幕間「自分の運命は自分でコントロールすべきだ。さもないと、誰かにコントロールされてしまう」

この記事は、ベーゼンGMが開催されているソードワールド2.5、キャンペーンシナリオ『リバティハーツ』の関連記事となります。


◆幕間って?

セッションとセッションの間、PC達が何をしていたのかを書き表した、ちょっとした小説のようなものになっています。今回は私、とたけのPC『アルボ・レガーロ』の幕間。タイミングは第一話と第二話の間で、第一話の冒険が終わった直後の話となります。


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ゆらゆらと蝋燭の灯が、夜の風に揺れる。

大三角トライアングル”の一階、心地よい夜の静けさが漂う談話室に、アルボ・レガーロは一人で居た。深く椅子に腰かけたアルボは、部屋の片隅に置かれた机に向かい、何やら神妙な面持ちで羽ペンを動かす。


「なーにしてんすか? 旦那」


不意に黒い影がアルボを覆う、振り向けば暖炉と蝋燭の光を遮るようにして、背の高い──いや、ケンタウロスにしては背の低いといった方がいいのか?──イグアスが興味深げに覗き込んでいたのだった。


「む、まだ起きていたのか」

「まだって……俺はそこまで子どもじゃないっすよ」


そういうイグアスは片手に大きなジョッキを掲げてみせる。ついうっかり忘れかけるが、ケンタウロスは10歳を過ぎれば一人の戦士として戦場に立たされるという。齢十二ともなれば、立派な一人の大人として見るべきなのかもしれないが、この人当たりの良さと、彼の言動を見るとつい子どもとして扱ってしまうのだった。


「それはすまないな。いやなに、“帳簿”をつけていただけだ」

「帳簿? そんなん普段からつけてましたっけ」

「あぁ、普段はもっと遅い時間につけているからな。そういえば見せたことはなかったか……」


そういい、アルボはイグアスに手帳をぱらぱらとめくって見せる。

そこには、小さな文字でびっしりと、日頃起きた出来事や主要な取引先、はたまた人間関係までが詳細に書き込まれていた。


「うっわ、こんなん毎日つけてんすか!? マメっすねぇ……」

「そうでもない。イグアスだって武器の手入れは毎日するだろう?

 私にとっての武器が帳簿これというだけさ」


なるほど、といった表情で頷くイグアスを見上げつつ、アルボはつい先日のことを思い返していた。


「……そういえば、このまえのサキュバス、確か名をクルクマとか言ったか」

「えっ、そうっすけど突然どうしたんすか、旦那?」

「いやなに。イグアス、お前別にあのクルクマとかいうサキュバスのこと、毛嫌いしているわけではないのだろう?」


突然降って湧いた言葉に虚をつかれつつも、イグアスは

「まぁ出会ったら即殺しあうって仲じゃぁないスけど……な、なんすか?」

「この前は“ああいう形”で出会ってしまったから止むを得なんだが……本来は話し合って然るべきだったろう。

 イグアスとクルクマが知り合いだったと知らなかったとはいえ、戦うことになってしまったのは悪いことをしたと────」

「だ、旦那ァ? なんか妙な勘違いしてないっすか??」

「いや、皆まで言わずともわかる。

 そも、相手がお前に好意を抱き、それを伝えに来たのにだ、こちらはそれを一方的に追い返してしまった。

 仮にもガメル神官、商人のはしくれとしても礼を欠いた対応だったと────」

「旦那ッ! ストップ、ストップっす!!」

「なんだ?」


むっとした表情で再びイグアスを見上げる。

頭上のイグアスは困惑した様子で

「あのっすね、あれは何つーか……そう! 

 いつもの挨拶みたいなもんで、別に旦那が気に病むようなことじゃ────」

「あれがいつもの挨拶だとしたら、なおのこと問題があるだろう。

 ラッヘや私、グレイスがお前たちの挨拶に介入してしまったのだからな」

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

アルボは腕を組み、思案顔でこう続ける

「であるならば、菓子折りでももって一度ちゃんと挨拶に向かった方が……」

「いやいやいや、そんなことしたら余計に相手が勘違いするっつーの!

 いいんすよ旦那がそんなところまで気ィ回さなくたって!!」

「そうはいかん、私とお前は種族は違えど、商人として契約を交わした間柄だ。

 “約束を破るべからず。約束を守るべく、全力を尽くすべし”だ」

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

ガメル神の格言を引用しつつ、アルボは深くため息をつく。

「それに、だ。

 商人としても、神官としてもまずは話し合いの場を設けるのが正解なのだ。

 サキュバスとコネをもつ商人なんて、他にそうそういないだろうからな」

イグアスはその言葉に目を細め、

「……もしかして、オレ通じてクルクマとコネ持ちたいと思ってたりするっす?」

「そのとおりだが?

 あぁ、安心しろ。お前とクルクマの恋路を邪魔したりなどしない。

 他人の恋路を邪魔するやつはケンタウロスに蹴られると言うしな。むしろ応援していると思って貰っていい。

 それに、サキュバスとコネを持てれば新たな販路獲得に、新しい商売が見いだせるかもしれな────」

「いやなんも安心できねぇんですけど!?

 っていうかオレの気持ちは!?」

「“約束を破るべからず。約束を守るべく、全力を尽くすべし”

 私もお前の恋路に協力するのだ、お前も私の商売に協力しても、ばちは当たらんだろう?」

「ひ、人の話を聞いちゃいねぇ……」

「ふむ、馬の耳に念仏というやつか?」

「どっちかってーと馬耳東風って感じっすね」


言葉の応酬、いや殴り合いが一段落し、再び夜のここちよい静けさが談話室に戻る。


「……まぁ、ともかくだ。縁は価値、価値は力だ。

 それは人も蛮族も変わらんだろう?

 お前がどう思ってるかは知らないが……こんなとこまで追いかけて来てくれる奴は、そうそういないさ」

「旦那……」

「あとは若い奴に任せるさ、────じゃあコネの件よろしく」

そう言い残し、アルボは帳簿を懐にしまい、後ろ手を振りながら談話室から出ていった。


「……なんかいい話風に纏めてったけど、これオレ丸め込まれてね……?」

一人残されたイグアスは、握りしめた大ジョッキを勢いよく飲み干したのだった。


=====================================================登場人物:アルボ・レガーロ

     イグアス・ザルツォルガル

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