第3話 暗躍の結果
***トゥリオside***
あれから数か月経った。
もう彼らに手紙を送ることはしていない。
必要ないからだ。
ヒロインは上手く行かなくなった攻略にイラついているようだけど、何かする前に彼らが改めてくれて本当に良かったと思う。
恋愛することを悪いとは言わないけど、恋愛以外にも大事なことってあると思うんだ。
最近、彼らはまだまだぎくしゃくはしているが、自らの婚約者ときちんと向き合おうと頑張っている。
勿論彼らはそれなりのことをしたのだから、婚姻するとしてもきっと尻に敷かれ続けるだろう。
だけど、まだ致命的なことをしていないんだ。巻き返しは十分可能だ。是非頑張って欲しい。主に俺の努力を無駄にしない為にも。
そういう意味ではヒロインだってまだ巻き返しは十分可能なのだ。
だけど、攻略対象者に拘って、今でも躍起になって近付こうとしているのを見ると不安が勝る。
もしも現実を認められずに致命的なことを犯してしまうようなら、もう終わりだ。
さっさと現実を見れば良いのにとそう思う。
どちらにしろ俺はメインキャラに近づく気はない。
後はそれぞれ自分達で頑張って欲しい。
ヒロインへのフォローは……俺がすると余計にこじれそうだから却下。
誰か周りの人が頑張って欲しい。誰も手を差し伸べないのならそこまでの奴だったということだ。
悪いがこれ以上は俺には無理だ。
だからもう俺は正しきモブに戻ろう。
暗躍はもう沢山だ。
「トゥリオ・ニッツォーロ、だったかな」
だと言うのに、どうして俺はクラウディオ殿下に呼び出されているのだろう。
俺はただのモブなんですが?
「は、はい。トゥリオ・ニッツォーロです。私に何か御用でしょうか」
「確か君は伯爵家の三男で文官を目指しているんだよね?」
「はい、その通りです」
何で知ってんだ?
俺は平凡なモブで、目立つようなことは一切していないはずなんだけど?
「そうか。なら、君に頼みがあるんだ」
「私に出来ることでしたら」
「ありがとう。なら今日から俺の秘書になってくれ。契約についてはまた別途詰めるとして、これからよろしく頼むよ、トゥリオ」
「……………………はい?」
当然、俺に拒否権など在るわけもなく、俺は第一王子付きの文官として突如として召し上げられることになった。
突然の出世に実家は勿論、周囲の人達からも驚かれ、騒がれた。
そして。
「ラウラ・ディナーレと申します。末永くよろしくお願いいたします、トゥリオ様」
伯爵家三男風情には有り得ないことに何故か公爵家次女に婿入りすることになった。
そう、婿入りだ。
有り得ない。本当に有り得ない。何だこれはと言いたい。
でも、後押ししているのが……
「これでお前も安泰だな、トゥリオ」
「本当に素晴らしい縁談ですわ」
クラウディオ殿下とシルヴィア嬢なのだ。
「いやー、本当にいい婿を迎え入れられることになって私共も安心でございます。素敵な御仁をご紹介して下さり、ありがとうございます、殿下」
「ええ、我が公爵家にとっても娘にとっても本当に良い縁談で嬉しい限りですわ」
「はい、
公爵家の方々も誰一人として反対しないどころか、諸手を挙げて大歓迎なのだ。
これで断れるわけがない。
いや、ラウラ嬢は流石シルヴィア嬢の妹だと言いたいくらいに素敵なご令嬢なのだ。
男としては非常に嬉しい限りだ。
だけど、ディナーレ公爵家にはある噂があった。
嫡男が非常に不出来で素行が悪いというものだ。
事実、ゲームでもそこを責められているシーンがあった。妹であるシルヴィア嬢に責を問うのは間違っているのだが、家門の恥であるという事実は確かにあるのだろう。
つまり、ラウラ嬢にきちんとした婿さえ居れば嫡男が居なくなっても問題ない、と考えても仕方がないのだ。
その行き着く先を考えると頬が引き攣ってしまう。
いや、それより何より、これ絶対俺が暗躍したことバレてるよね!?
そして生粋の王族貴族達だ。
絶対にこれを純粋な好意、感謝の気持ちとして推し進めた。
俺が嫌がるとは全くもって思っていないのだ。
むしろ喜ぶと本気で思っている。
確かにヒロインとのアレコレを止めたお陰で国は平和になった。
でも、そのシワ寄せが俺に来るなんて聞いてないっ!
俺はモブなの。平凡な男なの。第一王子の文官とか、公爵家とか荷が重すぎるの!
誰か、俺に平凡な日陰の生活を返してくれ……。
「トゥリオ様、どうかなさいました?」
「い、いえ、とてもご立派な庭ですね。このようにご立派な庭は見たことがありませんでしたので、圧倒されておりました」
本当にこんな庭付きの家が俺の家になるなんて胃が痛いです。
「ふふ。そうでしょう。我が家の自慢の庭なんです。そうですわ、トゥリオ様のお好きな花はございますか? その花の庭を我が家にいらっしゃるまでにご用意致しますわ」
「……アリガトウゴザイマス……」
ヒロインよ。
これが現実というものだ。
思い描いた通りに進む現実など有りはしないのだ。
そう、思い描いた通りになどならないのだ。
分かっていたのに、現実だときちんと知っていたはずなのに、王族や上級貴族の力を甘く見た俺が悪かったんだ。
誰よりも一番俺が現実を甘く見ていたなんて、本当に……すみませんでしたっ!
謝るから誰か俺を助けてっ!
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