『縮んだ二人の距離』





 四乃宮可憐は部活を辞めたことに関して先輩たちから呼び出しをくらっていた。


「辞める時は喜んでたのに今頃になって呼び出しってなんなの...」


 可憐はバトミントン部で、部の中ではとても優秀で褒められることが多かった。


 それも他の先輩方より顧問の先生に褒められることが気に食わなかったのかいじめられるようになった。


 最初は陰口程度の軽いものだったが無視を貫き通すといじめがエスカレートしていった。


 持ってきたはずの部活道具が無くなっているのだ、朝早くから来て朝練をし、放課後まで部活道具は部室に保管される。


 部室の鍵は部長、もしくは副部長が管理しているため、どちらかの犯行なのは分かっていたが親にも迷惑をかけるのは気が引けたのでその日は部活道具を忘れたことにし学校中を探し見つけることにした。


 結果、見つかったがボロボロになっていた。


 次の日から私の部活に対するやる気、学校へ行こうという気持ちは無くなった。


 それはそうでしょう?普通に過ごしていただけなのに私がこんなことされるなんて思ってもいなかった。



 ◇



 ある日学校をサボり人通りの少ないところで座り込んでいた。


 涙が出そうになっていた、何故私にこんなことをしてくるのだろうか、口では強がれるが結局心は弱いと感じさせられていた。


「どうしたの?」


 貴方と出会うまではこの先もずっとこうなると思っていた。


 たった一日貴方といただけで次の日からは学校へ行こうと思えるようになった。


 多少イラついた部分はあったがそれでも彼は良い人だった。

 私に何か嫌なことがあるとわかっても聞くことは無かった彼なりに色々考えた結果がこういう事だったというのならそれはきっと正しい行動だったと思う。


 私としても貴方を巻き込みたいとは思わなかった。


 普通いじめられてたりしていたら周りの人は近づきたがらない。

 それが普通だし、私もきっと近づきたがらない人側なのだろうと思う。


 彼はそんなこと気にしないタイプの人だ、聞く話によれば良く寝ていてその場の空気はあまり読めていないらしいがいじめられている側からすれば唯一の救いだとも言えるだろう。


「ちょっと聞いてるの?あんた調子乗って部活辞めたみたいだけど、部長が...「結構です」は?」


「結構です。わざわざ辞めた部活の部室に行く必要が無いので」


「あんたねぇ、調子乗ってると部長にまたボコられるわよ?」


 この下っ端の様な女は石川忍(いしかわしのぶ)先輩だ、二年の先輩で私を呼び出すだけの人。


 この人は面倒事を避けてるので私を呼び出してさっさと連れていきたいだけだろう。


「部長に言っておいてください。貴方なんかの所にお呼ばれする筋合いはありませんので貴方が来てみてはどうですか?と」


 それだけ言い私はその場を後にした。



 ◇



「心配して損しました」


 廊下を歩いて階段を降りようとしたら横から声をかけられた。


「聞いてたのね...」


「丁度委員会が遅くなったので帰ろうとしたら"たまたま"通りかかりました」


「そう、せっかくだから一緒に帰る?」


 先程まで石川先輩強気で、出ていたが本当は緊張しまくっていた。


「せっかくですので一緒に帰ります。可憐さん」


 予想外の返事だった、断られるかと思っていたし、いきなりの可憐さんと下の名前で呼んでくれた。


 少し嬉しいがそれを口にする必要はないと思った。


「心配したのが損だった気がします...」


 ボソリと何か言った気がしたがそんなこと私の耳に届くことは無かった。


「それじゃあ帰りましょう、天音さん?」




 私たちの距離は少し近づいた気がした。





 ◇



「は?あんた何言ってるか分かってるの?」


「は、はい...」


「私は四乃宮可憐を、ここに連れて来いって言ったの、理解できないの?」


「つ、次は必ず連れてきます」


 部長鈴原奏(すずはらかなで)は自分より褒められていた可憐が気に食わなかった。


 自分がいない間に勝手に辞めていったことも許せなかった。


「あ、それと四乃宮可憐の近くに男がいたのを見かけた部員が...」


「男?」


「確か、神山愁という男だった気がします」


 鈴原の矛先は愁に向かっていく。




(あとがき)



天音「それより、可憐さんはいじめられてたんですね、どこで愁さんと会ったんですか?」


可憐「え?彼から聞いてないの?」


天音「聞いてません、というかそういうのはあまり聞けません」


可憐「それなら天音さんにはまだ秘密ね」


天音「少し距離が近づいたからって調子乗らないでください」


可憐「ズカズカ聞きに来たのはそっちよね?」

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