第3話 目の前の仲間のために命を燃やす先で

 早朝山走りを開始した5月1日は、別の新たな試みもスタートするタイミングだった。勇司は空間心理カウンセラーとして12年間活動をして来た中で、仲間として集ってくれているコアなメンバーに対して、毎日オンラインのZOOMシステムを利用してサポート講座を開始した。


 コロナ禍を経て、仲間内でも思うように働けない人たちが増えていたこともあり、そうした仲間のメンタル面のサポートや具体的な経済活性施策として「ZOOM講師料無料・収益を100%主催者に還元」という仲間に対するサポートを毎日行うことを実行した。


 5月、6月の2ヶ月限定のサポートを開始したこによって、毎日3〜4本の仲間の主催によるZOOM講座が展開されていく。文字通り、勇司は全身全霊で2ヶ月を駆け抜けていった。


 「コロナ以前は、ZOOMでのオンライン講座をやる事はなかったけど、これは意義があることだな。ある意味短期間で繰り返し講座をする事で、自分のスキルアップにも繋がるから素晴らしい相乗効果やな。」


 勇司はこれまでの12年の活動では、基本的にリアルで関わることに重きを置いていたこともあり、オンラインでのコミュニケーションはあまり効果的ではないと考えていた。面と向かってリアルで関わるからこそ、コミュニケーションは深まるもの。そういった固定観念があったのだ。


 しかしこの価値観が、サポート期間を通して覆ることになる。オンラインで繋がる時間を通して、想像以上に深い関係性を築くことが可能となり、しかも行動を促すような実践的な講座もできることに、やってみて気づいたからだった。何よりも、この時の体験が後々になって、思わぬ形での発展を生むことになる。


 「ZOOMも、意外とやってみたら面白いな!時間や場所にも囚われずにできるし、なんでもっと早くに活用せんかったんやろ。もったいなかったなぁ。そや、試しに色んな場所でZOOMをやってみたらええかも知らん。車でも、出来るんちゃうかな?」


 そう思って、勇司は愛車の中でZOOM講座を展開することを試してみる。リモートワークが推奨されているコロナ禍において、これによって新たな働き方の提案ができるかもしれないと閃いたのだ。


 緊急事態宣言が発令されて、店舗営業をしている飲食店をはじめとして、不動産が大打撃を受けている。身動きが取れなくなった現状では、店舗を持って固定費を払い続けることがビジネス展開において大きなリスクとなる可能性が出てきていた。


 「これからの時代は、不動産ではなく、移動産かもしれないな。」


 勇司が車でZOOM講座を試験的に始めた理由は、感染症対策にもなり、移動しながら自由にビジネス展開ができたり、既に多くの人が持っている車という名のプライベート空間も活用できれば、様々な可能性が広がる人が増えるのではないかと考えたからだ。


 特に在宅ワークが増えている中で生まれている問題として、家庭で仕事をすることによって大きな声では話せなかったり、家族間で気を遣い合う関わりが増えてストレスが溜まる人たちが現実的に増加していた。


 そんな中で、車内スペースをうまく活用できれば、声を張って周りを気にすることなく、オンラインでの打ち合わせや講座展開などもコストをかけずに実行できる可能性がある。それを試験的に開始してみたことで、結果的に2ヶ月で1000人の方々へ車内でのZOOM講座を届けることに成功した。


 「車の中でも、十分にオンライン講座はできるな。そうだ、ハイエースを改造したら、移動式の事務所を作ることができるかもしれない。固定された事務所は今後リスクになる可能性が高い。だからこそ、いつでも移動できる事務所としての車を開発してみるのも面白いかもしれないな。」


 こうして仲間のサポートをしながらも、実験と検証を高速で繰り返すことで、自分が楽しくなるアイデアもどんどん閃いていった。自分も周りも自然にかつ、面白くハッピーになることを考えていくのは、勇司にとって三度の飯よりも楽しいことだ。


 5月から開始した仲間のサポート活動が2ヶ月目を迎えるうちに、コロナの影響も次第に落ち着きはじめていた。少人数で感染症対策を行った上でのイベント開催は緩和され始めていたので、久しぶりにリアル講座を開催しても良いかもしれないと思う立つ。

 

 それも既存の受講生の皆様のサポートのために、リアル講座再開の最初の一歩目として、いつも利用している大好きな会場を使いたいと思い浮かんだ。


 「6月30日に、西宮神社で久しぶりにリアル講座を再開してみるか。そういえばこの日は半期に一回の大祓の大祭が行われる日でもあるな。去年は盛大に行われていたけど、今年はどうなるんだろう。半期の節目でもあるし、良き日になるといいけど・・・。」


 兵庫県にある、えびす様の総本宮・西宮神社に併設された「西宮神社会館」は、伊藤勇司御用達の会場だ。その空間の美しさ、煌びやかさと、自然と調和して本殿を横目に出来る会場の空気感が大好きで、勇司はもう何年も前から定期的にこの場所を活用していた。


 「全国的に記録的な豪雨が続いているため、明日は土砂崩れや洪水にはくれぐれもご注意ください。」


 前日のニュースで、日本全国がこれまでにない記録的な豪雨に見舞われている報道が流れていた。しかし、朝起きて太陽がまだ顔を出していない時間に外へ出ると、水溜りにポタポタと滴る程度の雨足だ。

 

「今から早めに会場入りしていれば、激しい雨の影響を受けなくて済みそうだな。」



 ひとしきり準備を終えた勇司は、人の動きが少ない朝一番の時間帯に、車で会場に移動した。「3」という数字が大好きな勇司は、3時33分に起きている。これは、約4年半前に高千穂の八大龍王水神に訪れる前に直感的に思いついて始めた習慣だ。

 

 勇司は自分がやることに意味を求めない。ただ、自分がそれをすることが楽しいかどうか。それが全ての決断の基準になっている。


 っっっっっっっっっっっdっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっwdwっdっっっwっdwdっwっっっっっっっっっっっっっっd


 おっと、これは失礼。


 伊藤勇司非公認弟子に運転をお願いしながら、ラジオ岸和田に向かう車中でこの原稿は執筆している。ポカポカと心地よい日差しに気持ちよくなって、一瞬眠ってしまっていた。この物語とは一切関係ないが、これも一応記録に残しておこう。

 

 再び物語に戻るが、朝一番に西宮神社に到着した勇司は、本殿へのお参りを済ませて、その近くにある茶屋へと足を運んでいった。


 そこで、甘酒とわらびもちを注文し、支払いをすると・・・


 「良い福がやってきますように。」


と、えびす顔の店員さんが、一言添えてお釣りを渡してくれた。


 「今日は朝から、素晴らしいなぁ。なんか、面白いことが起こりそうだな。」


 甘味を堪能すればするほど、福がどんどん舞い降りてくる。勇司は、幸せなイメージでワクワクしながら、西宮神社での朝を満喫していた。



 

 

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宇宙と繋がるカレー店「富士乃屋」 片づけ心理・空間心理カウンセラー伊藤勇司 @heya-kokoro

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