第5話 J&T所属、本衣のり子

「ヒヒヒ、だいぶ絞れてきたなぁ……」

「……あー」

 自動車の中で手帳に書き込みながらゴブリンメイツが呟く、それに応えるように呻いたバーンナウトはデミタス缶のコーヒーを抱えて放心していた。

「ん?どうしたい、お嬢ちゃん?」

「どうしたい、じゃないよ!あれから3時間も歩いて聞きこみ続けてたら疲れ果てるよ!よ!!」

「ヒヒヒ、体力ねえなぁ。体が資本だぜこの仕事……」

「オジサンが体力ありすぎなんだよ!能力使って分身使って一人ローラー作戦しながら休憩なしで3時間聞き込みってどういうこと!?」

「ヒヒヒ、俺もこの仕事長いからなぁ……。ネフィリム相手の戦闘が得意じゃない分この手の調べものは張り切らんとなぁ」

「……戦闘、得意じゃないの?」

「能力が火力に直結しないからなぁ……ヒヒヒ」

「それじゃもしかして、ネフィリムとやり合うのはボクがメイン!?」

「ヒヒヒ、そうなるぜぇ……」

 笑いの皴を深くしてゴブリンメイツは問いかけた。

「んで、お嬢ちゃんは発火能力イグニッションバーストとは聞いてるけども、何が得意なんだぁ?得物?素手?銃?」

「どれも使えないよ!ボクが訓練受けたのは特性能力一本だよ……」

「歩き方がまるで素人だと思ったら、やっぱりかぁ……。ヒヒヒ、まあ食い止めるぐらいはやってやるから火力は頼んだぜぇ……」

「歩き方が素人って……いやちょっと待って!?歩き方で強さわかるって、漫画に出てくる達人の部類じゃない!?」

 驚くバーンナウトに何事もないかのようにゴブリンメイツは答えた。

「慣れてくるとな、何となーくわかってくるもんさぁ……ガーデンは特にそのあたりが極端に出てくるからチッとは気を付けてみてみるといいぜぇ……ヒヒヒ」

「えー……たしかに歩き方とか姿勢でダンスのキレがわかることあるけどさあ……」

「……ダンス?」

 唐突な単語に今度はゴブリンメイツが戸惑いを見せた。

「うん、こうアイドルがMCとか配信とかしてるときでも姿勢がシュピーンってできる子はダンスもできるし尊い。ずっと見てたい。アイドルだけ見て生きていたい」

「……アイドル好きなのか」

「あっ!でもなんかJ&Tプロダクションのアイドルはなんか違う気がするな?姿勢とか空気とかがシュピーンってしててもダンス慣れてない感じの子がいる……。というかあんまりアイドルに本気じゃない子が多い気がする。こう、いかにも副業って感じがでてる。でも顔がいい、尊みが秀吉、本衣のり子ちゃん、かなり推せるな?なんか魂が推せと言ってる気がする。シャクラちゃんと同じ空気を感じる」

「……その話、長くなるかぁ?」

「うあー!!ごめん!アイドルオタクだからどうしても語れる機会があると語りたくなっちゃうんだよ!!許して!!ガーデンオーダーっていう命がキツイ仕事をするにはアイドル成分補給しないとやってけないよ!!雑魚メンタルだから!!」

「いや、うん。まあアイドルの話すると早口になるのはよくわかったぜぇ……」

 豹変というか、なんというか。触れるべきでない話題と判断したか、ゴブリンメイツから下卑た笑いが消えていた。

「とまれ……そろそろ鉄火場だぁ……覚悟キメておくんだなぁ……」

「うわー!!ネフィリムは嫌だあああああ!!!」

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