第7話 ブレインサッカー:クィーン
バーンナウトが意識を取り戻すと、焼け焦げたベランダでへたり込んでいた。至近距離で自分が起こした爆発の衝撃のダメージというよりも、R-18Gな衝撃映像で精神がマヒしていたというのが本当の所だろう。
「おい、嬢ちゃん。しっかりしなぁ!」
そう言われてようやく自分を囲んで立つゴブリンメイツたちに気が付く。
「ど。あ。え」
自分でも何を言っているのかわからない言葉が口を突いて出る。立ち上がったときには大体の状況がつかめていた。自分たちが追っていたのであろうネフィリム、ブレインサッカーと思しき大型の蜘蛛。その群れをゴブリンメイツたちがスタンバトンで食い止めていた。そして、その奥で。直径1メートルほどの胴体から、太く長い脚が伸びゆっくりと立ち上がろうとするブレインサッカーの親玉。いうなれば。
「ブレインサッカーの女王?」
「ヒヒヒ、ガワは蜘蛛なのに正体は蟻ってなぁ!」
「とっとと焼き切ってくんなぁ、バーンナウト!」
「ちと俺の得物じゃとどかねえからよぉ!」
畳みかけるように続けられる同一人物からの叱咤という別方向で悪夢じみた状況ではあったが、気付けには役に立ったらしい。バーンナウトは叫びとともに能力を解放した。
「燃ぉえぇろおおおおおおおおおおお!!!」
床をなめるように走った炎が敵の足元で噴き上がり火柱と化す。タンパク質の燃える悪臭と熱気がマンションのリビングに立ち込め、ビル風と共に抜けていく。
その炎を貫いて、クイーンの脚がバーンナウトに伸びる。その杭じみた爪先がバーンナウトに突き刺さる寸前、横合いからバーンナウトの首に絡みついた黄色いタオルが力任せに引き倒した。
なすすべもなく床に叩きつけられた少女の体に再度クィーンの爪が伸びるが、スタンバトンがそれを阻む。紫電が走り、巨体をわずかにひるませる。
「ヒヒヒ、どうだぁ?おいらの得物の味はぁ……」
「痺れるだろぅ……?違法改造品だからなあ……」
「オラッ!どうだ!?突っ込まれて声も出ねえか!」
「ヒヒヒ、そろそろぶっこんでやるかぁ……?」
サラウンドでかけられる揶揄。一つ一つの威力は弱くとも、完全に連携された5人のスタンバトンの攻撃は、巨大なネフィリムの動きを完全に封じていた。
とはいえ永遠に持つものではない。何よりバトンのバッテリーには限りがあるのだろう、ほとばしる電光が目に見えて弱まっている。急がなければならない。床に叩きつけられた痛みを怒りに転化して、頭を振って起き上がる。
「いい加減!死ねよ!バケモノ!!」
突き出した両手からほとばしる炎の槍が、ゴブリンメイツの間を抜けてクィーンの巨体に突き刺さる。炎で包んだところで外骨格を抜けないのはわかっていた。だから一点に集中させる。沸騰した体液が内側から外骨格にひびを入れた。そこに。
「ヒヒヒ!オラよぉ!!」
ゴブリンメイツのスタンバトンが刺さる。バッテリーが限界なのか、もう放電はしない。だが。
「これで、とどめ!!」
2射目の炎の槍がスタンバトンに突き刺さる。もう電気の残っていないスタンバトン。だが、バッテリーとはすなわち密閉金属容器であり、密閉容器を高熱で炙ればどうなるか。
すなわち、内部から弾ける。
パァン!という炸裂音とともにグリップが爆発し、その勢いで端子がより深く刺さる。一緒に炎も流し込まれたか、外骨格に大穴が空いていた。神経節による反射であろうか、よろよろとバランスをとるように動き……力尽きたかその胴体を床に落として動かなくなった。
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