対岸のカノジョ

 男は、少年たちがたむろしていることに気づいた。

 一体、誰を待ち伏せしているのだろう。咄嗟とっさに首を伸ばしてみた。でも、伸びない。ろくろ首じゃないのだから。


「あ!」


 思いついた自分の冗談に吹き出す前に、が橋の向こう岸を歩いてくるのが見えた。

 そのすぐ前を、もう一人、知らない女が寄り添うようにして歩いていた。

 少年たちが待ち伏せしているのは、なのか、と男は首をかしげた。


 今日こそはに告白しよう、と男は決めていた。


 いつもはやさしく接してくれる。

 それはそれでいい。

 無口で陰気で人見知りな自分でも、はいつも、やさしく微笑みかけてくれる。

 おそらく、誰に対しても優しいのだろうと、男は思っていた。

 お喋り好きのは、こちらがフンフンと耳を傾けているだけで、幸せな気分を味わうことができるタイプなんだろう。

 でも、他の大勢の男のなかの一人でいるのは、なんとも妙な気分だ。あまりにも情けない、みじめで、胸のなかに時限爆弾を抱えているようで、それこそ、これでは身が持たない・・・・。

 この際、自分だけのでいてほしい。と、男はおもう。 

 自分だけのになって欲しいと・・・・。

 十中八九、フラれることは覚悟の上だった。

 でも。

 こんな想いを持ち続けたままなら、撃沈したほうがよっぽどスッキリするはずだ・・・・。


 男はそんなことを考えながら、がやってくるのを待っていた。

 けれども。

 少年たちは誰を待ち構えているのだろうか。に災いが及ばないか、そのことが心配で心配でたまらない・・・・。

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