005.プロテインとギャンブルとガールズバー

「…………。」


「いよっしゃあああああ!! 鍛冶スキルをゲットだぜ!! これでこの世界で食い扶持を稼ぐ方法が手に入ったあああああああ!!」


 俺は喜びの余り、ガッツポーズをしながら歓喜の咆哮を上げていた!


 しかもいつの間にか村のエルフたちが周囲を取り囲んでいる、しかもみんな一様に俺の咆哮に呼応してくれているじゃないか!!


「「「「大樹! 大樹! 大樹! 大樹! 大樹! 大樹!」」」」


 これはテンションが上がると言うものだろう! 何しろ俺が手に入れたスキルは『鍛冶スキル(LV.7)』だぞ!?


 しかも鍛冶スキルだけでは無く、『装飾スキル(LV.6)』のオマケつきだ!


 これがエルードさんの武器が高値で売れる理由らしい、どうやらこの事はエルードさん本人が村長にすら隠していたと言うことだ。


 フーリンが言うにはエルードさんと同等もしくはそれ以上の鍛冶スキルを持つ人物には滅多にお目にかかれないそうで、国の王族や大貴族クラスがお抱えとして雇っているのが実情だと決闘の後に補足してくれた。


 因みにこの世界ではスキルのLV上限は10だそうだ。


 決闘後にあれだけ息巻いていたエルードさんが部屋の片隅で涙を流しながら真っ白になっているが、そんなことはどうでも良い!!


 寧ろ流した涙がここの室温で蒸発しているから暑苦しくて邪魔なくらいだ!!


「大樹、やったじゃない!! この力があれば大きな街でも暮らしていけるわよ!?」


「フーリン! 俺はやれば出来る子でした!! なんちゃってえええええ!!」


「ほわあああああ……、まさか……リフレクションのスキルがここまで強力だとは思わなかったぞい? しかもエルードの技量をそのまま流出することになるとは……。フーリンの恩人を生き埋めにするわけにもいかんし……じゃが、そうせんことには儂らの食い扶持が……。」


 村長が何か恐ろしいことを言っているが、それも知るか!!


 何しろ俺は陸上の短距離走選手だぞ? だったら逃げ切って見せるだけだ!!


 俺は世界や日本の陸上連盟にすらドーピング違反を隠し通してきた男だぞ?


 完全犯罪はここに存在するんだよ!!


 お前の村で鍛冶スキルをゲットすることは俺からすれば小学生がスカート捲りをするのと同じ感覚と言う事だ!!


 俺は逆に村長を挑発すべく力こぶを作って笑顔で威嚇してみた、何しろ俺は今回の検証で他人のスキルを獲得することに興奮を覚えてしまっているのだから加減が分からん!


「村長、……カモーン? フォオオオオオオオ……。」


 俺が香港出身のカンフー俳優の物まねをしながら挑発すると、村長が業を煮やしたのか突然に騒ぎ立て始めた。


「くううううううううっ!! 誰か、儂の二刀ドスを持って来んかい!!」


「村長、互いに恩を感じているわけだからここで決着を付けようじゃないか……。」


「大樹殿、……儂はフーリンの悲しむ顔を見とうないんじゃい。頼むから大人しくここの鍛冶屋で働いてくれやい!!」


「えっ!? だったら私は大樹と旅に出れば良いだけだから、村長が無理に決闘をすることは無いと思いますよ。」


 おいおい、……フーリンの一言であの筋骨隆々の村長が滝の如く涙を流しているじゃないか。


 だが、これで事は全てシンプルになった……、後は俺がこの村長をタコ殴りにすれば良いだけだからな!!


 そして俺はフーリンと一緒に旅をするんだ、……だってフーリンてばかなり可愛いから俺としては大歓迎ですよ?


「儂のスキルは『ツインソード(LV.9)』じゃあ!! そして儂自身はLV.25まで鍛え上げとるんじゃあああああ!!」


「俺のギフトは『バーサーカー(LV.1)』……、俺自身はLV.5だけど正々堂々と行こうじゃないか……。」


おい、村長!! 昨日まで担いでいた鉞は何だったんだよ!!


 俺はてっきり熊にでも騎乗して掛かってくるかと覚悟してたんだぞ!?


 しかもスキルがツインソードって、ダサくて暑っ苦しいお前には何とももったいない……。


 お前のスキルが泣いている、そうは思わんかね?


「………はあああああああああああ!? バーサーカーじゃとお!! ……大樹殿よ、そんな下らんハッタリで儂が引き下がるとでも思うとるんか!?」


「村長、それ本当ですよ? 大樹のステータスを見せて貰ったから知ってるよ、ねっ?」


 何やら俺のギフトが口からのハッタリだと思った村長だが、それをフーリンの補足されて体が完全に硬直してしまっている。


 どう表現すれば良いのだろうか、……人間に捉えられて一人ぼっちで檻の中に閉じ込められたゴリラとでも言っておこうか?


 そうなんだよ、両肩をなで肩にしながら両膝をくの字に曲げているさまはゴリラそのものだ。


「あ、そうだ。そう言えば昨日のうちにリフレクションで検証していたことが有るんだよね。ほら、フーリンに色々と手伝って貰ったあれだよ?」


「昨日? ああ、他人の技術を習得する方じゃなくて既に習得している技術を活用する方ね!!」


 この村までの道中でフーリンから俺のギフトとスキルについて分かる範囲で教えて貰ったことが有る。


 フーリン曰くリフレクションはエルフに適性が無いので詳しいことは分からないが、有名な効力が二つのだそうだ。


 一つは他者の技術をその目で見ると正確に覚えられること、これは今さっきエルードさんとの決闘で検証出来たはかりだ。


 学生の感覚で言えば教科書を一度読み込んだだけで全国模試で満点を取れるようなものなのかな、これこそ異世界で生き抜くためのチート能力と言うべきことだ。


 もう一つは習得技術を若しくは自身が独自に訓練を積み習得済みの技術を専門の設備が無くても実行が出来ると言う事だ。


 つまり頭の中で作業をイメージするだけで、掌の上に思い描いた物体が浮かび上がって実体化すると言う事らしい。


 後者については昨日の宴会の準備中に暇だったのでフーリンと一緒に色々と試してみたのだが、思った通りのものが出来上がった。


 そう、『あれ』ですよ。


 俺が態々薬学部が有る国立大学に転入してまで研究をした『あれ』だ。


「このドーピング剤は一粒飲めば俺の全ステータスが二倍になる代物だ! しかも100%体に害が及ばないことは臨床実験で確認済み!! ……つまり俺がこのクスリを飲んでバーサーカーのギフトを使えば……何のリスクも無く全ステータスが200倍になるんじゃい!!」


 バーサーカー自体には精神的なリスクはあるけど、それは今は黙っておくとしよう。


「良いぞ、大樹!! やっちゃええ!! 大樹の素早さってLV.5の時点で最大値だったから…200倍だと……20万!!」


 フーリンには露天商の売り上げを激増させるサクラの才能があるみたいだな、俺の啖呵に色々と情報を上乗せしてくれるのだ。


 そしてその効果もあってか目の前でドス二刀流の構えを取っている村長から尋常ではない量の汗が滴り落ちているじゃないか!!


 なんと爽快な光景だろうか……。


 その上、誰がどう見てもビビっていることが一目瞭然だから村人たちから怒涛のブーイングを浴びているのだ。


 『村長の選出基準が筋肉だけなのは可笑しい』とか『いつも腕力で物事を解決しやがって』だのと散々な言われようだ。


 終いには『口が臭い』とか『税金を無駄遣いするな』など人として有るまじき行為が露見されていく、……だったら俺のすべきことは決まっている様なものでは無いか!!!


「俺がエルデ村を解放してやるぞお!! この村の絶対王政は許しがいた愚行だ! 村人たちよ、自由は与えられるものでは無い、勝ち取るものなんだああああ!!」


「「「「うおおおおおおおおお!! 大樹! 大樹! 大樹! 大樹! 大樹! 大樹!」」」」


 俺がこの村の悪政を正すと宣言すると周囲を取り囲んでいる村人たちが先ほどと同様に俺の咆哮に呼応してくれた。


 これはオリンピックの決勝で走っていた時よりも強烈では無いかとさえ感じている、これは最高に……気持ちいいいいいいいいいいいい!!


「やっちゃえ、大樹!! 私も村長とエルードさんが村の税金を使ってプロテインを買っているのは可笑しいと思うわ!!」


「……何だと? まさか、それが原因でフーリンは女だてらに動物を狩っていたの?」


「ううん、いつかこの二人を暗殺しようと思って弓矢の技術を学びたかったの。」


 フーリンのこの一言には流石に村長も立ち直れないほどのショックを受けているみたいだな、……ここまで来ると怒りを通り越して哀れとさえ思えてくる…。


「じゃあかしい!! ……じゃったら儂とこのよそ者の大樹、この勝負を持ってこの村の未来を決める!! ……本当にそれでええんじゃなあ!? おまんら、後で泣きついて来ても責任は持たんぞい!!」


 うわあ、こう言うのって追い詰められた悪代官とかが言うセリフのデフォルトだろう。


 この状況でどうしたらそのセリフを選んじゃうかな?


 そんな考えなしのセリフを言うから『タダ飯食らいは出て行け』だの『あんたの体臭はトイレの臭いがするから村に近寄るな』なんて言われるんだぞ?


 ……村長よ、あんた泣くのを無理やり堪えているだろう?


 気持ちは分からなくもないが、そこは土下座をしてでも許しを乞うところだろうに……、それにしてもエルードさんはいつの間にか我に返ってないか?


 さっきから気になっていたけど、あの人、ここで意識を取り戻したら村長と一緒に攻め立てられると思って気絶したふりをしているだろ!?


「……フーリン、エルードさんは意識を取り戻しているぞ?」


「何ですって!? みんな、エルードさんを羽交い締めにしちゃって!!」


 フーリンの号令でエルフの男衆が一斉になってエルードさん取り押さにかかっていた、ここはエルフのモブさんたちに頑張って貰うとしようじゃないか!!!


「ぎゃああああああ!! 俺は村長に言われて嫌々やっていたんだあ!! そうしないと鍛冶場を叩き壊すって言われて……!!」


「エルード!? おまんは勝手に儂に付いてきたんじゃろうがあ!! 鍛冶場の予算をギャンブルと街のガールズバーで使い込んだとか言って!!」


 うわあ……、こいつら最低だな。


 税金の使い道がプロテインにギャンブルと夜遊びだって?


「フーリン、因みにこの村の税金ってどうやって払っているの? 食料は自給自足じゃないの?」


「ううん、主食はそうだけどパンと牛乳とか色々と街に行って買わなきゃいけないし、テントとかの修繕材も馬鹿にならないのよね。だから村の女の人たちは工芸品を作って街に卸すし、男の人はエルードさんにこき使われて武具を作って街に売りに行くんだから。」


 あの筋肉馬鹿に鍛冶仕事でこき使われるとかここの男衆は大変だな……、いや、だからこそあんなに簡単に取り押さえることが出来たのだろうか?


 まさに『筋肉バカ冶師』と言ったところか。


「へえ、フーリンも工芸品とか作るの?」


「私はそっちの方は編み物を担当しているの、大樹も欲しい?」


「良いね、フーリンもお手製かあ。服とか編んでくれると嬉しいかな?」


「フーリンに大樹殿、おまんらも乳繰り合っとる場合かあ!? この修羅場の落とし前をどう取るつもりなんじゃい!?」


 いやいやいやいやいや、この修羅場の責任はどう考えてもお前だよ。


 どうやら村長は村人全員から攻め立てられることに耐えられなくなってきたらしい、その精神状態のせいか俺とフーリンが普通に会話しているだけでキレて出す始末だ。


 ……心なしか汗と一緒に涙も流してません?


「ところで大樹。」


 俺が村長の異変について考察をしているとフーリンが俺に話しかけて来ていた、どうやら彼女はこの状況に飽きつつあるようで片手で欠伸をしている。


 確かにこの状況が長く続いてしまって、俺も飽きて来ているのでフーリンを攻めることは出来ないんだよね。


「どうしたの?」


「村長のツインソードって生産系のスキルじゃないからリフレクションで習得できないと思うよ? 詳しくは分からないけど、多分。」


「………………筋肉って食べたら堅いかな?」


「大樹いいいい……、おまんから見た儂は鹿と同等とでも言うんか!?」


 俺は素直に感想を述べるべきなのだろうか?


 別に答えは持ち合わせているのだけど、ここで言ったら悪い奴になりそうなんだよね。


 いくら最低な奴でもこの村長は見ず知らずの俺を一晩泊めてくれたわけだし、倒すとは宣言したけど食料扱いするのは頂けなかったかな?


 後でみっちりと反省するとしよう、……と言う事でシカトだ。


「おげええええ……、肉が汗とプロテイン臭そう。」


「フーリン!? ……流石にそれは儂も涙を止めきれる自信が無いぞい?」


 おっふ……、俺が流そうと決意した矢先にフーリンが舌を出しながら吐き気を催している様なジェスチャーを取ってしましたよ?


 その上、後ろでは村人たちが『うんうん。』などと言って相槌を打ってますがな。


 ……村長、良く今までこの村を統率出来てましたね? ここまで求心力の無い村長も初めて見るわ!


「それで村長、ここからどうするんだ? 今なら土下座で誤れば立場はどうあれこの村にいられるだろう。だが俺と対峙すればこのだだっ広い草原に捨てられるわけだが……、好きな方を選ぶと良いよ……。」


「ぐぬっぬっぬっぬっぬ……、年金の支給を保証してくれば何とか……。」


 村長もこの状況で良くぞ言えたな、逆に感心しちゃうよ……。


 見てみなさいよ、俺の後ろで村人全員が仁王立ちのポーズであんたに睨みを利かせているでしょ?


 それに『ぐぬっぬっぬっぬっぬ』ってもしかして『ぐわっはっはっはっはっは!!』のつもりだろうか……、悲しくなってくるからツッコむの止めよう。


「ふう、俺はこの村の人間では無いから村人たちにジャッジして貰おうか? ……みんな、村長に年金を支給するか!?」


 って、村人たちが一斉に石を投げつけ始めちゃったよ!!


 俺は村人と村長の間に立ってるんだから投げつけられると俺にも当たるんだってば!!


「…交渉決裂だな。いてっ!」


「左様か……、ほんなら勝負じゃあ!! ここまで嫌われてるんなら儂が勝った暁にはこの村にガールズバーを建てちゃるきい覚悟しいやあ!! 女子は時給なんぞ貰えると思うなよ!? いてっ!」


 この光景を見て思ってしまった、……もしかして俺は煽り過ぎてしまったかなと。


 だからこそ途中で救いの手を差し伸べたのに、この村長が思った以上にクズで計画が脆くも崩れ去ってしまったのだ。


 この状況を危険だと感じた俺は村人に気付かれない様に静かにその場を離れてみた、すると村人たちは目を光らせながら村長に向かって手あたり次第のものを投げつけ続けているではないか。


 しかも良く目を凝らしてみると村人たちが投げているものが光り始めている様に見える、……それに心なしか光っていなかった時よりも威力が上がっていないか?


「ねえ、大樹! 村長の足元付近の草がどんどん成長してるんじゃないの?」


「……本当だ。しかも成長しながら村長に巻き付いているんじゃないか?」


 俺とフーリンは目の前で起きていることに驚きを隠せなかった、何故ならばその巻き付けられている村長の体が徐々に萎んでいるのだ。

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