第6話 ヒロインの暴走と2人の決意
***トゥリオside***
「私のディオ様を返せっ!」
公爵家に婿入りする予定のお陰でクラウディオ殿下の側近頭といつの間にかなっていた俺は、その日もクラウディオ殿下とシルヴィア嬢、そして俺の婚約者であるラウラ嬢と共に登校してきていた。
その声が聞こえてきたのは校門を潜ってすぐだった。
そして走ってくるヒロインの手に光るものがあるのを見て、咄嗟に身体が動いた。
流石にここまでヒロインを堕とすつもりはなかったのだ。
それがシルヴィア嬢に届いてしまったら流石に言い訳が効かない。
「!!!っ……」
熱い。
だけど……
「辞め……ろ、もう、失敗を、認めろ……ここは、現実、なんだ……ちゃんと、周りを、見ろ。お前は……ヒロインじゃ、ない」
「っ!? お前……お前のせいかっ!」
また刃を振り上げられるのが見えたが、それが振り下ろされる前に取り押さえられるのが見えた。
そして俺の意識は途切れた。
数日後、意識を取り戻した俺を見て、ラウラ嬢が泣きじゃくった。
シルヴィア嬢もクラウディオ殿下も公爵様と公爵夫人様も何度も何度もお礼を言ってくれた。
ヒロインは修道院に送られることになったらしい。
俺がフォローしなかったせいもあると思ったので、出来る限り穏やかに暮らせる修道院にしてくれるよう頼むと、お人好しだと思われたのか苦笑されたが確約してくれた。
でも現実を認めないあの態度は俺でもあると思ったのだ。
「トゥリオ様、他に何かして欲しいことはございませんか?」
「大丈夫ですよ、ラウラ嬢。毎日ありがとうございます。怪我が治ったら、また一緒に庭を散歩しましょう」
「はい、楽しみにしていますね!」
そうだ。
いつまでも嘆いているだけでは、ヒロインと同じだ。
ここは現実なんだ。
俺は現実を認めて、前に進まないといけない。
その為にもまずはラウラ嬢ときちんと向き合ってみよう。
ヒロインも、いつか必ず現実を認め、自分の人生を歩んでくれると信じている。
俺にとっては反面教師で出世に利用した形になるけど、決して嫌な目にあって欲しいなんて思っていたわけではないのだ。
ただ乙女ゲームの呪縛から離れ、現実を生きて欲しいだけ。
もしもいつかヒロインが現実を生きられるようになったのなら、日本のことを語り合ってみるのも良いかもしれない。
そんな未来が訪れることを願って、俺はこの現実を生きていく。
***ラウラside***
トゥリオ様と婚約してから、私はお姉様と共に過ごすことが増えました。
トゥリオ様がクラウディオ殿下の側近頭であられるからです。
必然的ですが、以前の世間知らずなクラウディオ殿下ではなくなっておりますし、嫌な空間では決してありません。
こんな日々が続けば良いと思うくらい穏やかな日々でした。
ですが、それがある日突然崩れました。
トゥリオ様がお姉様を庇って、代わりに刺されたのです。
私はただ見ていることしか出来ませんでした。
お人好しで、小心者で、どこか抜けた甘い人。私達が支えていかなければ、貴族社会で生き残ることは出来ないと思っていました。
だけどあの瞬間、動いたのは、動けたのは、トゥリオ様だけでした。
私達はトゥリオ様が倒れて初めて動くことが出来たのです。
何が居ても困らないですか。
何が余計なことをしでかさないですか。
何が補佐するですか!
何も出来ないのは……私達の方ではないですか。
トゥリオ様がどんな力を持っていらっしゃるのかは知りません。
力なんてないのかもしれません。
ただ一つ分かっているのは、この方は他人の為に動くことが出来る人だということ。
クラウディオ殿下方の時も出世したくないのなら、上の目に留まりたくないのなら何もしなければ良かったのです。
今回だって、護衛ではないトゥリオ様がわざわざ動いて、お姉様の代わりに刺される必要はなかったはずです。
でも、トゥリオ様は動きました。
偉そうなことを言うだけ言って何もしない私達と違って、トゥリオ様は必要な時にきちんと動くことが出来ます。出来ていらっしゃいます。
トゥリオ様の本当に凄いところはそのようなところではないでしょうか。
私はトゥリオ様をきちんと見ていませんでした。
ずっとどこか色眼鏡で見てしまっておりました。
いいえ、心のどこかで見下していたのでしょう。
トゥリオ様がどのような力を持たれていようと構いません。
これがトゥリオ様の演技でも構いません。
私は……トゥリオ様の婚約者です。将来の伴侶です。
これからはきちんとトゥリオ様と向き合い、トゥリオ様と支えあって生きていけるよう全力を尽くしましょう。
幸いにも私の周りには反面教師が沢山いらっしゃいました。
お陰様でしてはならないことは分かっております。
それが実践できるかと言うと今回のように出来ないかもしれませんが、トゥリオ様とは半人前同士、案外お似合いかもしれませんね。
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