路傍のふたり
17時きっかりに終わるはずの仕事が長引いた上に、オフィスの化粧ルームが混んでいて、つい化粧に手間取ってしまった。
(あのヒト、怒ってないかなあ)
まだ知り合って半年も
年齢はわからないし、本人も言わない。
どうやら、極端に人見知りするタイプのようだった。口数も少ないし、余計なことは一切言わない。
(このヒト、コミュ障かなあ)
でも、それでもいい。やたらと自分の才能をひけらかすウェブ作家の連中よりはマシだと、未知子はおもった。
それに。
趣味の小説を書き出して、もうすぐ一年。あまり文学作品を読んだことのない未知子は、創作のイロハもわからず、小説投稿サイトに登録して、いろんな作品やエッセイを読んで、それなりにいい刺激になった。
(カレのことを書きたい!)
会ったとき、すぐ、そう思った。最初は興味本位だった。
創作のネタになる、とはしゃいだものだ。
それに。
悪いヒトではないようだった。
素直にそう思えた。
もちろん、恋愛の対象には、ならないともおもった。
(だって、カレ、変わってるから!)
たから、取材対象として、橋のたもとでのデートを重ねた。
ほとんど喋らない日もあった。
それはそれでいい。
週に何回か、カレと会ううちに、その行為そのものが楽しくなった。化粧するたびに、お肌のチェックをする様子をみて、同僚からも、
「最近、キレイになったね」
と、よく言われるようになった。
「恋をすると肌がきれいになるのよ。今度、紹介して!」
同僚は未知子にそう言うけれど、うかつに紹介することはできない。
未知子のカレには秘密があるから。
でも。
未知子は、そんなことを言われる自分が嬉しい。
それに。
この同僚の言葉をカレに告げたとき、こっくりと大きくうなづいてくれた。
嬉しかった。
どんな言葉よりも、未知子は嬉しかった┅┅。
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