第2話 仮称:ブレインサッカー

 ブリーフィングルームで息を荒げるバーンナウトに目をやったままゴブリンメイツがパースエイダーに問いかけた。

「で、俺っち達が取り掛かる任務の話だがよ」

「ええ、それではこちらをご覧ください」

 パースエイダーがタブレットを軽く叩くと、照明が落ち白い壁に画面が投影された。画面の中に映し出されたのは、一見無傷の、女性の死体だった。警察の現場検証写真らしく、死体を囲う白線や遺留品の場所を示すプレートなどが置かれている。

「警察が死体のガラを抑えてんのか?」

「ええ、ですが人間には不可能と思われる殺され方の死体でした」

「ヒヒヒ、おっかねえなあ……」

「え、人間には不可能な殺され方って?」

 ようやく落ち着いたのか話を聞く体勢に入ったバーンナウト。一拍置いてパースエイダーは答えた。

「死体からは脳が無くなっていました」

「ヒィッ!?」

 身を抱えてすくみ上るバーンナウト。それとは対照的に卑屈な笑みを崩さずゴブリンメイツは問い返した。

「ヒヒ、外傷はないのかい?」

「検死の結果、右の耳の穴から何かの管のようなものを差し込まれ、脳を吸い出されたと推測されています。その耳に付着していた体液から未知の生物のDNAが検出されました。これもケースNネフィリム絡みと判断された理由の一つです」

「なるほどなるほど、そりゃあウチの仕事だな。ヒヒヒ」

「ええ、とは言え被害者の周辺情報や他にも同様の事件が起きた場合の対応やこちらへのは警察が行います。お二人にはまず現場から当たれる証拠を当たっていただこうかと」

「ま、そうなるか。ガーデンはいつだって人手不足だしなあ」

「では改めて、事件の犯人を仮にブレインサッカーと命名します。タイプ、ランク共に不明です。お二人の任務はこの事件の調査、ネフィリムの仕業であれば早急な対処です」

「ヒヒヒ、ゴブリンメイツ、了解した」

「あっ、バーンナウト、了解しました!」


「いかにもって場所だな、ヒヒヒ」

「うう~、なんでこんなところで死んでるんだよう。もっときれいなところで死んでればいいのに……」

 オフィス街と歓楽街が入り混じり始める境目。そんな場所にあるビルの谷間。テープで封鎖されているその場所には見張りの警官がいたが、ガーデンのバッヂケースを見せると二つ返事で中に通された。(さすがにゴブリンメイツの姿には驚いていたようだったが、あらかじめ聞いていたのか口には出さなかった)近くのゴミ箱に生ごみが残っているのかすえた匂いが鼻につく。死体はすでに回収されてはいたが、死体の位置を示す白線だけは残されていた。

「今更ボクらがここ見て回っても意味なくない?警察の人が見たんでしょ?」

「なあに、捜査ってのは人の犯罪でもネフィリムの捕食でも現場百回に勝るもんはねえのさ」

「そうは言ってもさあ。ボクの特性能力、発火能力イグニッションバーストだよ?捜査に使えないじゃん。それともオジサンはなんかこういうの得意な能力なの?」

「ヒヒ、俺っちの特性能力はちとレアな系統外能力でね。同一存在コピーペーストって言うんだが……」

 いうなり、ゴブリンメイツの姿が重なってぶれたように見えた。そして重なった幻影が独立して歩きだし、周囲の捜索を始めた。

「ヒヒヒ、こうやって分身を作る程度の能力だが、人手が必要な仕事には便利なのさ……」

「うわあ……」

 6人に増えた緑肌の背の低い中年男性が路地裏を漁り捜索する。その光景に、なるほどコールサインがゴブリンメイツゴブリンの集団となるわけだ。

 そうバーンナウトが納得したところで当のゴブリンメイツから声を掛けられた。

「嬢ちゃん、悪いがこの辺照らしてくんねえかい?」

「え?うん」

 分身の肩の上に乗った分身が指さすところにふわりと火球を向かわせる。後付けエアコン室外機の上を覗いているようだが。

「ヒヒヒ、どうやらコイツかな」

 スマホで画像を取りながら、ゴブリンメイツは笑う。

 まるで、獲物を見つけたかのように。

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