4 憶病な少女

「え?な、なに……?」


蓮の目の前いたのは四つん這いになっている一人の少女であった。

少女は困惑した表情で蓮を見ているが、蓮も同じく混乱している。


「何をしているんだ?」


蓮は沈黙を破って少女に尋ねると、少女はおびえた表情で言う。


「す、すみません!少し捜し物をしていて!すぐに行きますんで!」


少女は慌てて立ち上がり、その場を去ろうとすると蓮はそんな少女を止める。


「ちょっと待ってくれ!」

「ごめんなさい!許して下さい!」

「別に怒っているわけではないんだ。落ち着いてくれ」


 蓮は手にしていた短剣をしまって敵意がないことを表す

少女は未だにおびえた表情で蓮の方を見て、おそるおそる話しかけてくる。


「本当ですか?」

「ああ、本当だ。なんでここにいたのかだけ教えてくれないか?」

「じ、実はこの近くであるものをなくしてしまって、それを探していたんです……」


少女は泣きそうな顔でしゃべる。


「それはとても大切な物なんです。でもこのまえ近くを歩いていたら森の動物に取られてしまって……」

「そうだったのか。それじゃあ最近はこの辺りを君が歩いてのか?」

「はい……。もしかしたら近くに落ちているのかも知れないと思って」

「なるほどな」


蓮が今回の牧場の獣の正体に納得していると少女はもう一度謝罪をする。


「本当にごめんなさい。勝手に牧場に入ってしまって」

「大丈夫だ。別に俺は牧場の人間じゃないから怒ってないぞ」

「え?牧場の人じゃないんじゃないんですか?それじゃあ……」


蓮の言葉を聞いた瞬間、少女の顔が青ざめていく。


「もしかして警備隊の人ですか?不法侵入で私を捕まえに!」

「ちがう、ちがう。俺は冒険者だ。この牧場の人の依頼で監視をしていたんだ」

「それでも私を捕まえるんじゃ……」

「そこは大丈夫だと思う。今回の依頼は謎の獣の正体を探るという依頼だったから、獣じゃないのも分かって安全証明されから大丈夫だぞ」

「そうですか」


少女は捕まらないことを悟ったのか少しほっとした表情になる。


「それじゃあ俺は依頼の報告をしてくるから。これで」

「ちょっと待って下さい!」


獣の正体も分かった蓮は依頼主に報告するために依頼主の家に戻ろうとすると、少女は蓮を呼び止める。


「どうした?」

「わ、私も行って良いですか?やっぱり謝っておきたくて……」

「俺は構わないけど。もしかしたら本当に警備隊を呼ばれるかも知れないぞ」

「そ、それでもやっぱり私が悪いので謝っておきたくて」


少女は自信の無い声ではあるが、しっかりと自分の行いを謝ろうとした態度に蓮は感心する。そして蓮はやさしく少女に言う。


「ああ、それなら一緒に行くか。もしもの時は俺も頼んでみるし」

「ありがとうございます」


そして蓮は少女と共に牧場主の家に戻ることになった。


牧場主の家に戻った蓮は家のドアをノックする。少しすると家の中から牧場の娘が出てくる。


「もしかして獣の正体が分かってたんですか?あれ?その子は?」

「実は獣の正体は彼女でした。それで彼女が直接謝りたいということで」

「本当にごめんなさい……」


少女が謝っていると、牧場の娘はまだ状況が読み込めていないのか少し戸惑った表情で蓮と少女に言う。


「と、とにかく中にどうぞ……」


二人は家の中に招かれる。家に招かれた二人は改めて今回の出来事を牧場主と牧場の娘に話す。


「なるほど。無くした物を探していたと」

「……はい。勝手に牧場の方に入ってしまってご迷惑をおかけしてごめんなさい」

「彼女も悪気があったわけではないので許してやってくれませんか?」


謝る少女を見て牧場主は優しく語りかける。


「そうだったのか。それは大変だったね」

「怒らないんですか?ご迷惑をおかけしたのに」

「別に牧場を入った事なんて怒らないよ。勝手に入ってくる奴なんて普通にいるからね」

「そうだよ。勝手に入ってくる人なんて普通にいるからね」

「ありがとうございます」


牧場の二人の言葉に少女は小さく感謝を述べ、蓮もその様子を見てホッとする。

すると牧場の娘が明るい声で提案する。


「そうだ!せっかくだし、二人とも夕飯を食べていかない?」

「……え?そんなそこまでしてもらうのは悪いですよ」

「そうですよ」


遠慮する蓮と少女に牧場の娘は明るくしゃべる。


「でも夜も遅いしおなかもすいてるでしょ?それにみんなで食べた方が楽しいしね。おじいちゃん、良いでしょ?」

「ワシはかまわないよ。二人とも食べていきなさい」

「そ、それじゃあ……」


彼らの好意を無下にする事も出来なく二人は夕飯を食べることになった。


牧場の娘が作った夕飯が運ばれる。


「さあ、召し上がれ」

「いただきます」


蓮と少女は夕飯を牧場の二人と共に食べ始める。食事の途中、牧場の娘が少女に話しかけてきた。


「そういえば、無くしたものを探しているとは言っていたけど何をなくしちゃったの?」

「そういえば、俺も聞いてなかったな」

「じ、実は短剣を無くしてしまったんです」

「短剣?」

「はい。その短剣はお父さんからもらった思い出の短剣なんです」

「どんな奴?もしかしたらこの辺りに落ちているかも知れないし、特徴を教えてくれない?」

「はい、えっとですね。その短剣は普通の短剣とは少し違って魔法が宿った短剣なんです」

「……?」


少女は短剣の特徴を話し続ける。牧場の娘は特徴をメモに取っていく。


「うんうん。他には?鞘に装飾があるのが特徴ですね」

「なるほどね」

「なあ。それってもしかして刀身に模様とか入ってたか?」


蓮は少女に尋ねると少女は少し驚いた様子で頷く。


「は、はい。そうです!」


蓮はカバンの中からこの前拾った短剣を取り出す。


「もしかしてこんなやつか?」

「似てる!というかそれー!」

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