!大樹ってば私を仲間外れにする気ね!?」
「うっさい!フーリンはトラブルメーカーだから自宅待機だっての!!」
「ああああああ!!大樹が言っちゃいけないことを言った!!」
「あ、あの!!…………説明しますのでお静かに。」
俺とフーリンが取っ組み合いを始めるや否や、状況に付いて来れなくなったリリーナさんが恐る恐る間に入って来て喧嘩の仲裁をしれくれた。
今更だけどリリーナさんって苦労人だったりするのかな?
何と言うか仲裁の仕方も恐る恐るではあったが止めるタイミングがドンピシャなんだよね、…これは状況を考えずに申し訳ない事をしてしまったみたいだな。
「リリーナさんへのお詫びは仕事で返します。」
「…仕事じゃなくて大樹との婚姻で返せば良いのに。」
こんのエルフは…、後で覚えてろ!?
…その内に枕の下にドリアを突っ込んでやるからな。
「では現状からご説明します。今回、我が小隊が城内に入れなかった理由ですがおそらくはアマゾネス騎士団全体の派閥争いが関係していると思います。簡単に派閥を説明すると団長率いる原理派と副団長率いる改革派でして、我々は団長派に属します。」
「…で衛兵のおじさんが受けた指令書は副団長派閥からって事ですか?」
「おそらくはそうでしょう。団長はあの様に理由も無く城外にアマゾネスを締め出すことはしませんので、これはシャリーに城内の残存戦力の確認をして貰っているので直ぐに判断が付くでしょう。」
「城内に残っているアマゾネスが副団長派だけなら、と言う事になりそうですね。そもそも原理派と改革派ってどうして揉めてるんですか?」
「改革派はアマゾネスの選考基準を見直そうとしているのです、副団長は女性のみを選考したいようで。実は初代アマゾネス騎士団は女性だけの組織だったのです。」
なんですと!?それは俺が抱いているファンタジーそのものじゃないですか!!
えええええ…、どうしよう。
俺も副団長を応援したくなってきたな、…でもこの状況で寝返れないよね?
「へ、へえ。でも今は男性が多いんですよね?リリーナさんの小隊も女性はアンさんとシャビーさんだけだし。」
「その昔、スキュティアーナ王国が他国からの侵略を受けていた際に当時の王女殿下がアマゾネス騎士団組織して救国に成功したのが始まりとされています。以後はこの国にとってアマゾネスは精鋭の称号とされてきましたが、女性がその精鋭であることに僻(ひが)むものが出てきたようで、いつの間にか男性がその大半を占めるようになったそうです。」
「…説明を聞くとどっちが原理派か分からなくなりますね。」
「私もそう思います、ですが現在の王国は女性にしか出来ない仕事もあるのでそれをいきなり解体させることにも繋がる、と団長は反対されてるのです、やるのあれば徐々にと。」
「でもさ、女性のアンさんやシャビーさんがなんで団長派にいるんですか?確かにあの二人はリリーナさんを慕っているみたいだけど、それでもね?」
「あの二人はそれぞれの実家が借金を抱えていまして…、この国で一番給金の良い仕事はアマゾネスですから。副団長派の問題はその給金なのです。」
「どういうことですか?」
「副団長はアマゾネスを名誉職にしたいらしくて、そうなると給金が出ません。アンとシャビーは実家の借金返済のためにアマゾネスになりました。そして、それぞれに年の離れた長男がいます。彼らが一人前になれば彼女たちも好きな仕事を選べるでしょうが、…少なくともそれまでは現状の給金を欲しいはずです。」
「…もしかして、これからその副団長さんがクーデータでも起こそうって話じゃないですよね?」
「…それはシャビーとアンの報告次第かと。」
ふぐううううううううううううう…、なんてことだ!!
説明を聞く限りだと俺の抱くファンタジーを現実のものとするには副団長を応援すべきなのだ!!
凛々しく美しき女性だけで構成された騎士団、それがアマゾネスのはずだろうが!!
それがどうしてこうなった、……でもついさっきリリーナさんのお願いを聞くって言っちゃったしなあ。
それにリリーナさんには昨晩助けて貰ったわけだし義理もあるんだよなあ…、それにフーリンが隣で目をキラキラとさせながらリリーナさんを羨望の眼差しで見つめているし…。
まさか俺が男性アマゾネスの存在を肯定する派閥に組み込まれるとは…、決してリリーナさんの存在を否定しているわけではありませんよ!?
でもさあ、やっぱり戦場で掻(か)く汗は美しくあれと願ってしまうんだよねえ…。
…だけどリリーナさんを目の前にして自分の欲望に忠実でいる訳にもいかないか?
「リリーナさんだけでなく小隊の人たちにもお世話になったので出来ることはします、とりあえずは三人の帰還を待つって事ですね。」
「大樹殿、ありがとうございます!ことが治まった際には必ずお礼をいたしますので!!」
「それも三人の報告を聞いてからですね、そう言う事なら俺も準備をしておかないと、…隣の部屋を借りても良いですか?」
「隣の部屋は空き部屋ですのでご自由に、では三人が帰還したらお呼びしますね!!」
「了解しました。フーリン、俺は『あれ』を作れるだけ作るからフーリンも念のために準備しといてね?」
「……私は大樹を手伝って良いのよね?私たちって仲間だよね!?」
フーリンはどうやら俺はこの子を外すと言ったことを気にしている様だな、だけど俺としては戦力に数えたくないから即答出来ずにいる。
すると何かを察した様にリリーナさんが口を開きだした。
「大樹殿、お二人の関係に口を挟むことは出来ませんが助言いたします。女性は男性が考えている以上に強いですよ?勿論、戦力としてと言うだけの話ではありません。私もアンとシャビーを部下に持って考えを改めさせられました。」
フーリンの言葉に即答出来ずにいる今の俺には耳が痛くなる助言だった、確かにフーリンの目は素直に俺の言う事を聞かなそうだ。
…しかしこの状況で的確に助言をしてくれたのが『おねえ』であるリリーナさんとは、…色んな意味で複雑なんですけど?
「分かった、フーリンは戦闘の準備をしておいてね。怪我はなるべくしないでくれよ?」
「分かったわ!!絶対に大樹の役に立つんだから!!」
フーリンは俺の言葉で元気を取り戻したらしく、まさか気を使っていたつもりがこの子を悲しませている結果になるとは思いもしなかった。
リリーナさんもこの状況を目の前に微笑んでいるじゃないか、どうやらアマゾネス小隊の隊長の肩書は伊達ではないらしい。
「リリーナさん、助言ありがとうございました。じゃあ俺は隣の部屋に行きますね。」
「大樹殿、……よろしくお願いします!!」
俺はリリーナさんの深々と下げる頭を背に戦闘の準備をすべく隣の部屋へと入っていくのだった。
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