第9話

「時にくーちゃん、ゴールデンウィークのご予定は何か?」


 五月を来週に控え、初夏の匂いを感じ始めたある日のことです。暖かな陽光にふらふらと誘われた私と牡丹さんら二人で、お外ランチと洒落込んでおりました。中庭のベンチで隣り合いながらのお弁当です。


「何日かは部活で学校に来る予定はありますが、それ以外の予定はないです」

「そうかそうか」


 牡丹さんはうむうむと顎に手を当てて何かを思案しているご様子。さらさらの黒髪が羨ましいなあ、まるで絵画のような横顔だけれどご飯粒がほっぺたに付いているのが惜しいなあ、などと私は考えておりました。


「では、一日ほど僕のために時間を空けてもらうことは可能だろうか」


 こちらに向き直り、牡丹さんは私にお願いをされました。お願いをされたと言いましても、彼女の背筋はピンと伸び、私に向ける瞳には自信のようなものが滲み出ているようです。まさに威風堂々。通常、人に頼み事をする際には申し訳ない様子を見せると思うのですが、そんな常識は牡丹さんには必要ないのでしょう。

 そして、考えるまでもなく私の答えは決まっておりました。


「もちろんです!」


 もともと予定もありませんでしたしね。


 ※※※


「ううむ」


 正に光陰矢の如し。毎晩のように唸っている間に時間は過ぎ、牡丹さんとの約束を明日に控えました。華の女子高生といえば悩み多きもの。受験がどうだ、部活をどうしようかなどと先日まで悩み続け、さらにいえば月末には中間考査が待ち受けていることも悩みの種でございます。いいえ、受験を終えてから園芸部にうつつを抜かしている私です。お勉強に関してのお悩みはもはや種ではなくとうの昔に発芽していて然るべきでしょう。そして私の高校生活は大樹と相成ったそれを登り続けるに違いがありません。

 しかし、先の悩みに一喜一憂するのも不健全に思うこの私。私が今現在に頭を悩ます問題はそれらとは別にありました。


「牡丹さんからのお誘いは果たしてデートと認識してもよいものか」


 牡丹さんのお誘いはショッピングモールで一緒にお買い物をしましょうというものでした。お友達同士ならば、なんら不思議はないお誘いであることは重々承知しております。しかしいくら牡丹さんが私のエルダー担当だったとして、後輩の私を誘うものでしょうか。同学年のお友達や、幼馴染みの百合子さんを誘うのが正道というものでしょう。


「わざわざ私を誘ってくださることには意味がある?」


 幾たびも「ううむ」と唸って参りましたが結局答えは出ないままに私は眠りにつくのです。しかし私は夜中に何度も目を覚まし、明日のコーディネートをやり直すのでありました。

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