第2話 トゥリオの暗躍
***王子side***
俺はクラウディオ・アルジェント。
アルジェント王国、現国王の息子で第一王子だ。
お陰でディナーレ公爵家のシルヴィア嬢と幼い頃から婚約させられている。
いつもツンと澄ましていて高飛車に俺のすることに口を出してくる嫌な奴だ。
学園に入って出逢ったソニア・コッリネッリ嬢を見習わせたいくらいだ。
ソニア嬢は市井に居たせいか他の貴族令嬢達と違って非常に親しみやすく、明るく無邪気だ。その清浄な空気にいつも癒される。
もし自由に選べたのなら絶対にソニア嬢のような女性を妻としたい。
その日もいつものように癒しを貰いに学園に向かった。
しかし、授業の内容を書き取る為に開いたノートに見知らぬ紙が挟まっていた。
驚いたものの、「ソニア・コッリネッリ」という字が見え、チラリと周囲を確認した後、その紙を読んだ。
バカバカしい内容だった。
ソニア嬢が演技をしていると言うのだ。
鼻で笑ってやりたかった。
だけど、証拠だと列挙されている会話集の中に覚えのある会話が記載されていた。
それに他の会話もソニア嬢が返事をしそうな内容だった。
最初は忘れようと思った。
だけど、忘れようとすればするほど、どうしても気になってついその中の一つを口にしてしまった。
「君は鳥になって空を飛んでみたいと思う?」
「思いません。だって鳥になったりしたら、ディオ様とこうしてお話しできないではないですか」
ぞわっとした。
一言一句、手紙の通りだったのだ。
いや、偶々と言うことも有り得る。
そう思い、幾つも会話集の会話を繰り返した。
ソニア嬢は全て手紙通りの返答をした。
語尾が少し違うとかそんな些細な差異すらなかった。
手紙もソニア嬢も得体の知れないもののような気がして、とても気持ち悪くなった。
数日後、またもやノートに見知らぬ紙が挟まっていた。
見ない方が良いと思いながらも、読むことを止められなかった。
だけど、そこには日時と隠れる場所だけが記されていた。
何を見せたいのか、いや、それよりも手紙を無視すべきではないかと思いながらもどうしても気になって俺はそこに向かっていた。
そうして手紙の通り隠れていると、誰かがやって来る音が聞こえた。
「!!お嬢様っ」
「っ……あ、ありがとう、アンナ。助かったわ」
これは、シルヴィア嬢?
何でこんなところに……
「お嬢様、少しお休み下さい。根を詰めすぎです」
「大丈夫よ。クラウディオ殿下の婚約者足る者、この程度きちんとやらなければ」
「何をおっしゃっているのですか。これだって本来はクラウディオ殿下の仕事ではありませんか! あんな娘に現を抜かしているような人の代わりにお嬢様が頑張る必要なんて――」
「アンナ」
「ですがっ」
「アンナ! それ以上は辞めておきなさい。貴方の心は嬉しく思うけれど、ご家族にも累が及ぶわよ」
「っ……」
「それに、大丈夫よ。殿下をお支えするのが
……………………
今のは、誰だ?
いや、まさか俺がここに居ることに気付いてあんな演技をしたのか?
小賢しい。
何が明け透けに主張することは間違っている、だ。
………………俺の仕事とは何だ?
また数日後、日時と隠れる場所の書かれた紙が挟まっていた。
だけど今回は絶対に姿を現さないようにとわざわざ書かれていた。
記載された日時、記載されたところに隠れていると、また誰かがやって来た。
そっと覗くとソニア嬢だった。
彼女がどうしてこんな時間にここに?
疑問が生まれたが絶対姿を現すなと書いてあったのを思い出し、息をひそめる。
じっとしていると、ソニア嬢は何故かハンカチを取り出し、上に投げ始めた。
何をしているのだろうか。
そんなところに投げたら枝に引っ掛かってしまうのに。
「ちっ、さっさと引っ掛かりなさいよ!」
「!?」
低い乱暴な声が聞こえてきた。
誰の声だ?
ここには俺とソニア嬢しか居ないと言うのに。
そう、俺とソニア嬢しか…………いや、まさかな。
自分の中に疑念が膨らむのに蓋をして、ソニア嬢の奇行を見守った。
しばらくしてようやく枝にハンカチが引っ掛かった。
「よっし、出来た。結構ギリギリね。まぁ待つ手間が省けていいわ」
いつもの間延びした高めの声とは違う声。
やはりソニア嬢が話しているように見える。
混乱しているうちに、ソニア嬢が枝に引っ掛けたハンカチに向かってぴょんぴょんと飛び始めた。
本当に何をしているんだろう。
「んー、届かないよぉ……」
あ、いつものソニア嬢の声だ。
「あのハンカチを取りたいのか?」
「あ、アル君! うん、そうなの。風で飛ばされちゃって……」
「俺が取ってやる。待ってろ」
「え? 良いの?」
「当然だ」
「ありがとう! やっぱりアル君はすっごく頼りになるね」
アルベルト・ボニーノ。
騎士団長を親に持ち、自身も騎士を目指している俺の友達。
ソニア嬢と仲が良いことは知っていた。知っていたけれど、俺は今何を見せられたのだろう。
それから俺はあの得体の知れない紙に従い、色んなものを見せられた。
ソニア嬢の奇行や、俺達の前では決して見せない裏の顔。
シルヴィア嬢の自分にも他人にも厳しい裏表のない賢明な姿。
そして……俺達への評判や本音。
父上達までもが俺達を切り捨てるか否か悩んでいるのを聞き、ようやく受け入れた。
俺は最低最悪な裸の王子様だったのだと。
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