第6話 エクスプロージョン
二人の聞き込みの結果入った情報はいくつかあった。窓の外をよぎる謎の影、部屋のない壁の向こうの物音、ベランダの妙な傷、人がいないはずの部屋からの物音と悪臭。ネフィリムの根城が、最初の現場からほど近いマンションの一室にあることはほどなく判明した。
「なんでこんな怪しい場所みんなほおっておいてるのさあ……。空き部屋になんかいたらヤバヤバのヤバじゃん。ボクならすぐ管理者に連絡するよ……」
「ヒヒヒ、意外とみんな『誰かがやるだろう』ってほっとくもんさぁ……」
「うあー!そんなこと言われるとボクも結局通報しない気がしてきたー!」
「意外と自分が見えてるなぁ……ヒヒヒ」
マンションの無機質な廊下を歩く。ヤクザに管理される物件である。後ろ暗い人間でも借りられる。裏ビデオの撮影もできる。ドラッグパーティも開ける。住人同士が詮索するようなこともない。そういった類のマンション。自然とゴブリンメイツが先を歩き、おっかなびっくりバーンナウトがついていくという図式になる。
「ていうかオジサン、ヤクザのマンションとか怖くないの?」
「ヒヒヒ、ヤクザにしたってネフィリムには出ていってほしいからなあ。それならオーダーの方がまだマシってもんさぁ……見つけたところでガーデンに通報するしかねえしなぁ……っと、ついたぜぇ」
一つの、何の変哲もない扉。だがその向こうからかすかに動物的な異臭が漂ってきていた。
「この部屋に……」
「ああそうさぁ……ヒヒヒ」
流石に騒ぎ立てず息をのむバーンナウト。そして、ゴブリンメイツはおもむろに分身を出し――その場に1体置いて踵を返した。
「うおいっ!?何してんの!?」
唐突な行動に驚きつつも追いすがりながらゴブリンメイツに問いただす。
「ん?言ってなかったか?ヒヒヒ、ここには見張りを置いて上の階の部屋通ってベランダから侵入するんだよぉ……」
「え?なんでそんなめんどいことを?」
「ヒヒヒ、あいつらにとっては俺達と戦う理由なんかないからさぁ……」
「ええっ!?でも襲いかかられた反撃するでしょ?」
「いやぁ?あいつらには逃げるって選択肢があるんだよぉ……ヒヒヒ」
「あっ……」
「だから、廊下側のドアをふさいで上からベランダに侵入するわけさぁ……」
「なるほどー……ってここ5階だよね!?その上は6階だよね!?ベランダから行くの!?」
「ヒヒヒ、上の部屋の鍵はもう借りてあるぜぇ……。そして人一人降ろすぐらいの力仕事なら、3人もいれば十分さぁ……。」
「て、手回しがいい……」
「どんな仕事でも、結局は段取りが大事ってことだぜぇ、覚えておくんだなお嬢ちゃん。ヒヒヒ」
目的の部屋の上の部屋、そのベランダに二人は来ていた。もとより空き部屋だったらしく、鍵を簡単に借りられたのもそのせいだろうとはゴブリンメイツの言だった。
そのゴブリンメイツは既に五人に増えている。先行して降りるゴブリンメイツの腰にはロープが巻かれていた。同様のロープはバーンナウトの腰にも巻かれており、ゴブリンメイツの後追いで降ろされるという手はずになっている、のだが。
「ボク、ラぺリングなんてしたことないんだけど……」
「ヒヒヒ、そいつぁ俺も同じさぁ……まぁ技術なんていらねぇよ。上の俺達が上げ下げするだけだからなぁ」
「あと、ロープががっちり堅結びなんだけど、これほどけるの?」
「焼き切っちめぇなよ、経費で落ちるさぁ。ヒヒヒ、どうせホームセンターで売ってる程度の代物だからなぁ……」
「超能力者が怪物と戦うにあたってホームセンターで道具買ってくるとか微妙にせこくない?」
「現実ってのは大体においてせこいもんさぁ……ヒヒヒ。じゃあ先に行ってくるぜぇ……」
幾度か経験があるのか、手慣れた様子で手すりを乗り越えて下に向かう。ベランダの手がかりを掴みボルダリングの要領で降りているので、あくまでロープは命綱でしかないのだろう。それはそれとしてこのゴブリンめいた中年男性がなんでベランダ経由の上り下りに手慣れているのか、ちょっと問いただしたくはあったが。ともあれあっさりとその姿が階下に消え――次の瞬間、ガラスの割れる音が大きく響いた。
「何っ!?何々!?何があったの!?」
音に驚き慌てふためくバーンナウトに、即座にゴブリンメイツたちが殺到した。
「嬢ちゃん悪い!見つけ次第ぶっ飛ばせ!!」
「うひゃひっ!?」
二人のゴブリンメイツがバーンナウトを担いでベランダから放り捨てる。残り二人が命綱をもって踏ん張る。
空中に投げ出され落下するバーンナウトが目にしたのは、人間の生首ほどの胴体を持つ蜘蛛の群れがベランダからあふれようとしていたところだった。
「~~~~~~~~~~~~~~っ!?!??!!!!!」
声にならない絶叫。
空中に投げ出された浮遊感。
耳に管を突きさされているゴブリンメイツ。
大量の虫から感じる嫌悪感。
危機感、死の予感、生存本能。
そういった諸々が、ベランダを丸ごと吹っ飛ばす、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます