3 牧場にて
牧場主の家に着いた蓮はドアの前から家の中に向かって声を掛ける
「すいませーん」
「誰だい?」
家の中から声が聞こえたかと思うとドアが開かれて作業着に身を包んだ老人が蓮の前に現われた。
「こんなところに何の用だ?」
「この牧場の夜間警備の依頼で来ました」
蓮は依頼の紙を老人に渡すと、老人も蓮が冒険者だと言うことを理解したようだ。
「ああ。あんたも依頼を受けてくれたのか。人手が足りなくて困っていたんだよ」
「ここはあなたが一人でやられているんですか?」
「いいや、孫娘とだよ。いつもは孫娘がわしの代わりに夜の見回りをしてくれているんだが、最近獣が出てきて家畜を襲うから危なくてな。依頼を出したんだよ」
「そうだったんですか。それでお孫さんはどちらに?」
蓮は辺りを見渡すが、老人の言う孫娘の姿は見えない。
「あの子は今は牧場の方にいるはずだ。依頼の事は伝えてあるから話はあの子から聞いてもらえないか?わしは少しやることがあって手が離せないのでな」
「分かりました」
そして蓮は孫娘を探しに牧場の方に向かう。
牧場の中を歩いて行くと、牧場には羊や牛などの家畜がのんびりと時間を過ごしている。
蓮はそんな牧場の光景を眺めながら孫娘を探していると、向こうに人影があるのに気づく。
「もしかしてあの人か?」
蓮はその人影の方に近づいていくと、顔は後ろを向いていて見え無いが長くきれいな青い髪が風になびいている。
「あのーすいません」
「はい、何でしょうか?」
蓮が声を掛けると振り返ったその人は女性であった。年齢は蓮と同じくらいかそれとも蓮よりも少し年下くらいだ。
「実は牧場の監視の依頼で来たんですけど」
「ああ!冒険者の方ですか。来てくれてありがとうございます。獣が出るのはさすがに怖くって」
「それでさっきおじいさんの方に言ったらあなたから名前を聞いてと言われたんですけど、状況とか教えてもらえますか?」
「良いですよ。その前に家畜を全部小屋の方に移動させたいので家畜たちを移動させながらでも大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ」
そして牧場の娘は家畜たちを小屋の方に誘導しながら蓮に今回の依頼について話をする。
「数日前に見つけたんですが、いつものように家畜をよ小屋に誘導しようと思っていたら足跡を見つけたんですけど、よく牧場の中を森の動物が通ることはあるので最初は特に何も問題ないと思っていたんです。だけど……」
牧場の娘は牧場の横にある森を見る。
「この前の夜、牧場を歩いていたらいたんです」
「何がいたんですか?」
牧場の娘は初めて目撃した時の様子を思い出しながら喋る。
「私も夜のせいであたりが暗くて良くは見えなかったんですけど、見た目は四足歩行でした」
「四足歩行だとしたら狼とかか?」
「さあ……?でも、鳴き声は呻き声みたいな声でしたよ」
「呻き声ねえ……」
蓮は何か当てはまるものがいないか思い出してみるが、これといったものが出てこない。
「他に何か特徴はあります?」
「他にですか…… いえ、特にないですね」
「分かりました。それじゃあこの牧場あたりで見張らしてもいいですか?」
「全然大丈夫です。よろしくお願いします」
そして夜が訪れて蓮はランプを片手に牧場をじっと見渡していた。
「今のところは特になしか」
牧場を見渡すが辺りには光がなく一面真っ暗な闇の中であるだけで特に変わった様子はない。
「とりあえずここでじっとしていてもしょうがない。少し歩いてみて探してみるか」
蓮は一度牧場を一周回るように歩きながら巡回を始めた。
あたりには蓮が持つランプの明かりしかなく、周りは暗闇に包まれておりすぐ先の様子すら見ることが出来ない。
「こういう時の索敵魔法が使えたら楽なのに……」
蓮は愚痴よこぼしながら歩いていく。
「なくした俺が悪いからないも言えないだけとな」
蓮は周りを注意深く見渡しながら進んでいく。
その時であった。蓮の耳に一つの音が聞こえてくる。
「何か聞こえる。これは……鳴き声か?」
蓮は耳を澄まして聞こえてくる音に耳を傾ける。
「ウウ……ウ……」
その声は牧場の娘が言っていたように確かに呻き声のような声であった。
「森の方から聞こえてくるな」
うめき声のような鳴き声は森の方から聞こえてくる。
蓮は十分に警戒しながらゆっくりと声のする森の中に進んでいく。
「ウウ、ウ……」
森の中に進むにつれて、聞こえてくる声の大きさも徐々に大きくなっていく。
「あそこか……」
蓮は木の陰に隠れながら呻き声の正体を観察する。呻き声を放つ何かは四足歩行のシルエッしか分からなく、姿自体は暗闇のせいでよく見えない。
(何をしているんだ?)
蓮が様子を観察していると、それは前足を動かしながらあたりをウロウロとしている。
(正体は何か分からないが、とにかくあれが最近牧場に現れた獣で間違いなさそうだな。あれが後ろを向いたら一気やるか)
蓮は獣がこちらに背を向ける機会をじっと待つ。
(今だ!)
そして獣がこちらに背を向けた瞬間蓮は飛び出した。
蓮は短剣を飛び出し際に取り出しながら獣に向かって短剣を突き立てようとする。
しかし蓮は短剣を目の前に獣には刺しはしなかった。否、獣なんて目の前にはいなかったのだ。そこにいたのは……
「え?な、なに……?」
蓮の目の前いたのは四つん這いになっている一人の少女であった。
後書き編集
楽しんでもらえたら嬉しいです。
明日も投稿します。良かったら見てください
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