マジで恋する5分前

関口 ジュリエッタ

第1話マジで告白する5分前

 風が肌寒く感じる秋の時期。

 見た目も頭脳も全て凡人であるこの俺、早見直生はやみなおきは高校帰りリビングで気楽にテレビを見ていると、シャワーを浴び終わった早見美智瑠はやみみちるがタンクトップとショートパンツのラフな衣装でリビングに入ってきた。

 艶にある黒髪のショートヘアーに顔も整ってスタイル抜群の

 そんな妹が露出の多いラフな格好を俺の前でさらけけ出されると直視できない。


「なっ! もうちょっと肌が見えない服装で来いよ!」

「だって、こっちの方が動きやすいんだもん――なに見とれた?」


 ニヤリと不適な笑みを見せる美智瑠に思わず目を背けてしまう。


「妹の身体を見てもピクリともしないわ!」

「変態」

「どうして変態扱いされるんだ。別に俺は変なこと言っていないぞ!」

「あっそ」


 俺に冷たい一言を告げてリビングから出て行った。

 美智瑠がいなくった瞬間張り裂けそうだった心臓が正常に戻った。

 実の所、俺は妹の美智瑠を一人の女性として見ている。

 中学生あたりから成長する美智瑠を意識し出して、いつの間にか俺の頭の中にはいつも美智瑠のことばかり思うようになっていた。

 実の妹に恋心持つのは普通じゃないし、もし兄が妹に恋をしていると気付かれたら嫌われるし、両親からも異常だと思われてしまう、と思った俺は美智瑠とは距離を置くことにしたのだ。

 今みたいに稀に会話することもあるが、心臓が破裂しそうなぐらいに鼓動が速くなり死ぬんじゃないかと思ってもいる。

 やっと一息つけるようになった俺は静かに再放送されているバラエティー番組を見ていた。

 

 日が暮れ、夕食を終えた俺は美智瑠が部屋に戻ったときに両親にあることを訪ねてみることにした。


「なあ、兄妹同士が好きになることについてどう思う?」


 いきなりドストレートしすぎた。両親はお互い口に含んでいたお茶をお互い一斉に吹き出した。


「なっ! 何バカなこと言っているんだおまえは!」

「そうよ。お父さんの言うとおり、心臓が飛び出しそうになったわよ!」


 母親は胸を押さえてせている。ムリもないだろう、いきなり妹に好意を抱いていると相談したら誰もが驚愕きょうがくしてしまう。


「一応言っとくが

「……そうだったのか。すまん勘違いをしてしまった」


 なんだか父親の雰囲気が変わったような気がした。


「そのことについて母さんや父さんはどう思う?」

「う~ん、そもそも兄妹で好きになることなんて普通はあり得ないからな。もしかするとその兄妹はなにか訳ありの兄妹なんじゃないか? 血が繋がった兄妹だったら両親は勿論反対はするだろうな」


 別に訳ありでもないし、ただ一途になっているだけだが、他人から見た視点ではやはり普通じゃないことぐらいはわかった。


「そうだよね。ごめんね、変なこと聞いちゃって。それじゃ、俺部屋に戻るわ」

「――ちょっと待て」


 浮かない気分になりながら落ち込んで部屋に戻ろうとしたとき、父親から呼び止められる。


「何だい父さん?」

「お前に伝えたいことがある」


 黙って再度椅子に腰をかけて父親の話を待つ。


「それで伝えたいことは?」

「美智瑠のことだ」

「お父さんもしかして!?」


 父親の重く閉ざされた口から思いがけない言葉が来た。

 母親はまだ早い、と間を割って入ってきたが、父親はそれを押しのけて俺に伝えてきた。

 一体美智瑠のこととはどういう話なのか俺は生唾を飲みながらジッと父親の言葉を待っていた。


「実はな美智瑠は直生の

「…………えっ? どういうこと!?」


 開いた口が塞がらないとはこういうことだ。

 父親の発言が未だに理解ができない。でも妹が母親から生まれてきたことを今落ち着いて考えると不自然な点がいくつかあった。

 まず、俺の赤子の頃の写真は沢山あるのに、妹である美智瑠の赤子の写真はない。

 それに俺は父親似だが、美智瑠の顔ははっきりいって両親には似ていないし、両親の祖父母達にも似てもいないのだ。


「美智瑠は俺の親友の子だったんだが、ある日、交通事故で親友と奥さんが亡くなって、身内もいない美智瑠を仕方なく私たちが面倒を見ることにしたんだ」

「そうだったんだ……。このこと美智瑠にはいつか報告するのか」

「ああ。いずれ話すつもりだ」

「そうか。大切なことを教えてくれてありがとな母さん、父さん。それじゃ、俺は部屋に戻るよ」


 俺はリビングから出て自室に戻った。

 ベッドの上でマンガ本を横になりながら読んでいると少し小腹が空いたので自宅の近くにあるコンビニに行ってお菓子を買いに出かけた。



 陽も落ちて、虫の囁きもない静かな夜。

 近くのコンビまで薄暗い電灯を頼りに一人寂しく歩いて行くと電柱の陰に人影が見える。

 人影に近づいていくとなんとテーブルに紫の布を敷き椅子に腰を下ろしている黒装束くろしょうぞくの老婆が不気味にたたずんでいた。


 見なかったと思いながら素通りしようとしたとき、

「ちょっと……待ちなさい」


 一瞬全身が鳥肌が立った。

 返事した方が良いか――それともこの場からダッシュして逃走するか考えていると、また不気味な老婆に声を掛けられる。


「あんた恋の病をしているね」

「え……どういうことですか?」


 なんで自分の悩みをわかるのかこの老婆に怪訝けげんに思う。


「こちらの椅子に腰掛けて私の話を聞きなさい」


 シカトして通り過ぎようとは思っていたが、会話してしまったので仕方なく不気味な老婆の相手をすることにした。


「それで話しとは?」

「あんた好意を抱いてはいけない女性が気になっておるだろう」

「はっ、何言っているんだよ。俺はそんなこと思っているわけないだろう!」


 自分の心の中を見透かされている感じがして、とても気持ちが悪くなる。

 いち早くここから立ち去りたいと脳の信号が激しく警告していた。


「別にあんたがどう思うが関係ないが、明日の十二時三十分にあんたが片思いしている女性が他の男性に盗られるぞ」


 胸の辺りがズキン、とナイフで抉られた感じになる。


「あっそ、じゃあ俺は用事があるから」

「――一万円になります」

「はっ!? 金を取るきかよ。ふざけるな!」


 自分に手を差し伸べる老婆に苛立つ、急に話しかけてきて、いきなりお金を請求するのだから。


「私は占い師だから料金を取るのは当たり前だよ」


 勝手に占いされて莫大な料金を取るなんて占い師というよりは詐欺師に近い。

 それに一万円なんて普通持ち歩いていないのに――と渋々財布の中身を開けると、なんと一万円札が入っていたのだ。

 三日前に祖母が遊びに自宅に来たときに、お小遣い一万円を貰ってそのまま財布に入れていたのをすっかり忘れていたのだ。

 もしかするとこの老婆は俺が一万円を持っていたことをテレパシー的な能力で読み取っていたんじゃないかと疑ってしまう。

 もしそれが本当だったらこの詐欺まがいの老婆は間違いなく真の占い師だ。


「……別に払ってもいいけど、まけてくれ」

「あんたを地獄に落とすことだってできるんだよ」

「――わかった。払います」


 老婆の鋭い声にびくついた俺は仕方なく料金を払った。


「まいど。いいかい、最後にもう一度忠告しておくよ。あんたの片思いの女性もあんたのことが好きなんだ。明日の昼の十二時三十分までに自分の思いを伝えなきゃ、他の男に盗られるからね」

「わかったよ」


 俺は一言礼を言ってコンビニには行かずにそのまま来た道を引き返して自宅に戻った。

 大金を盗られて気持ちの半分は落ち込んではいたが、もし占い師の老婆の言うとおり美智瑠が俺のことに好意を抱いていたことを知れたことに半分は感謝もしている。

 明日、妹の美智瑠に自分の思いを伝えよう、と強い意気込みを抱きながら暗い夜道に明るい希望を持ちながら歩いて行ったのだった。



 朝、カーテンの隙間から射す陽に目覚めた俺は、ふと時計に目をやると疑い深い衝撃的な事実に知ってしまう。


「十二時二十分――こうしちゃいられない!!」


 慌てて私服に着替えて急いで自宅を飛びだし学校に向かった。

 自宅から学校までに十五分はかかる。

 運動嫌いな俺の足では、走ったところで十二時三十分までには着かない。

 だが、諦めたくはないと思った俺は奇跡を信じて死に物狂いで走り出す。

 走っている最中、息切れを起こし失速する足を無理にでも動かし自分にカツを入れながら走った。

 まだ距離的に半分も経ってない。

 今は何時か、このまま走り続けば間に合うのか、頭で立て続けに過り、焦りがどんどん湧き上がる。

 大好きな妹を盗られたくない、という不安と恐怖が強くなり瞳から涙が出てきそうにもなる。

 無我夢中むがむちゅうで走ってると学校帰りによく行くコンビニが見えた。

 美智瑠がいる高校まであとわずか。気持ちが高まり今以上に速度を上げようとしたとき、悲劇が起こった。

 急に足が鈍く、走る速度が徐々に遅くなっていく。

 まるで足に鉛を付けて見るみたいな感覚なり、無理に上げようとしても足がいうことを効かない。

 そうなっても無理はない。今まで運動もろくにしてこなかった俺が、自宅までずっと走る速度を落とさず、ここまで走ってきたのだから。

 あと少しのところで大の字に倒れてしまう。

 あと少しなのにと悔しい気持ちに一杯になり半ば諦め欠けていたとき、ふと左手に付けていた腕時計を見た。

 なんと時計の短い針が二十三分になっていた。

 ここから高校近くまで三十分以内に着いていたのだ。

 それを知った俺は急に全身に力が入り火事場の馬鹿力で倒れた身体を起こし、駆け出したのだった。



 何とか五分前に付いた俺は急いでバレー部がいる体育館に向かったが、そこには美智瑠の姿がなかった。

 近くにいたバレー部員に美智瑠がどこにいるか訊ねてみると、体育館の裏に男子バレー部員と一緒に行ったことを告げられた。

 心臓がビクリと跳ねて俺は急いで体育館の裏に向かうと、そこには美智瑠がいた。だが、美智瑠の向かい側には先ほど言っていた男子部員の姿もあった。

 男子部員の声が俺の耳元で聞こえてくる。


「美智瑠さん。俺……あなたのことが」

「――ちょっと待った~!!」


 鉛の付けているかのように重い身体を動かして二人の間に入った。


「あなたは?」

「お兄ちゃん! どうしてここに!?」


 腕時計を見ると時計の針は二十五分を指していた。


「……五分前……間に合った……」


 胸に手を乗せて安堵しようとしたが、まだ気が早いと思いバレー部男子の顔を見た。


「お兄さんには申し訳ないですが、僕と美智瑠さんの邪魔をしないでください」

「悪いがそうはいかない。美智瑠はお前には渡さない」

「ちょっと、お兄ちゃん!」


 妹は慌てて俺の右肘を両手で掴んできた。


「どういうことですか?」


 俺はお腹の底から勢いよく深呼吸をしてバレー部の男子に告げた。



 ついに言った、俺の思いを全て吐き出した。そのおかげで胸のズキズキもなくなり次第に気分も良くなってくる。

 妹とバレー部男子が口を開けるほど驚愕をしてしまう。

 先に俺の返事に答えたのは男子部員だった。


「何言っているんだ! あんた兄貴だろ、妹に好意を抱くなんておかしいだろ、頭がイッているんじゃないか!? 美智瑠さんも何か言ってあげなよ、こんな

「わかった。だけどその前にやらなくちゃいけないことがあるから」


 妹の表情が鬼のような形相でこちらに向かってくる。

 大事な告白を邪魔して怒っているんだろうと思いながら俺は一発殴られるんだろうと思い、歯を食いしばりながら覚悟を決めた。

 すると周りを張り裂けるような美智瑠のビンタが響き渡った。

 だが、俺の頬はビンタの感触をしなかった。

 ゆっくりと閉じたまぶたを開けて状況を確認すると、そこには男子部員を顔を腫らす姿が見えた。

 美智瑠は俺ではなく男子部員を叩いたのだ。


「何で……僕を叩く?」

「私の兄を侮辱ぶじょくしたからよ。私のことを一人の女性として見てくれるほど愛してくれる兄に暴言を吐く男性とはお付き合いしないので」


 急に男は美智瑠の見る態度が変わりその場から去って行った。

 一息漏らして俺の方に振り返り、向かってくる。


「美智瑠どうして……俺はてっきり……叩かれるのかと……」


 すると美智瑠は軽く俺の頭にチョップをし出した。


「当然お兄ちゃんも叩くよ。いきなり現れて妹の私に告白するんだからビックリしたよ。告白するんだったらもっと場所を選んでほしいな」

「……ごめん。でも俺の大好きな妹が誰かに盗られると思うと、いても立ってもいられなくて……」


 美智瑠は嘆息たんそくを漏らす。


「まあ、つばさ君はバレー部の部長でイケメンだから告白されたときは、その思いに答えようとは思ったけど、――だけど私の大好きなお兄ちゃんの悪口を言った途端なんだが無性に腹が立ったのよね。お兄ちゃんが来なかったら危うく人の悪口を言うような人と付き合うところだったよ、ありがとう」

「美智瑠」


 俺は美智瑠を見つめたら急に目を背けられた。


「それで……私のこと……好きって……ほんとなの?」


 バレー部男子には見せなかった塾れたリンゴのような頬で俺に片言かたことで話しかけてくる。


「ああ。もちろんだ。俺は美智瑠が大好きだ」

「それって――とかじゃないよね?」


 一瞬、美智瑠の目がギロリと俺に向けてきた。


「もちろん一人の女性として好きだ。だから付き合ってくれ」

「うれしい……私もね実はお兄ちゃんのこと好きだったの。でもね、私たちは兄妹だと自覚すると胸が痛くて」

「俺も同じだよ美智瑠のことばかり考えていると胸が痛むんだ。だから美智瑠とは喋らないようにしたんだ。これ以上好きにならないように」

「私も同じこと考えていた。ほんと私たち兄妹っておかしいね」

「いや、おかしくない。俺たちは実際

「どういうこと?」


 昨日の夜に両親から聞いたことを一字一句美智瑠に説明した。

 最初は涙を浮かべていた美智瑠だったが、次第に表情が明るくなっていった。


「――ということなんだ。美智瑠、俺たちは本当の兄妹じゃないから、お互い付き合うことができるんだ。それに本当の兄妹だったらここまでお互い好きになるわけないだろう」

「そうだね。最初は悲しかったけど、お兄ちゃんと堂々とお付き合いができるのはすごく嬉しい」

「俺もだよ美智瑠。愛している」

「うん。私も大好き」


 こうして体育館の裏にある桜の木の下でお互い兄妹としてではなく恋人として付き合うことになった。


 それからしばらくして、この桜の木では禁断の恋でもここで告白すると必ず芽生えるという謎の都市伝説が告げられるようになったのだった。

 

 

 

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マジで恋する5分前 関口 ジュリエッタ @sekiguchi

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