ブレインサッカーとゴブリンメイツ

@seidou_system

第1話 コールサインはバーンナウト

「良く来てくれました、虹鳥にじどりのべるさん。あなたにオーダーとしての初任務があります」

 東京の秋葉原には商業ビルに偽装された国連組織『ガーデン』の支部がある。その支部内の一室、ブリーフィングルームに呼び出された少女に、関東支部長であるコールサイン『パースエイダー』はそう告げた。

「え?あ!は、はい!ボクがんばります!」

 緊張のせいかどこかピントのズレた返答をする少女。その頭髪は根元から鮮やかなマゼンダで染色などではないことをうかがわせる。事実、これが彼女のスペックカラーであった。


 第二次大戦末期、人間同士の泥沼の戦争をしていた地球に、突如人食いの怪物が現れた。

 各地の神話から抜け出て来たかのような異形と、戦車に比肩しうる戦闘力、そして何よりその神出鬼没さ。その対処に手を取られ……戦争はなし崩しに終戦を迎えた。

 『ネフィリム』というその化け物を倒すには一区画を丸ごと吹き飛ばすような火力戦が必要とされていたが、ある時魔法のような能力を使う人間が現れ、あろうことか僅か数人でネフィリムを打ち倒した。

 肉体に特殊な『スペックカラー』を持ち、『特性能力』と呼ばれる超能力を揮う新人類。彼らは偏性異能特性体、Obligate Rarity Differential Extra-Race.その頭文字をとって『オーダー』と呼ばれることになった。

 その能力故に苛烈な差別の対象となったオーダー達を保護し、ネフィリムへの対策とする組織が国連によって組織される。Genetic Ability Response Department of Eliminated Nephilim.通称『ガーデン』。

 この物語は、異能をもって人類の敵と戦うガーデンオーダー楽園の守護騎士の物語である。


「で、あの!ボクに初任務ということですけど何をすれば……」

「そうですね。任務の内容の前に、まず連絡事項が二つ。任務にはバディを組んで当たっていただきます。あなたは新人なのでOJTを行います。彼の指示に従ってくださいね」

「はい!で、えっと……そのバディの人って……」

「装備課に預けていた武器を回収してからくると言ってましたが……」

 パースエイダーが言いかけたまさにその時、扉が開いて男が入ってきた。

 背の低い、やせ型の中年男性。草臥れたオーダージャケットに黄色いタオルを首にかけ、ひげの濃い顔には卑屈でいやらしい笑みが浮かんでいる。そして何より目を引くのがその灰緑色の肌の色、全身に及ぶスペックカラーが与える印象は。

「ひいっ!?ゴブリン!?」

 端的に言ってそれであった。ゲームとかアニメとか薄い本に出てきそうないかにもな印象であった。

「ヒヒヒ、こいつはずいぶんなご挨拶だ……」

「ちょうどいいところに来ましたね。コールサイン:ゴブリンメイツ」

「ヒヒ、ゴブリンメイツ着任しましたよ、と。で、こっちのおっぱいのでかい女子中学生が新しいバディですかい」

 好色そうな視線を隠しもしないゴブリンメイツと呼ばれた男に対し、のべるは迷わずパースエイダーの後ろに隠れていた。

「ボ、ボクは中学生じゃないぞ!19歳だ!それ以上近づくと炎上させるぞホントだぞ!」

 すっかり逃げ腰になりつつ掲げた手に火球を生み出すのべるをパースエイダーが窘めた。

「落ち着いてください。彼はネフィリムじゃありません。あれでもオーダーです」

「ヒヒヒ。パースエイダー、アンタも大概失礼だな……」

「さて、当面の間は彼がバディというが連絡事項の片方です。そしてもう片方なのですが、虹鳥さんのコールサイン候補がいくつか出ましたのでこの中から選んでいただきます」

 本来ガーデン内部では本名を使用することは避けられ、コールサインでの呼称が推奨される。これはネフィリムに対する先兵として軍に準じた組織であるから、というわけではなく、任務中に漏らした名前から個人情報が漏れることを少なくするための措置であった。ガーデン発足から10年。まだまだオーダーに対する世間の目は厳しい。隙あらばバケモノに鉄槌を下したいという悪感情は払しょくできたわけではないのだ。

「おおっ!ボクにもついにコールサインが!どんな感じになったの?」

「まず第一候補ですが『本能寺』です」

「おいいぃぃぃい!?」

「第二候補は『比叡山』になります」

「まってまってまって!?何その言葉のチョイス!?コールサインってふつー能力にちなんだものになるんじゃないの!?ボク発火能力イグニッションバーストなのになんで地名!?」

「ええ、炎上した場所で有名なので」

「そこ!?」

「SNSアカウントもよく炎上されてますし」

「ちょっとお!?」

 ヒートアップする話にゴブリンメイツが口をはさんだ。

「なんだ嬢ちゃん、ネット炎上してるのか。住所とかばらしてないだろうな」

「してないよ!アカウントが4つ凍結されただけだよ!」

「はっ、炎上というよりBANされたって感じだな。じゃあコールサインはBANOUTバーンナウトってのはどうだ」

「酷っ!?初対面の人間にそこまで言う!?」

 騒ぎ続けるのべるにパースエイダーがタブレットを見たまま声をかける。

「……ああ、いいですねそれ。検索かけましたが被ってるオーダーはいません」

「それ通しちゃうの!?」

「通らなければ本能寺か比叡山ですが」

「いじめか!?いじめなのか!?ああもうじゃあそれでいいよ、もう!!」

「では本能寺で申請出しておきますね」

バーンナウト燃え尽きたの方だよ!!よ!!!」

 こうして、新たなオーダーがネフィリムとの戦いに身を投じることになったのであった。

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