第3話 ハンドルネーム、シャクラ

「で、これが痕跡?」

「ヒヒヒ、これだけじゃねえけどなぁ」

 ゴブリンメイツが室外機の上から拾ってきたのは、干涸らびた動物の組織片らしき物だった。ビニールの小袋越しに眺めながらバーンナウトが訝しげな視線を送る。

「で、なんなのこれ?」

 問いかけられたゴブリンメイツは車をガーデン支部に向けながら答えた。

「ちゃんと解析かけなきゃ確かとは言えないが……俺の見立てが当たってりゃ、脳の破片だな」

「アヒィ!?」

 奇矯な悲鳴と共に思わず放り出されたソレを、ゴブリンメイツが空中でつかみ胸ポケットにしまう。狭い車内でなるたけゴブリンメイツから遠のきつつ、バーンナウトがわめき立てる。

「なななな何でそんなもん拾うのさあ!?」

「ヒヒヒ、質問が違うぜ嬢ちゃん。何で回収したのか?じゃねえんだ。何で高さ3メートルはある室外機の上にあったのか?を気にしねえとな……」

「それは……なんでだろ」

 無視できない疑問に幾分か冷静になったのか、バーンナウトが声のトーンを落とす。

「警察の鑑識ってのは優秀だ。多少変わった特技をもってる素人のガーデン隊員なんかとはノウハウも人員もまるで違う。ヒヒヒ、本来なら俺が見つけられるようなもんは見逃さねえんだよ」

「でもオジサン見つけたじゃん」

「ヒヒヒ、だからこそさぁ。鑑識が本来調べるような人間の通り道には痕跡がねえだろうとアタリがついた。だから、高いところに目をつけたってだけさぁ……」

「お、おおー……」

「ヒヒヒ、ちったあ見直したかい?」

「オジサン意外とベテランっぽい!ただの不審人物じゃなかったんだ!?」

「ヒヒヒ、手厳しいねぇ……」

「でも追跡能力のある不審人物ってよけいヤバヤバのヤバな気がする!痕跡を見逃さずヒタヒタと追ってくる緑肌の集団めっちゃ怖!」

「ヒヒヒ、ちょっとは黙ること覚えた方がいいぞ?」

 そろそろゴブリンメイツの声音に苛立ちが混じってきているのに気が付いているのかいないのか、バーンナウトはそのまま続ける。

「あ、でもそうなると、犯人というかネフィリムは普通に路上を歩いてないことになるな?飛んでる?」

「ヒヒ、可能性はあるなぁ。他には壁を這いずる能力があるか、宙に浮いて移動するか、そんなとこかねぇ。壁に何か軽い爪痕みたいなものもいくつか見つけたから壁を歩いてると俺ぁ見てるが……」

「ん~~、でもどっちにしろ高所移動するネフィリムだとボクとオジサンじゃ追いかけようがなくない?今からでも風候操作ウェザーキャストの人回してもらう?」

「ヒヒヒ、それもいいがガーデンはいつだって人手不足だからなぁ。俺達でもできそうなことというと、奴さんのヤサを見つけて逃げる前にるってあたりかねぇ……」

「ヤサって言っても、どうすんの?脳みそ吸ってまわる見た目が不明のネフィリム見ませんでしたか?って聞いてもさあ」

「そうさなぁ……とりあえず俺は近辺で変な鳥か壁を動くものがいなかったか聞き込みに回るかね」

 緑肌の不審な中年男性が聞き込みに回って話が聞けるのか?とバーンナウトの頭に疑問がよぎったが、その辺は分身能力の手数で補うのだろうと勝手に納得する。

「んー、じゃあボクはネットで聞きこんでみるかなあ」

「ヒヒヒ、アカウント炎上させてるとか言ってなかったかぁ?」

「ボクだってネットに敵しかないわけじゃないよ!よ!!!」

「ヒヒヒ、まあ頑張んな。ネットの聞き込みも馬鹿になんねえところあるしなぁ」

 ゴブリンメイツの卑屈な、だが揶揄するような笑いが車内に響いた。


 ――30分後、SNS上。

 バーンナウトは鮫アイコンのアカウントとやり取りをしていた。


のべる<[ってことがあったんだよ!ひどくない!?]


                     [妥当な扱いだと思いまス]>シャクラ


のべる<[シャクラちゃんまで!?]


                 [今もこうして機密漏洩してまスし]>シャクラ


のべる<[シャクラちゃんだけとのL●NEだし漏洩じゃないよ!]


               [まずもってアタシが部外者なんデスが]>シャクラ


のべる<[ボクの友達だから大丈夫!!]


                        [友達でシタっけ?]>シャクラ


のべる<[ひどっ!自慢じゃないけどメンタルの弱さには自信があるんだぞ!]


    [まあそれはいいんデスけども、ブレインサッカーでしタっけ?]>シャクラ


のべる<[ボクの扱い軽っ!?]


          [それって被害者ほんとに一人だけなんデスかね?]>シャクラ


のべる<[一人しか聞いてないけど?他にいたらその現場も回るだろうし]


                 [外傷はほとんどないんデスよね?]>シャクラ


のべる<[うん。写真見せてもらったけど耳の穴も調べないと分かんないね、アレ]


    [てことは、家で老人が孤独死とかしてたらカウントされない?]>シャクラ


のべる<[え?いくらなんでもそれはなくない?警察調べない?]


  [死体がデロデロになってから見つかるケースは結構あるそうデスよ]>シャクラ


のべる<[え、じゃあ今回がたまたま不審死で検死されただけで……]


               [見過ごされていた可能性はありマスね]>シャクラ


          [死体そのものが見つかってないケースもあるカも]>シャクラ


のべる<[ちょ!それヤバヤバじゃん!ごめんちょっと確かめてみる!]


                           [いってらー]>シャクラ

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