『眠気が飛んで行った』



 翌日、案の定寝坊しかけた。


 俺としては当たり前なのだがゴリラに怒られるのだけは面倒だ。


 足早に学校へ向かおうと玄関を開けると「おはようございます」と声が聞こえた。


「おはよう...って、え!?」


 そこに居たのは氷翠(ひすい)さんだった。


「どうしてここに?という顔をしてますが、昨日のうちにBさんに聞いておきました」


「凄い行動力だな...」


 氷翠さんの行動力は凄いと思ったが昨日は行かないことにしたらしい、どうやら学校での用事が遅くなり俺の家に行く時間がなかったとのことだった。


「昨日風邪と聞いたのですが、体調は良さそうですね」


「まぁ...ね」


 俺の方をジッと見つめてからそういうが反応に困る。


 理由としてはただのサボりだからだ。

 と言っても氷翠さんにその事を言うつもりは無い。


「今日は金曜日なんですから頑張ってください。特に愁さんは寝ることが多いので...」


「まぁ寒いし眠いし、冬は冬眠したいよ」


「冬の間会えなくなるのは嫌なので冬眠はしないでください」


 無駄に行動力がある俺は本当に冬眠するかもと思われたのだろう。

 それより、もうちょっと離れてくれないかな?近いんだけど...。


「ちょっと、近くない?」


「気のせいです、適切な距離感だと思います」


「そう?ならいいけど...」


 近い気がするのだが、隣からふわっとした香りが余計に意識させられる。


 さっさと学校に着かないかな...と思ってしまう。



 ◇



 昇降口にて、少し目立っている。

 もちろん遅刻ギリギリ...という訳ではなく氷翠さんと俺が登校してきたからだろう。


「よう、愁朝から目立ってるな」


「佐々木か...」


 いきなり声をかけてきたので振り向くと佐々木だった、相変わらず元気そうな顔をしている。


「なんだよ愁、俺の顔見た途端ガッカリするなよ!」


「いや、そんなことないけど...」


 俺が気にしているのは昨日の四乃宮可憐(しのみやかれん)についてだった。


 多分今日くらいは来てくれるだろうと思うがどうなのか実際には分からない。

 そうだとしても、来ている気がする。


「それにしても氷翠さんと一緒に登校とはお熱いですなぁ〜?」


 ニヤニヤしながら言ってくるがお前が俺の家を教えたからこうなってるんだよ...。


「Bさん、何ニヤけてるんですか...」


「Bさん?え!?それって俺!?」


「そうだった、B定食さんからBさんに昇格させといたぞ!優しいだろ?」


「どこがだよ!愁、せめて佐々木さんくらいまで昇格させとこうぜ?」


「俺にはそんな器用なこと無理だった...」


「諦めるんじゃねぇえええ!」


 佐々木の声が響くが、誰も無視。

 当たり前だ、佐々木はクラスでも騒ぎまくるお調子者だからこれくらいは日常茶飯事、皆慣れてしまってる。


「めっちゃうるさい、眠気飛んだかも...」


 うるさいので本当に眠気が飛んで行った気がする。


「Bさん学校では静かにするべきです」


 俺たち三人はゆっくりと教室へ入っていった。



 ◇



「貴方が来いって言ったから来たのに...こっちには気づかないじゃない」


 そこには一人ぽつんと四乃宮可憐が神山愁の後ろ姿を眺めていた。


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