第26話 新たな仲間
週が明けた月曜日、久しぶりに問題が全て消えて、軽やかな気持ちで出社すると、社長秘書の早紀が声をかけた。
「星野さん、梅川さんから一〇時に編纂室に行くので、部屋で待っていてくれと伝言がありました」
また新たな課題かと思いながら、気が重い表情を見せると、早紀が思わせぶりに付け加えた。
「今回は依頼じゃないから、大丈夫ですよ。でも星野さん自身は慌しくなるかも」
それを聞いて、「えっ」と声に出すと、早紀はウィンクして自席に戻った。何だか分からぬまま部屋に入って、このところの問題解決で見切れなかった資料の整理を始めた。
一〇時になると、早紀の言葉通り梅川がやって来た。梅川一人だけではなく、その隣には早紀や絵利華に負けない美人がいた。
――長池遥香だ!
一七〇センチ近い長身とスレンダーなボディ、何よりも聡明そうな目に見覚えがあった。
どうして彼女がここにと不思議に思っていると、梅川が紹介を始めた。
「今日から社史編纂室に異動してくる長池遥香さんだ。君の部下になるから、よろしく頼む」
「長池です。よろしくお願いします」
気品があって透き通るような声だった。
「ええっ!?」
予想してない展開に思わず声が出た。
「社史編纂室を強化しようと思って、前々から公募を掛けていたんだが、彼女がすぐに応募してきたので即決した。頼もしいだろう?」
梅川は悪だくみをする子供のような顔で経緯を説明した。
「公募の話、私は知らないですよ。第一、ここに二人分の仕事はないじゃないですか。それに彼女は、長澤だって認めている営業部のエースです。ここへの異動はもったいない」
話についていけず、遥香がいるにも関わらず梅川に抗議した。
「仕事ならいっぱい来るぞ。この前の一件以来、君に相談したいと言う管理職が私のところにたくさん来ている。それに長池君が気に入らないのか? 長池君、ショックだよな」
梅川が芝居気たっぷりで私をいじって来た。
「星野さんには物足りないかもしれませんが、せいいっぱい頑張りますので、ご指導よろしくお願いします」
遥香も梅川に呼応して、畳みかけて来る。
私はもう何も言えなかった。
「今日は挨拶だけで、明日からオリエンテーションをよろしく頼むよ」
梅川は楽しそうに言って、遙と一緒に出て行った。私は呆然と二人の後姿を見送った。
昼休みランチを済ませて、休憩室でボーっとしながらコーヒーを飲んでいると、早紀と絵利華が寄って来た。
「星野さん、お見合いの件、ありがとうございました」
早紀のお礼の言葉に併せて絵利華も頭を下げる。
「いや、うまくいってよかった」
今の私は遥香の登場で、それどころじゃない。
そんな私の様子に、早紀が楽しそうに話し始めた。
「長池さん、私の二年後輩で絵利華と同期なんですよ」
絵利華が頷いて話を続けた。
「同期中で営業成績ナンバーワン、今年の四月には第一選抜でサブリーダーに昇進と言われてたんです。それだけに本当に今回の異動はびっくりしました。遥香みたいな美人と星野さんが、あの部屋で二人で仕事をするって、なんだか焼けますね」
完全にからかわれてるとしか思えなかった。
あんなに頑張って助けたのにと、少し恨めしく思っていると、ニコニコしながら早紀が提案してきた。
「今日、長池さんの歓迎会を二人でしようと思っているんですけど、星野さんもご一緒しませんか? ベビーシッターは私が手配しますよ」
ぞっとした。冗談じゃない。行けばまた難題が降って来そうで、何とか回避しなければと、休憩モードに入っている頭をフル回転させた。
「今日は娘と約束しているから行けないなぁ」
我ながら今作ったような嘘しか思い浮かばなかった。
「そうなんですね。残念だわ。でも永池さんが来るから、これから機会はいつでもありますね。楽しみにしてます」
また背筋がぞっとした。
「ああ、はい……」
はっきりしない私をおいて、二人は戻って行った。
三人との関係もそうだが、これからこの部署のミッションはどうなるのか、そっちの方も心配だった。
せっかく今迄いいペースが保てていたのに、今回のように問題解決の当事者にされたら、心労に耐えられるか自信がない。
梅川の考えてることが不気味で不安に苛まれる私だった。
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