4 マジでやばいかもしれない

蓮は花畑でも魔物を退治したあと村を後にして王国に戻っていた。


「まずは賢者のじいさんに聞かないと」


王国には賢者との通信の手段がある。まずはそれで賢者に今回の事を聞こうと蓮は考える。


蓮はユーリにもらった通行手形を使って城の中に入る。まずはユーリにこのことを説明して使わせてもらおう。


蓮はドアの執務室の扉をノックして中に入る。執務室の中にはこの前と同じようにユーリは書類の山と向き合っている。


「あれ?レンじゃないか?思っていたよりも早く来たな」


「あ、ああ・・・。じ、じつはな」


「どうしたんだ?」


蓮はユーリに武器がなかった事を話し始める。話し終えるとユーリは口をあんぐりと開けてあっけにとられている。


「な、なくした?」


「ああ・・・」


「中に入っているだけで見つからなかったとかじゃないのか?」


「俺だってそう思って探したんだけど無かったんだよ」


「マジで?」


「マジで」


「うそだろ・・・。神様からもらった武器だろ。手元に帰るとかはないのか」


「それがないんだよな。そんなのはあったらこんな困ることはないわ」


「本当にどうすんだ?」


ユーリは手で顔を覆っている。まさかの状況に理解が追いついていないようだ。


「と、とにかくここに来たのはどうしてだ?ただ言いに来ただけじゃないだろ?」


「ああ。多分落としたと考えれるのが賢者のじいさんのところでな。ここなら賢者のじいさんに連絡を取る事が出来るだろ?」


「賢者様か。確かにここなら出来るな。それなら魔導玉持ってくるからちょっと待っておいてくれ」


「本当に助かる」


ユーリはそして部屋を出て行って魔導玉を取りに行ってくれる。

国王だと言うのにこうやって取りに行ってくれて、王みたいな傲慢さがまったく感じられない。本当に王っぽくないけどこっちの方がこっちも気が楽なんだよな。


しばらく持っているとユーリが自分の手に魔導玉を持って部屋に戻ってくる。


「ほら、持ってきたぞ」


「ありがとう。それにしても持ってきてもらわないんだよな」


俺が冗談めかしてユーリに言うと、ユーリはどうしてだと言いたげな顔で話す。


「持ってきてもらうよりも俺が持ってきた方が早いだろ。他のみんなもやることはたくさんあるんだから」


「本当に出来た王様なことで」


「黙ったとけ。ほら、早く賢者様に連絡しろ」


「ああ、そうだな。それじゃあ使わせてもらうぞ」


蓮は魔導玉に魔力を送り込んで、賢者と通話をつなぐ。魔導玉が光って賢者が通信に出るのを待つ。


すると魔導玉の光の点滅が終わり、魔導玉の中に賢者のじいさんの顔が出てくる。


「突然、わしに連絡するなんてどうしました?」


「よう、じいさん」


「ん?レンじゃないか。どうして王宮の魔導玉にお前が出ているんだ?」


「実は少し賢者のじいさんに聞きたいことがあって借りているんだ」


「ほう。それで何を聞きたいんだ?」


「実はな・・・」


蓮は賢者のじいさんに武器がなくなった事を伝える。


「おい、本当に言っているのか?」


賢者のじいさんも同じようにこめかみを抑えて、蓮のことをあわれなものを見る目で見てくる。


「そんな目で見ないでくれ。心にダメージくるから」


「どこで落としたのかは分かっているのか?」


「考えられるのはじいさんの家か転移魔法のトンネルの中なんだよな。他でカバンを開いた覚えもないから」


「わしに家にはそんなものは見てないぞ。そうだとしたらトンネルの中か・・・。それだとかなりやっかいだぞ」


賢者はうなりながらそう呟く。


「もしかして武器が消えるとかか?」


蓮は最悪の展開を考えてしまい、賢者に尋ねるとじいさんは蓮の言葉に賢者は首を横にふる。どうやら消える訳ではなさそうだ。まずはそれで安心した。


「消える訳ではないがな。あの転移魔法は空間の距離を縮める魔法だ。もしトンネルの中で何かを落としたら、それはトンネルの次元の狭間に取り込まれる」


「それじゃあ消えているのと一緒じゃないのか?」


「違う。あくまで縮めた空間の間に挟まっているだけだ。転移魔法の発動が終わったら縮まっていた空間は元に戻る。そうしたら武器も出るはずだ」


「そうか。それなら見つけられそうだな」


「そこが問題なのだ。縮み込まれた空間が元の空間に戻ったときにはさまっていた物質はこちらの世界に現われるが、その出現場所はランダムになってしまうのだ」


「それじゃあどこに出るのか分からないのか?」


「そのとおりだ、レン。お前は武器の場所が分かるとかはないのか?」


「分からないな…」


今まで武器が手元から離れるという事が一回もなかった。なので、武器が近くにあって何か感じるなどの感覚は一つも知らない。


「そうか・・・。とにかくすぐに武器を探すことにしろ。武器が誰かの手に渡ったら危険だ」


「いや、それは大丈夫だ」


蓮は賢者にそう告げる。


「どうしてだ?」


「あの武器は所有者が設定されているからな。所有者以外が使うのは無理だぞ」


「そんなの信用できるか」


賢者は蓮の発言を一蹴する。そして蓮に告げる。


「所有者が決まっている武器だと?そんな物、魔法でどうとでもなるはずだ。神が言ったのかも知れないが信じない方が良いぞ。とにかく早く見つけるんだ。わしの方でも探しておくからまた何かあったら連絡する」


「分かった。ありがとう、じいさん」


そして賢者が通信を切ると魔導玉の光が消える。


「本当に早く見つけないとな」

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