本当に現実を生きていないのは?
朝樹 四季
本編
第1話 序章
※なろうからの転載(少々加工有り)です。
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***トゥリオside***
昼休み、裏庭の茂みの裏でのんびりと昼寝をしていると誰かの言い争う声が聞こえてきた。
その争いに心当たりがあり、そっと近づく。
「えー、学園では身分なんて関係ないんだから、友達と話して何が悪いんですか?」
頭の悪そうな間延びした声が聞こえてきた。誰かに聞かせるかのような大きな声だ。
予想通り、今年度の学園の噂の大半を占める女性だ。
名をソニア・コッリネッリと言う。
「そのようなことを申しているのではありません。
凛とした声で対峙するは令嬢中の令嬢であるシルヴィア・ディナーレ。
第一王子の婚約者であり、順調に行けば未来の王妃でもある方だ。
「だから、私は友達と仲良く話しているだけです。友達付き合いにまでシルヴィア様に口を出さえる謂れはディオ様方にだってないと思います! シルヴィア様はディオ様方を何だと思っているんですか。ディオ様方だって意思を持った人間なんですよ!」
キャンキャン吠える彼女から視線を上方にずらした。
やはりそこには
けれど、不敬にもディオ様と呼ぶソニア嬢ではなく、それを窘めるシルヴィア様の方を睨むように見られている。
分かってはいたけれど、攻略はもうかなり進んでいるらしい。
俺の名前はトゥリオ・ニッツォーロ。
しがない伯爵家の三男だ。
卒業後は文官になるか騎士になるかして自立しなければいけないくらいの疑似貴族のような存在だ。
ただ少し他人と違うところは前世の記憶があるということ。
お陰で、ここが口に出すのも恥ずかしいタイトルの乙女ゲームの世界だと知っている。
先程まで見ていた光景は所謂イベントの一つ。
ヒロインであるソニア・コッリネッリが悪役令嬢であるシルヴィア・ディナーレに学園の裏庭へ呼び出されて警告を発せられる。
それに気丈に「攻略対象者達だって人間だ!」と返すところを攻略対象者に見られて居たことで好感度が上昇するというもの。
警告を発したのがシルヴィア・ディナーレで、見ていたのがクラウディオ第一王子様だったことから、ソニア・コッリネッリ嬢はクラウディオ第一王子様ルートへ行っていると本来なら思う。
しかし、学園入学後から見ていたが、ソニア・コッリネッリ嬢はどう見ても俺と同じく前世の記憶がある。そして、どう見ても逆ハーレムルートを爆走している。
俺は乙女ゲームには全くこれっぽっちも登場シーンのないモブ中のモブだ。
だから、関わる気はなかった。
なかったのだが、ヒロインの性格がとにかく悪すぎる。
正直言って放置してアレが騒動を起こしたり、万が一にもアレが王妃になったりしたらこの国終わる。マジで終わる。
だって、アレ、どう見てもこの世界を現実だと思っていない。
まるで夢であるかのように振舞っている。
自分以外が人間であることすら認めていない。
ここを本気でゲームの世界だと思っているんだ。
もうね、バカだろとしか思えない。
お前一人の為に世界が存在すると思っているなんて、前世では中学生だったの? いや、中学生に失礼か? と本気で思っている。
え? 俺が枯れてるだけ?
いやいや、俺だってシルヴィア様見られて感激したよ? めっちゃいい女だからな。
クラウディオ第一王子様だってマジで王子様だ! って言いたくなったし。
他の攻略対象者も悪役令嬢も全員キラッキラなんだ。流石メインキャラだと思ったし、実物見られて、しかも思い通りだったことに感動したよ。
でも、この世界が現実であることもまた認めているんだ。
だからさ、ちょっとばかし暗躍をしてみたいと思います。
主に俺の平和な未来の為に。
ヒロインが攻略対象者を攻略するくらいなら俺は介入しなかったんだけどね。
ヒロインの皮を被った何かが周りの迷惑顧みずに自分の欲望だけに忠実になって暴走するなら話は別なのさ。
ゲームの知識があるのはヒロインだけじゃないんだぜ?
ということで何枚も何枚も手紙を書きまくった。
足が付かないように紙は色んな所からくすねたものを使ったし、インクも何種類も混ぜて元のインクが何なのか分からないようにした。
字は利き手でない方で書くことで誤魔化した。
そんなに警戒する必要があるかと言われたらないのかもしれないけど、だって俺モブだしメインキャラ達に関わりたくないじゃん?
俺は平和な世界にさえなればそれで良いのさ。
信用を得る為の手紙やヒロインの本性を見せる為の手紙、悪役令嬢がどれだけ頑張っているか見られる為の手紙、君らの立場の危うさを理解してもらう為の手紙等々。
モブがするにしてはいい仕事じゃないだろうかと自己評価を下す。
さてさて、後は結果を御覧じろ、だ。
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